1017話 皆のご飯
お父さんの「俺は弱い」という言葉に悩む。
お父さんが弱かったら私はどうなるの?
まだ狙った場所に、矢を放つ事も出来ないのに。
いや、考えるのは止めよう。
これから強くなるんだから。
今の目標は、シファルさん!
そしていつか、シファルさんを超える!
いや……超えられればいいな。
「どうした?」
気合を入れる私に、お父さんが視線を向ける。
「明日も頑張ろうって思って」
「あっ、アイビー」
「はい」
セイゼルクさんを見ると細長い青色の板を見せて笑った。
「それは?」
「特別観覧席の許可証だ」
特別観覧席?
彼の言葉の意味が分からず首を傾げる。
「明日の戴冠式は、建物の中で行われるから一般人の俺達では見る事が出来ない」
えっ、戴冠式は見られないんだ。
知らなかった。
「でもその後の王のお披露目。つまりパレードだな。それを特別な場所で見られる事になった。この許可証はその場所に入る為の物だ」
「フォロンダ様が手配したのか?」
セイゼルクさんの説明を聞いたラットルアさんが驚いた表情をする。
「あぁ、ここに戻って来る前にフォロンダ様の部下が届けてくれた。あっ、この場所は食事処だから、お昼も手配してくれているそうだ」
「あの人込みだから何処で見ようかと思っていたが、さすがフォロンダ様だな」
お父さんが感心した様子で、セイゼルクさんが持つ許可証を見る。
うん、私も凄く嬉しい。
だって、ちょっと不安だったんだよね。
あの人込みにまた突撃するのかと思って。
まぁ、その時は戴冠式を見るつもりだったんだけど。
「戴冠式は建物内で行う事になったのか?」
ヌーガさんがセイゼルクさんを見る。
「あぁ、人が集まり過ぎたから戴冠式の場所を変えたそうだ。パレードも悩んだそうだが、それまで止めてしまうと騒ぎ出す者がいるだろうという事で、決行する事が決まったみたいだな」
最初は戴冠式も見られる筈だったのか。
でもあの人の多さだもんね、止めた方がいい。
「パレードの方が危なくないか?」
ヌーガさんが首を傾げる。
「いや、パレードだと人が分散するから、そっちの方が安全だろう」
戴冠式だと一ヶ所に人が集まってしまうからね。
「パレードはお昼を食べて休憩したあと、時間は決まっていないんだ。戴冠式が長引くかもしれないから。でも、それほど遅くはならないだろう。あれだけ人が集まっているから、待たせ過ぎると問題が起きる」
間違いなく起きるね。
セイゼルクさんの説明に頷く。
「明日なんだけど、少し早めにここを出発しようと思う。昼に近くなると、相当混むと予想出来るから」
お父さんが私を見る。
「アイビー」
「何?」
「明日の特訓は休みでいいか?」
あっ、そうか。
シファルさんを見ると頷いた。
「うん。帰って来てから特訓してもいいしね」
休みにしなくても。
「疲れ具合によるな」
うん、そうだね。
早目に出発をしたとしても、ある程度は混んでいるだろうから。
……明日の特訓はお休みかもしれないな。
それにしても、特別観覧席か。
フォロンダ領主が用意してくれたから、きっと特別な場所なんだろうな。
まさか、貴族だけが入れる場所ではないよね?
「セイゼルクさん。その場所には他にはどんな人がいるんですか?」
隣に貴族がいたら、緊張するんだけど。
「個室だから、俺達だけだ」
個室なんだ、良かった。
「場所は、貴族ご用達の食事処だ。でも明日は、貴族達が懇意にしている冒険者達に開放されているらしい。他の部屋も冒険者達が使うから、緊張する必要はないぞ」
冒険者と仲のいい貴族が、フォロンダ領主以外にもいるんだ。
「分かった。ありがとう」
あれ?
誰かが食堂に向かって来てる。
「誰か来るな」
シファルさんが食堂の出入り口を見ると、男性が入って来た。
「失礼。ドルイドさんとアイビーさんはいるか?」
あっ、見た事がある。
えっと、そうだ。
フォロンダ領主の護衛だ。
「スイナスさん。お久しぶりです」
お父さんが声を掛けると、彼がこちらを向く。
そして傍に来ると、3個のマジックバッグを床に置いた。
「お久しぶりです。公爵の指示でこちらをお持ちしました」
彼が床に置いたマジックバッグを見る。
そしてお父さんを見た。
「何をお願いしたの?」
「んっ?」
私の質問にお父さんが首を傾げる。
「劣化版のポーションに使用済みのマジックアイテム。それと捨てられた剣などですが、違いましたか?」
あっ、皆のご飯だ。
まさか持って来てくれるなんて思わなかった。
「いえ、違いません。ありがとうございます」
「アイビーさんは、大きくなりましたね」
「そうですか? 嬉しいです」
私が笑ったのを見て、嬉しそうに笑うスイナスさん。
「あれ、なんだか疲れていますか?」
すぐには気付かなかったけど、目の下に隈があるし、なんとなく顔色も悪いような気がする。
「はははっ。明日を越えれば休めますよ。きっと」
戴冠式の準備で忙しかったのかな?
「大変ですね」
「えぇ、あちこちで問題が起こるので」
あぁ、そっちか。
「金に目が眩んだ馬鹿が、愚かな事をするし」
冒険者が暴れた原因を作った者達のことだね。
「それを利用して親に甘やかされた貴族の坊ちゃんが、見当違いな恨みで戴冠式を潰そうと画策するし」
それは私たちを襲った者達の事かな?
「この荷物も、もっと早く届けるつもりが」
まだ、何かあったの?
「捕まった息子は冒険者達にそそのかされた被害者だと、母親が明日のパレードの最終確認をしている場所に乱入して大暴れ」
うわぁ。
「酷いな」
セイゼルクさんが嫌悪感をみせ、シファルさんが呆れた様子で首を横に振った。
「そうでしょ? しかも、母親を不法侵入で捕まえて侵入した経路を確認したら、ある貴族の名前が出てきて。そこから母親に手を貸した貴族を捕まえる為に、騎士達が出動。捕まったという情報が届いたから、休憩がてら荷物を届けに来たんです」
「忙しい時に、ありがとうございます」
お礼を言って頭を下げると、スイナスさんが首を横に振る。
「いえ、気分転換が出来たので良かったです」
「フォロンダ様もようやく落ち着けるんですか?」
セイゼルクさんの言葉に、スイナスさんは苦笑して首を横に振る。
「まだ無理ですね。王都で問題が起きる度に書類仕事が増えていくので、戴冠式が終わっても数日は書類仕事に追われますよ。パレードで問題が起きれば、その書類も追加されますし」
フォロンダ領主は顔を見せに来てくれたけど、凄く忙しかったんだね。
何かお礼が出来ないかな。
「スイナス」
調理場から出てきたドールさんが、大きなカゴを彼に差し出す。
「夕飯だ。どうせまだだろう?」
「ありがとう。助かるよ」
カゴを受け取ったスイナスさんは、私とお父さんを見て笑う。
「明日のパレードでは、きっと驚く事がありますよ」
驚く事?
お父さんと顔を見合わせる。
「なんだろう?」
「木の魔物の事かもな」
「でも、木の魔物が次の王様の傍にいる事は、既に知っているよ?」
「そうだったな。それならなんだ?」
私の言葉にお父さんが首を傾げる。
「明日になれば分かります。では、また」
スイナスさんが楽しそうに食堂から出て行く。
「あの様子では聞いても答えてくれないな。明日を楽しみに待つか」
「そうだね」
すっごく気になるけど、明日まで我慢。
でも、本当になんだろう?
「最弱テイマー」を読んで頂きありがとうございます。
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次回の更新は5月29日(木)となります。
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ほのぼのる500




