1019話 戴冠式とパレード2
部屋から大通りを見て皆で話していると、お昼が運ばれて来た。
「何かございましたら、こちらに手を乗せて下さい」
部屋に案内してくれた女性が、扉の傍にある青い箱を指す。
「マジックアイテムかな?」
「そうみたいだな」
お父さんが青い箱を見て頷く。
「では、失礼いたします」
女性が部屋を出ると、お父さんがマジックバッグからマジックアイテムを出してテーブルに置く。
「部屋の鍵を掛けてくれないか?」
「分かった」
セイゼルクさんは扉に鍵を掛けると、お父さんを見た。
「ありがとう」
お礼を言ったお父さんは、マジックアイテムのボタンを押す。
「これでよし。アイビー、皆を出していいぞ」
「ありがとう」
ソラ達が入っているバッグの蓋を開けると、皆が飛び出して来る。
「皆、この部屋にある物を壊さないように注意してね」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
「にゃうん」
ソラ達は部屋を見回し、それぞれ興味のある物の傍に寄った。
それを少しドキドキしながら見る。
大丈夫だと思うけど、やっぱり落ち着かない。
「それ、かなり高かっただろう」
ラットルアさんが、お父さんが起動させたマジックアイテムを見る。
「少しな」
そう言えば、いつの間にかソラ達を隠すマジックアイテムが変わっていたな。
前に比べると、かなり性能が良いと聞いたけど金額は聞かなかった。
「高かったの?」
「少しな」
お父さんが私を見て笑う。
「少し?」
「うん。皆が稼いでくれた金額には遠く及ばないよ」
んっ?
皆というのはソラ達の事だよね?
魔石とか宝石とか、表に出せない物は別として。
「それって少しではなく、もの凄く高かったのでは?」
「いや、少しだよ」
お父さんが笑って、テーブルに視線を向ける。
「せっかくの料理が冷めてしまうから食べようか」
これは、絶対に教えてくれないな。
「アイビー、気にする事はない。必要な物にお金を掛けるのは当然だから」
シファルさんが隣の席を指す。
「そうだけど、気になって」
あれ?
そう言えば、あのマジックアイテムは予備も買っていたような。
「凄い」
テーブルに並ぶ料理を見て言葉が漏れる。
味はまだ分からないけど、見た目が凄く綺麗。
「花の形だ」
野菜が花の形に切られ、サラダには花も入っている。
「この花は、食べてもいいの?」
「食べられる花だから、食べても大丈夫だ」
お父さんを見ると、花を食べていた。
そして、少し顔を歪ませた。
「味は?」
「ほろ苦いな」
ほろ苦いんだ。
サラダの中の花を食べてみる。
「ソースと合うね。おいしい」
「ん~」
お父さんは少し苦手なのかな?
でも、ほろ苦い味が苦手だったっけ?
「この花は、サラダに必要か? 別になくてもいいと思うけど」
味ではなく、そっちが気になっていたのか。
「見た目だろう。この店は貴族ご用達だから」
セイゼルクさんがおいしそうに、お肉に齧り付く。
「料理の量を心配したけど、フォロンダ様が言ってくれたのかな?」
シファルさんが料理を見て言う。
「何をだ?」
「貴族に、この肉の山が出てくる筈ないだろう。他の料理だって山盛りだ」
そういえば、どの料理も山盛りだね。
いつもの事だから気にならなかったけど、貴族相手にこれはないな。
「あぁ、確かにこれは冒険者相手の盛り方だな」
ヌーガさんが、お肉のお皿を引き寄せながら言う。
「おいヌーガ。気に入った料理を自分の方に寄せるな。まだその料理は食ってない」
「早い者勝ちだ」
「アイビーもまだ食べていないぞ」
お父さんの言葉に、ヌーガさんが私を見る。
「悪い。食べるか?」
「うん、少しだけお願い」
ヌーガさんの気に入った味が気になる。
小皿に分けてもらった肉料理を食べる。
「うわ、味が濃い」
「酒に合う味だ」
ヌーガさんが、お酒を飲みながら料理を食べる。
「飲み過ぎるなよ」
「大丈夫だ」
セイゼルクさんの注意に頷くヌーガさん。
そう言えば、ヌーガさんが酔っ払っているところを見た事がないな。
あれ?
飲んでいるのはヌーガさんとシファルさんだけだ。
「お父さんは飲まないの?」
「俺は、部屋に戻ってから飲むよ。その方が、最近は落ち着いて飲めるんだ」
そう言えば、最近はお酒の量が凄く減ったな。
前は、夕飯の時に飲んだりしていたのに。
それぞれがお昼を楽しんでいると、鐘の音が聞こえた。
そして、外から歓声が沸く。
「何?」
ソラ達も興味深げに、窓の外を見る。
「戴冠式が終わった合図に、皆が盛り上がっているんだ」
セイゼルクさんが席を立ち、窓辺に行く。
私達も窓辺に行くと、彼と同じように大通りに視線を向けた。
「皆、嬉しそうだね」
大通りにいる人達は、皆楽しそうに笑っている。
「新しい時代が来た合図だからな」
お父さんを見ると、嬉しそうに微笑んでいる。
「んっ?」
私の視線に気づいたのか、お父さんが首を傾げる。
「新しい時代が来るなんて、考えた事がなかったから……ちょっと驚いて」
新しい王様が決まる日。
ただそれだけだと思っていた。
「新しい時代か」
「そう。教会の問題も解決して、問題のある貴族達も減った」
いなくなったとは言わないんだね。
お父さんを見る。
「新しい何かが始まりそうな予感で、皆ワクワクしているんだよ」
何かが始まるか。
「新しい法律も出来るしな」
「法律?」
セイゼルクさんを見ると、楽しそうに笑っている。
「フォロンダ様が『問題を起こした貴族が多過ぎる。そして今の法律は貴族に甘いから、新しい法律が必要だ』と言って、王と仲間の貴族達で法律を作ったんだよ」
新しい法律。
「貴族達から強い反対にあったと聞いたけど、出来たのか?」
ラットルアさんがセイゼルクさんを見る。
「あぁ、反対した貴族より賛成した貴族の方が多かったらしい。反対した貴族がいくつか消えたらしいけどな」
消えた?
「あぁ、なるほど。反対するには原因がある。その原因を調べ、反対している貴族を犯罪者として捕まえて、貴族籍を剥奪。そして賛成派が反対派より多くなった。そんな感じか?」
お父さんの説明にセイゼルクさんが肩を竦める。
「ちょっと違う。俺も全て知っているわけではないが、反対派の多くが途中で賛成派になったらしい」
反対していたのに、途中で賛成しだしたの?
「あっ、反対する貴族を捕まえて貴族籍を剥奪したのは見せしめの為? そして、反対派は怖くなって賛成に回った」
私が声を上げると、セイゼルクさんが笑って頷く。
「たぶんな」
なるほど、駆け引きだね。
席に戻り、料理を食べ切るとソラ達を一度バッグに戻す。
料理のお皿を下げてもらい、お茶とお菓子の用意をしてもらう。
女性が出て行き、ラットルアさんが扉に鍵を掛けると私を見た。
「もういいぞ」
「ありがとう」
もう一度ソラ達をバッグから出し、お茶を飲んでいると鐘の音がもう一度聞こえた。
そして外が今まで以上に騒がしくなり始めた。
「パレードが始まるな」
セイゼルクさんが窓辺に向かう。
「アイビー、行こう」
お父さんも楽しそうに私を手招く。
「うん」
皆で大通りを見ていると、どんどん人の声が大きくなる。
「ドキドキする」
「見えたぞ」
ヌーガさんの言葉に、窓から少し体を出して大通りを見る。
「気を付けて」
お父さんを見て頷くと、大通りに視線を戻す。
「見て! 木の魔物だ」
パレードの先頭はまだ遠くて見えないけど、木の魔物の姿は見えた。
そして、どんどん近付いて来る。
「あれ? あの木の魔物、前に見た時より大きくなってない?」
幹が太く、枝もかなり大きく広がっているように見える。
「確かに、大きくなってるな」
お父さんも少し考えたあと、頷いた。
「なぁ、木の魔物に乗っているのは、王か?」
セイゼルクさんが驚いた表情で言う。
「まさか、木の魔物に乗って登場するとは思わなかったな」
シファルさんが楽しそうに笑う。
大通りの人々は、木の魔物の迫力にちょっと戸惑っているみたい。
でも王様が手を振ると、皆笑顔で手を振った。