番外編 フォロンダ公爵と過去のマジックアイテム
アマリが持ってきた書類を確認し、溜め息を吐く。
「だから言ったではないですか。解体は無理だと思うって」
アマリを見ると、呆れた表情で俺を見ていた。
「はぁ、教会と戦うために作った組織だから、いずれ解体するつもりだったのに。まさか王命が出るとはな」
もう一度、書類を見る。
内容は、俺が管理している組織を王直属の外部組織にするという命令だった。
仕事内容は、問題を抱える貴族や、問題を起こしそうな貴族の監視。
そのほか、各村や町に潜む犯罪組織の把握。
「今までと仕事内容は変わりませんね」
アマリの言葉に頷く。
「そうだな。ただ、組織に名前を付けろと書いてある」
教会に、組織の全体像を知られないためにあえて名前は付けなかった。
まさか今さら、名前を付ける事になるとは思わなかった。
「どんな名前にしますか?」
「どうしようかな。はぁ、考えるのが面倒だ」
「そういえば、今の話し方で統一するんですか? 前はもう少し落ち着いた雰囲気でしたけど」
アマリを見ると、不思議そうな顔でこちらを見ていた。
「正直、本来の俺がどんな話し方だったのか、もう覚えていないんだ」
教会と戦うため、いくつもの俺を演じてきた。
貴族達が集まる場所では、傲慢な貴族に見えるように振る舞い、また、別の時には権力にすがる貴族のように振る舞った。
いろいろと演じるうちに、どれが本当の自分なのか分からなくなった。
「長かったですからね」
「そうだな」
父が教会から送り込まれた暗殺者に殺され、急遽俺が組織全体を管理する事になった。
組織のトップは別にいるが、実際に組織を動かしていたのは父さんだったから、後を引き継ぐのは大変だった。
コンコンコン。
扉を叩く音がして、アマリが執務室の扉を開けて確認する。
「上位冒険者フォダ様がいらっしゃいました」
「入れ」
「はい」
ソファに座っている俺の傍に来て、深く頭を下げるフォダ。
「フォロンダ公爵様。お久しぶりです」
「この執務室は完全に防音だから、いつも通りでいいぞ。フォダに丁寧に話されると、ぞっとする」
ソファを勧めると、少し不貞腐れた表情で座る。
「父さん、それは酷くないか?」
死んだ筈の俺の息子。
本名はフォトリダ。
今は、上位冒険者のフォダと名乗っている。
「お前、また体がデカくなったのではないか?」
フォダを見て、首を傾げる。
会う度に、体がごつくなっている気がする。
「毎日、鍛えているからな」
フォダが笑いながら、一枚の書類を差し出す。
「どうだった?」
「洞窟の中にあったのは、人工的に作られた魔物を強制的に強化するマジックアイテムだった。間違いなく戦時中に作られたものだ。まさか土の中に残っているとは思わなかった」
セイゼルクから受け取った巨大な魔物。
そして、その魔物の傍で見つけた黒い壁の洞窟。
俺はすぐに、フォダの属しているチームに調査を依頼した。
「去年、あの辺りは雨が酷く土砂崩れの報告があった。おそらく、そのせいで土の中で眠っていたマジックアイテムが目覚めたんだろうな」
フォダがアマリからお茶を受け取り、おいしそうに飲む。
「そのマジックアイテムの動きを止められそうか? あるいは解体出来そうか?」
俺を見て、首を横に振るフォダ。
「難しい。マジックアイテムに詳しい者も連れて行ったが、構造がまったく分からないと言っていた」
過去の戦争で使われた、マジックアイテム。
魔物からドロップした物ではなく、人工的に作られた武器。
当時は今よりもかなり技術が進んでいたようで、今いる者達では解体は命がけになる。
それでも、あれをそのままにしておく事は出来ない。
「そうか。悪いが、安全に解体出来る方法がないか、もう少し詳しく調べてほしい」
「分かった。あぁそうだ、姉さんから連絡があった」
「どの姉さんだ?」
俺には血の繋がった娘はいない。
いるのは、兄の娘と、妹の娘だ。
兄も妹も死んだ事になっているから、俺が養子に迎えたんだよな。
「ルーダ姉さんから」
「何かあったのか?」
ルーダは冒険者として、捨てられた大地の監視についてもらっている。
最近の状況からして、良い知らせは期待できない。
「結界の一部がいきなり崩壊。魔物が数匹、飛び出してきたそうだ」
「怪我は?」
王の戴冠式やパレードの準備で忙しかったせいで、その報告を見逃してしまったのか?
「落ち着いて、大丈夫だ。怪我はしたけど、キラキラ光るポーション? そんなポーションは見た事がないけど、そのおかげで死者は出なかったそうだ」
「そうか」
またアイビーに助けられたな。
「キラキラ光るポーションって、少し前に噂になったやつだよな? 噂を聞いた時は、教会の連中か貴族を釣るための餌だと思ったけど、本当にあるのか?」
「あぁ、ある。そうだ、フォダとお前の仲間にも渡しておくよ」
アマリを見ると彼女は頷き、すぐにキラキラ光るポーションを5本持ってきた。
「本当に光っているんだな。凄い」
「大怪我をしても、1本まるごと飲む必要はない」
「はっ?」
不思議そうに俺を見るフォダ。
「瀕死でも、スプーン1杯程度で十分だ」
「それ、本気で言っているのか?」
信じられないのか、不審そうな目で俺を見るフォダ。
「本気だ」
「そうか」
光ポーションを翳してみるフォダ。
「これを、作ったのは誰だ?」
「さぁな、誰かな」
俺の態度を見て、肩を竦めるフォダ。
「あっ、報告書に書こうか迷った事があったんだった」
「なんだ?」
報告書という事は、黒い壁の洞窟の事だな。
「洞窟の周辺を調査している時に、白地に黒い斑点のあるスライムを一〇匹以上見かけたんだ」
白地に黒い斑点?
「黒いスライムは魔法陣を無効化するから、手を出すなって言っていただろう?」
「あぁ」
「白地に黒い斑点のスライムはどうすればいい? なぜか洞窟の周辺に集まっているように見えたんだけど」
アイビーと一緒にいる黒のスライムが魔法陣を無効化するという情報を聞き、各地で見つかった黒のスライムには手を出さず、行動を見守るように指示を出した。
そして、黒いスライムが集まっている場所には必ず魔法陣があり、魔法陣を無効化していることが確認できた。
洞窟に集まる白地に黒い斑点のスライム。
もしかしたら、問題のマジックアイテムを解体してくれるのではないかと期待がよぎる。
でも、魔物を強化するマジックアイテムだから、近付けていいのか判断が難しい。
「もしも何かあれば、すぐに対処出来るようにはしておくぞ」
フォダを見ると、しっかりと頷いた。
「ありがとう。それなら、スライムが洞窟に入ろうとしたら見守ってほしい。ただし、危険だと感じたらすぐに討伐してくれ」
「分かった」
「そうだ、フォダ様」
不意にアマリがフォダに声を掛ける。
「何?」
「主人の管理する組織が、王直属の外部組織になる事が決まったんです」
アマリの言葉に、フォダが俺を見ておかしそうに笑う。
「ははは。解体してやるって言ってたのに、残念だな」
笑っているフォダを睨む。
「それで、組織名を決めないといけないんですが、何か案はありませんか?」
「名前か」
フォダが悩んでいる様子を見る。
「父さんも考えろよ」
「考えても思いつかなかった」
「諦めるのが早過ぎる。うーん、でも何も思い浮かばないな」
名前なんて、なんでもいい。
どうせ組織は隠すつもりなのだから。
「あっ、悪い。予定があったんだ。そろそろ行くよ。名前は次に会うときまでに考えておくから」
フォダがソファから立ち上がる。
「気を付けて」
過去のマジックアイテムは、本当に厄介だからな。
「分かった。また報告に来るから」
「頼む」
フォダを見送ってから、背もたれに体を預ける。
「お疲れですね」
アマリをチラッと見て笑う。
「そうだな。でも、今日からは少しゆっくり休めそうだ」
「戴冠式前に問題を起こした貴族の処分は、すべて決まったんですか?」
「そうだ」
戴冠式をすると決まってから、本当に長かった。
まさか、これほど愚かな貴族が多いとは思わなかった。
せっかく教会に巻き込まれずに生き残れたのだから、少しはおとなしくしていればよかったのに。
「お疲れさまです」
「アマリも、お疲れさま」
問題はまだ残っているが、とりあえず貴族達が起こした問題は解決した。
少しだけ、ゆっくり休もう。
「最弱テイマー」を読んで頂きありがとうございます。
本日の番外編で「王都と戴冠式」の章が完結いたします。
すみません、次の章に入るまで少し更新をお休みします。
仕事を終わらせます!
なるべく早く再開出来るように頑張りますので、次の章もどうぞよろしくお願いいたします。
ほのぼのる500




