1020話 戴冠式とパレード3
「あと少しで王の顔が見えそうだな」
お父さんの呟きに、王様に視線を向ける。
「ん~、まだ遠いから私には見えないみたい」
「かなりゆっくり進んでいるみたいだな」
ラットルアさんが、窓から体を乗り出す。
「危ないぞ」
セイゼルクさんの注意に、笑って誤魔化すラットルアさん。
「どんな方なんだろうね?」
次の王様か。
あっ、王様を守っている騎士達は他の騎士達とは違う色の騎士服だ。
「紺の騎士服だね」
「あぁ、彼らは王族騎士団だ。王とその家族だけを守る騎士だよ。今回王が変わるにあたって、騎士団が再編成されたそうだ。第一王子と第二王子の専属騎士達はほとんどが処分。他の騎士団も一度解体して王族騎士団、第一騎士団、第二騎士団に分けられたと聞いたよ」
シファルさんの説明に、以前会った第三王子を守っていた専属騎士達を思い出す。
「処分されたのは、第一王子と第二王子の専属騎士達だけ? 第三王子の専属騎士達は?」
私の質問に、少し不思議そうな表情をするシファルさん。
「第三王子の専属騎士達が問題を起こしたという噂は聞いた事がないから、処分はされていないだろう。処分されたのは、王子の権力をかさにやりたい放題していた騎士達だけだと思う。もしかして第三王子の専属騎士に知り合いがいるのか?」
「うん。オカンイ村で会ったの」
正確には、オカンイ村の森だけど。
時間に凄くきっちりしている騎士達だったよね。
夜8時には見張り役以外が就寝。
そして早朝からの訓練。
ジナルさん達も、あれには困っていたな。
「あれ?」
パレードを見ていたお父さんが、首を傾げる。
「どうしたの?」
「王族騎士団の一番前にいる騎士」
一番前目にいる騎士?
視線を向けると、少し緊張した様子の騎士が見えた。
「あれ?」
なんだろう。
何処かで会った……あっ!
「第3王子の専属騎士の中にいた人だよ!」
「髪型が違うから少し印象が違うけど、やっぱりそうか?」
お父さんが私を見る。
「うん。間違いないと思う。んっ? 木の魔物の右にいる人もだ!」
お父さんは、私が指した方を見て頷く。
「本当だ。もしかしたら、あの時に会った騎士達が全員王族騎士団になっているかもな」
それって、最後まで第三王子を守り切ったからかな?
でも良かった。
あの時の騎士達が、元気そうで。
「凄く緊張しているな」
「ふふ、そうだね」
あっ、あの人も見た事がある。
「2人とも、王様を見ないのか?」
シファルさんが笑って、私とお父さんを見る。
「「あっ」」
知っている騎士達がいたから、すっかり忘れてた。
お父さんと笑い合って、王様を見る。
「「えっ……」」
お父さんと顔を見合わせる。
そしてもう一度、王様を見る。
「スイナスさんが言っていた驚く事って、これだね」
「そうだな。というか、本当にまさかだよな」
「うん。まさか第三王子を守っていた専属騎士の中に、本物の王子がいるなんて考えもしないよね」
「そうだな」
お父さんと私の視線の先には、第3王子の専属騎士ホルさんがいた。
あの時とは、髪型も雰囲気も違う。
でも間違いなく、あれはホルさんだ。
「まさか、王と知り合いなのか」
セイゼルクさんが驚いた表情で私とお父さんを見る。
シファルさん達も驚いているみたい。
「あぁ、オカンイ村で第三王子の専属騎士として会った事があるんだ」
「専属騎士? 王子としてではなく?」
ラットルアさんの質問にお父さんが頷く。
「そう、専属騎士としてだ。けっこう危ないところを助けたんだよな?」
お父さんが私を見る。
「そうだったね。暴走した魔物に3回も襲われて、倒れていたんだよね」
話を聞いた時は、本当に運がないと思ったよね。
それにしても、あの時に助けて本当に良かった。
まさか、王様だったなんて。
いや、あの時は王子様か。
「こっちを見ているぞ」
ヌーガさんの言葉に、慌てて王様を見る。
本当に、こっちを見てる。
笑って手を振るホルさん。
いや、王様。
木の魔物もなぜか私達に向かって枝を振った。
「俺達がいる事に気づいているな」
「そうだね」
笑って王様と木の魔物に手を振る。
あっ、王様の笑顔が変わった。
それに木の魔物は、枝の振り方が激しくなった。
「はははっ。木の魔物の行動に、大通りにいる者達がざわついているぞ」
えっ?
セイゼルクさんの楽しそうな声に、大通りに視線を向ける。
本当だ。
木の魔物の行動が不思議みたい。
「ぎゃっ!」
木の魔物が鳴くと、一瞬大通りが静まり返る。
そして、大歓声があがった。
「なんで?」
お父さんを見ると肩を竦める。
「今は皆、興奮状態だからな。木の魔物の声も、楽しく聞こえるんだろう」
確かに木の魔物は楽しそうに鳴いたからね。
「セイゼルク、大通りの向こう側、少し大きな甘味の看板の傍だ」
シファルさんの少し焦った声が聞こえた。
「何かしでかしそうだな」
彼らの声を聞きながら、シファルさんが言った大通りを挟んだ向こう側にある、甘味の看板を探す。
看板はすぐに見つかり、パレードを睨みつけている3人の冒険者達も見つけた。
「すぐに連絡――」
「大丈夫だ」
セイゼルクさんが立ち上がろうとすると、ヌーガさんが止める。
「彼女が来た。すぐに終わるだろう」
「あっ」
ヌーガさんが言った通り、パレードを睨みつけていた3人は、大剣を持った女性に一瞬で倒されていた。
「さすが早いな」
シファルさんがホッとした様子で呟く。
セイゼルクさんも、息を吐き出すと頷いた。
「そうだな」
良かった。
パレードに邪魔が入らなくて。
通り過ぎたパレードを見る。
大通りには、笑顔で手を振る人達。
どこか浮かれた空気が漂っていて、楽しい気分になる。
最後まで何事もなく終わりますように。
「パレード、あっという間だったけど見て良かったよ」
ラットルアさんが、窓辺から離れると席に座る。
「あっ、新しいお茶を入れるけど、皆も入れ直そうか?」
彼の言葉に皆が頷く。
「ラットルア、ありがとう」
セイゼルクさんが窓辺から離れると、席に着く。
私は最後にもう一度、パレードの後ろ姿を見てから席に戻った。
「楽しかったか?」
隣に座ったお父さんが私を見る。
「うん。王都に来て良かった」
色々あったけど、楽しかった。
木の魔物も元気そうだったし。
「それは良かった」
満足そうに笑うお父さんがお茶を飲む。
そう言えば、ソラ達が静かだ。
パレードを見る為に窓辺に一列に並んでいたけど、どうしたんだろう?
ソラ達を見る。
何故かまだ、窓辺に一列に並んでいる。
「ソラ? フレム? ソル?」
シエルは名前を呼ぶ前に、チラッと私を振り返る。
「ぷっ」
シファルさんがソラ達を見て笑う。
「ソラ達には、パレードは暇だったみたいだ。寝てる」
えっ、寝てる?
ソラ達の傍による。
「本当だ、寝てる。あっ、シエル。ありがとう」
シエルが動かないのは、ソルがもたれかかっていたからか。
ソルを抱き上げると、目を覚ます。
「ぺふっ?」
「おはよう、ソル。パレードは楽しくなかった?」
「……ぺふっ」
私は、新しい王様の誕生でワクワクしたけど、ソルにとっては人の一団が通り過ぎるのを見ているだけだもんね。
「明日は、森にでも行って遊ぶか」
「ぺふっ!」
「にゃうん」
お父さんの言葉に、元気に答えるソル。
シエルも、賛成のようだ。
それならお昼を作って持って行きたいな。
帰ったら、フォリーさんに調理場を貸してもらえるか聞こう。




