1026話 今日はお祝い
「それより、彼女が次のリーダーになることはもう決まったのか?」
お父さんがセイゼルクさんとランカさんを見る。
「あぁ、そのつもりだ」
「私もそのつもりだけど、皆の判断に任せるわ」
セイゼルクさんは頷いたが、ランカさんはラットルアさんたちのほうを見た。
「俺は別に問題ない」
「俺も」
ヌーガさんとシファルさんは賛成のようだ。
「俺も問題ない。ただし、頼むから無謀な依頼だけは受けるなよ」
ラットルアさんも賛成しているようだけど、少し心配している様子だ。
「大丈夫よ! 私が『いける』と思った依頼しか受けないから」
「それが逆に問題なんだけどな」
ランカさんの宣言に、シファルさんが笑う。
「絶対に『やばい仕事』が増えるぞ」
ラットルアさんがランカさんを見て、溜め息を吐いた。
「簡単に決まったな」
お父さんが不思議そうな顔でセイゼルクさん達を見る。
「お父さん? どうしたの?」
お父さんが私を見る。
「リーダーを決める時は揉める事が多いんだ。時には争いが激しくなって、殺傷沙汰になる事もあるくらいだ」
えっ、そんなに大ごとになるの?
「昔の約束があるからな。その時は、リーダーとして迎えるとは言っていなかったが」
セイゼルクさんの言葉に、お父さんが視線を向ける。
「約束?」
「あぁ『全ての事が解決したら、俺達の所に戻ってこい』と、ランカが王都に向かう時に約束したんだ」
ランカさんがセイゼルクさんを見る。
「あれは約束というより、一方的な宣言だったわ。でもまぁ、その言葉があったからやり遂げる事が出来たんだけどね」
「そうなのか?」
ラットルアさんが首を傾げる。
「うん。帰る場所、待っていてくれる人がいるって力になるのよ」
ランカさんの言葉に、セイゼルクさん達が穏やかに笑う。
「いい関係だな」
お父さんを見て頷く。
「そうだね」
「ごほっ。それより、真剣な表情で絵を見ていたけど、どうしたの? 何か気になる事でもあったの?」
少し頬を染めたランカさんが、私達が見ていた絵を見る。
「冒険者ギルドの職員だったランカなら、この絵が飾られている理由を知っているか?」
「この風景画が飾られている理由?」
セイゼルクさんを見て首を傾げるランカさん。
「あぁ。そうだ」
「前にギルマスが、『すべての風景画には、問題が起こった場所とその原因が描かれている』と言っていたけど、何か見つけたの?」
ランカさんが、魔法陣の描かれている絵を見る。
「特に気になる物は描かれていないわよね?」
ランカさんは魔法陣を見つけられなかったみたいだ。
「ここ」
シファルさんが、魔法陣が描かれている場所を指す。
「えっ、嘘。ギルマスの言っていた事は本当だったんだ。つまり、他の絵にも何か描かれているって事よね? ギルマスに話を聞いた時、数枚の絵を見たけど見つけられなかったのに」
他の絵にも何かが描かれているんだ。
それは気になる。
「見に行くか?」
少しそわそわしていると、お父さんが笑う。
「うん。見たい」
「俺も気になる。アイビー、行こう」
ラットルアさんが私の手を取ると、駆け足で次の風景画のところへ向かう。
「何が描かれていると思う?」
「問題が起こった原因だから、さっきと同じだと思うけど」
私の言葉に、ラットルアさんが頷く。
「どっちが先に見つけるか勝負しよう」
「楽しそう。いいよ」
風景画の前に来ると、絵の全体を見る。
パッと見ただけでは見つからなかったため、細かいところまでよく探していく。
「あれ? ないな」
ラットルアさんの呟きに頷く。
「ないね」
魔法陣ではないのかな?
でも、それだったら何?
「これだろう」
私の隣に来たお父さんが、ある場所を指す。
「「あっ」」
私とラットルアさんの声が重なる。
それを見てお父さんが首をかしげる
「どうした?」
「ドルイド、勝負中だったんだ」
「悪い。知らなかった」
「これはなんだろう?」
お父さんが指した場所は、絵の左下。
そこには崖が描かれていて、その崖には箱のようなものが埋まっていた。
「見つけたのか」
セイゼルクさんを見て頷くと、お父さんが見つけた物を指す。
「これなんだけど、何かわからなくて」
「崖に埋まっているように見えるけど、崖の一部が崩れているから。崖崩れのせいで、土の中から出てきたのかもしれないな」
シファルさんが、崩れている崖の一部を指す。
「本当だ、気付かなかった」
埋まっている物ばかり見ていたから、気付かなかったんだね。
「これ、かなり大きくないか? 隣にある木、森によく見かける大木だと思う。その大木の幅より大きいぞ」
セイゼルクさんが指した木を見る。
確かに、木の特徴から森でよく見る大木だと思う。
その大木の横幅より、気になる物のほうが大きい。
「どうしてこんな絵が飾ってあるんだろうな。ここから見ても5枚はあるな」
お父さんがギルド内を見回す。
「意味があるとは思うが……」
セイゼルクさんもギルド内を見る。
「気になるなら聞いておこうか?」
ランカさんを見ると、真剣な表情で絵を見ていた。
「ギルマスに最後の挨拶に行ったら、用事で出かけていていなかったの。だからまた明日、挨拶に行くつもりだったのよ。その時に、飾ってある理由を聞けるわ。私も気になるしね」
ランカさんが、セイゼルクさんに視線を向ける。
「それなら頼むよ。さすがにこれは気になる」
セイゼルクさんの言葉に皆が頷く。
「よしっ。ランカが戻って来たお祝いをしよう」
ラットルアさんがパンと手を叩く。
「いいな、酒でも買って帰るか」
シファルさんが、買う酒の種類をヌーガさんと相談し始める。
「えっ。帰るの? 店に行くのではなく?」
ランカさんが不思議そうにシファルさん達を見る。
「何処の店よりも、うまい料理を作ってくれる人がいるんだ。それに、まだ人が多くて店は混むからな」
セイゼルクさんが、ギルド内にいる冒険者達を見る。
「あと3,4日たてば、かなり人は減るわ。周辺の町から来た人達とその人達の護衛で冒険者達がいなくなるから。その手続きが大変だったのよ」
ランカさんが疲れた表情で言うと、セイゼルクさんが笑う。
「最後の仕事か」
「最後の仕事は、若手を怒鳴りつける事だったわ」
ランカさんの言葉に皆が笑う。
「笑っていないで行くわよ。おいしいお酒が買える店を紹介するわ」
冒険者ギルドを出て、ランカさんがお薦めする飲み屋に行く。
そこのお酒はおいしいので、持ち帰り用に売ってもらえるらしい。
「いらっしゃい」
飲み屋に入ると既に酒に酔った冒険者達がいた。
シファルさんとヌーガさんがお酒を選んでいる間、近くで待つ。
「あ~帰ったら、ナナリスに怒られる」
「俺もだ。フォリアに間違いなく怒鳴られる」
「だから言っただろう? 無駄な物は買うなって」
「「はぁ」」
「地元に帰ったら、当分は休みなく働くぞ」
「「うぅ~」」
頭を抱える2人の冒険者と呆れた表情の冒険者の会話に笑いそうになる。
「アイビー?」
「なんでもない。お父さんは、お酒を選ばなくていいの?」
シファルさん達に視線を向けると、目を見開く。
「あんなに買うの?」
えっ。
1、2……全部で24本もある!
しかも6本は、他のお酒よりも瓶が大きい。
「俺が何か言う必要はないだろう」
「そうだね」
お父さんが好きなお酒も、きっとあの中にあるね。




