1025話 大剣を持つ女性冒険者
セイゼルクさんとヌーガさんが花山の魔物について話している間、私とお父さんは冒険者ギルド内を見て回る事にした。
何故か、ラットルアさんとシファルさんも付いて来る。
「ラットルアさんとシファルさんはよく冒険者ギルドに来ていたから、見慣れた物ばかりでは?」
王都に着いてから、冒険者ギルドには頻繁に来ていたよね?
「仕事で来る時は、こんなのんびり見て回れないから初めてだよ。おっ、冒険者オウリの剣だって」
ラットルアさんが、楽しそうに壁に掛かっている剣を見る。
「それ、本物か? 確かに仕事で来る時は、こんな時間は全くなかったな。まぁ、冒険者ギルドはどこも同じだと思っていたから興味もなかったけど。でも、さすが王都だけあるな。他の冒険者ギルドとは色々と違うみたいだ」
シファルさんが、ラットルアさんの隣に立ち、剣を見る。
「本物だって書いてあるぞ。本人が冒険者を辞める時に譲り受けたそうだ」
「へぇ。それなら凄いな」
ラットルアさんの説明に、シファルさんが興味深げに剣を見る。
「あっちは冒険者タブロスの盾があるぞ」
お父さんが指す方を見ると、大きな盾が壁に掛かっている。
「普通の盾より大きいね」
「タブロスは大柄な体格だったらしいからな」
「そうなんだ。ところでお父さん」
「どうした?」
少し小声で話すと、お父さんが私に耳を近付ける。
「冒険者のオウリとタブロスは、何をした人達なの?」
壁に飾られるほどだから有名な冒険者だと分かるけど、何をしたのか分からない。
剣や盾の説明にも、彼らが何をしたのかは書かれていないし。
「あの二人は上位冒険者で、王都周辺で起こった魔物の暴走を命がけで食い止めたとして有名なんだ」
「そうなんだ。同じチームだったの?」
「いや、別のチームだったはずだけど……どうだったかな?」
お父さんはあまり詳しくないのかな。
「別のチームだよ。二人が所属していたチームの冒険者達は、魔物の多さに混乱して逃げ出したんだ。でも二人は魔物に立ち向かい、援軍が来るまで王都を守り切った」
シファルさんの説明に、壁に掛かった剣と盾を見る。
「凄い冒険者だったんですね。たった二人で守り切るなんて」
「あっ、ごめん。誤解を与える言い方だったな」
んっ?
シファルさんを見ると、少し困った表情をしている。
「魔物に立ち向かったのは、全員で11人なんだ」
「11人?」
「うん。多くの冒険者が魔物の多さに混乱して逃げる中、11人の冒険者が残ったんだ。そして、大量に襲ってくる魔物から、王都を守った」
「11人でも凄いです」
私がそう言うと、シファルさんが嬉しそうに頷いた。
「こっちにもあるぞ」
ラットルアさんを見ると、少し離れた場所で手を振っている。
「行こうか」
お父さんを見て頷くと、ラットルアさん達と一緒に有名な冒険者達の武器や防具を見て回った。
「ここにいたのか」
武器や防具を見終わり、次に飾ってある絵を見て話していると、セイゼルクさんとヌーガさんが来た。
「説明は終わったのか?」
シファルさんを見て頷くセイゼルクさん。
「少し前から異変が出ていたようだ。野兎についてはかなり詳しく説明させられたよ。あと、狩った魔物は調べてもらう為に渡した。結果は1時間後に出るそうだ」
「分かった」
セイゼルクさんの説明に、シファルさんが頷く。
「何を見ていたんだ?」
ヌーガさんが、私達が見ていた絵を見る。
それは、王都から森を見た綺麗な風景画。
風景画は、他の冒険者ギルドでもよく見かける物だったので、チラッと見て通り過ぎた。
でも、お父さんがある物を見つけて立ち止まった。
「これ、この部分」
ラットルアさんがある場所を指すと、ヌーガさんとセイゼルクさんが視線を向ける。
「えっ? これ」
セイゼルクさんの眉間に皺が出来る。
「やっぱり、そうだよな」
シファルさんが、お父さんが見つけた物を見る。
お父さんが足を止めた原因。
それは、木々の間に隠されるように描かれた魔法陣。
パッと見ただけでは、木々が邪魔で分からないけど、よく見ると魔法陣だと分かる。
ただ、描かれた魔法陣は小さいため、文字や絵などの詳細は分からなかった。
「どうしたの?」
女性の声に視線を向けると、先ほど若い冒険者をしかりつけていた女性がいた。
「お疲れさま」
「ありがとう」
セイゼルクさんとは知り合いなのか、笑って言葉を交わす二人。
「さっきは凄かったな」
「相変わらず迫力がある」
シファルさんとヌーガさんの言葉に、女性が笑う。
「あれぐらいの迫力がないと、若い冒険者を止められないからね」
どうやら、セイゼルクさん達とは仲がいいみたい。
あれ?
女性が背負っている大剣を見て首を傾げる。
「あっ」
何度か見た、大剣を振り回していたあの女性冒険者?
でも、また見た目が違う。
「随分と可愛い子と一緒ね」
私を見て笑う女性に、小さく頭を下げる。
「アイビーです。はじめまして」
「はじめまして。ランカよ」
ランカさんは、肩に届く濃い青い髪を持ち、キリッとした少しきつめの印象の女性だった。
でも、笑うとそのきつさがなくなり、どこか可愛らしく見えた。
「えっ?」
女性が名前を言うと、ラットルアさんが驚いた表情をした。
シファルさんとヌーガさんもだ。
「ふふふっ。今日で冒険者ギルドを辞職するの。だから、ランカに戻るわ」
「ランカさんに戻る」とは?
何か事情があるのかな。
「そうなのか。もう、いいのか?」
シファルさんを見て、笑って頷くランカさん。
あれ?
その笑みがシファルさんの黒い微笑みに似ている気がする。
「えぇ、奴らを見つけてしっかりお返しをしたからね。もう満足だわ」
「そうか。良かったな」
「ふふふっ」
あっ、ラットルアさんがランカさんから離れた。
「ランカ、あの話は受けてくれるのか?」
セイゼルクさんがランカさんを見ると、彼女が楽しそうに頷く。
「あっ、嫌な予感が」
ラットルアさんが、ランカさんを見る。
「『炎の剣』のリーダーになるわ」
ランカさんが、次のリーダーになるんだ。
「やっぱり。シファルが2人に増えるなんて」
頭を抱えて呟くラットルアさんを、シファルさんとランカさんが見る。
「「ラットルア」」
「ひっ」
ラットルアさんは、いつも一言多いんだから。
「私は、シファルほど腹黒くないわ!」
「俺は、ランカほど腹黒くはないぞ!」
「いや、お前ら同じぐらいだから」
ランカさんとシファルさんを見て、首を横に振るヌーガさん。
「そうなの?」
私の質問にヌーガさんが頷く。
「あぁ、あの二人は考え方がよく似ている。ただ、敵を心理的に追い詰めるのはシファルで、物理的に潰すのはランカだ」
「それなら、2人が揃ったら最強チームだね」
「そうだな。確かに、最強だな」
私とヌーガさんの会話を聞いていたランカさんが、セイゼルクさんに詰め寄る。
「ちょっとセイゼルク。あんないい子をどこで攫ってきたの?」
「なんでそうなる。アイビーは、ドルイドの娘だ!」
「ドルイド?」
ランカさんがお父さんを見る。
そして首を傾げて、セイゼルクさんに視線を戻した。
「私が知っているドルイドという人物に似ているんだけど、雰囲気が全く違うわ」
「いや、たぶんランカの知っているドルイドで合っているぞ」
セイゼルクさんの説明に、もう一度お父さんを見るランカさん。
「あの排他的だったドルイドなの? 隠し玉と呼ばれていた?」
ランカさんの言葉に嫌そうな表情をするお父さん。
「昔の事だ」
「そう。人って変われるのね」
「最弱テイマー」を読んで頂きありがとうございます。
野兎と野ウサギが混ざっておりました。
すみません。
野兎に統一しました。
教えて頂きありがとうございます。
ほのぼのる500




