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1016話 父親として

―ドルイド視点―


野菜が沢山入ったスープを、嬉しそうに飲むアイビーを見る。

その姿に、微かに残っていた不安が消えた。


アイビーは、本当に強い。


おそらく今日初めて、アイビーは自分の意志で武器を手にして戦い、そして人を殺した。

自分を守る為に反撃し、結果誰かが亡くなった事はあったかもしれない。

でもそれは、自分の身を護る為に必要な行動。

でも今日のアイビーは、自分以外を守る為に戦い敵を倒した。

あんな場面だったから、意識したわけではないかもしれないが。


人を殺すのと魔物を殺すのでは、心に負う負担が全く違う。

だから、今回の事がアイビーの心にどう影響するのか不安だった。


ここに戻って来た時も、アイビーはいつもと違った。

その事に彼女が気付いているのか、分からなかったけれど。

確かに感じたアイビーの緊張した気配。

ジナルもすぐに気付いたのか、一瞬険しい表情をした。


でも、俺やジナル。

そしてソラ達と一緒にいる事で、少しずつ緊張は消えていった。


正直、驚いた。

数日は、今回の事を引きずるかもしれないと覚悟していたから。


もう大丈夫だろうとアイビーにお風呂を勧め、自分の部屋に戻ると、自分が緊張していた事に気付き戸惑った。

自分の状態が把握出来ていなかった事、そしてこんな事で緊張した自分に。


大切な人が出来ると、強くなるし弱くなる。

師匠が言っていた言葉を思い出し、ちょっと笑った。

その言葉を聞いた時は俺に届かなかったのに、今はその言葉が身に染みる。


俺は、強くならなければならない。

剣の技術だけではなく、心も。

どんな事が目の前で起こっても、心が崩れないように。


アイビーがカシメ町で出会った本。

その本の内容が分かった瞬間、本屋に行った事を凄く後悔した。


アイビーには、明るい未来を想像していた。

どこか、気に入った村か町に身を置き、そこでアイビーがしたい事をする。

そんな、笑顔溢れる未来を。


これまでアイビーは、その年に合わない酷い経験を沢山してきた。

いつも「大丈夫」と笑っているけど、少しずつ、少しずつ、アイビーの心に傷を負わせてきた筈だ。

だから、教会の問題が解決した時、これ以上は何もないだろとホッとした。


それなのに、呪具だとか教会が残した研究所だとか。

本当に止めてくれと思った。


俺としては、見なかった事にして問題から遠ざかりたかった。

でも、アイビーにそれは無理だ。

彼女は、知ってしまった問題を無視する事は出来ない。

だから、仲間と共に戦った。


それでも王都に行ったら、次こそアイビーのしたい事をしよう。

そう考えていた。

でもそんな俺の希望を、たった1冊の本が潰した。


慕っている占い師が残した本。

その本と、同じ作りの本が並ぶ本屋。

気になったが、警戒もしていた。


でもまさか、本自体が持ち主を選ぶとか。

その内容が、未来視達の見た未来の一部だとか。

色々覚悟して本屋に行ったが、想像を超えていた。


そして分かった、アイビーの未来。

いや、あれが絶対に来る未来ではない。

本屋の店主が「たった1人の行動で大きく変貌する事もある」と言っていたから。

そしてアイビーは、そのたった1人になるだろう。

本に書いてあった時期より早く「捨てられた大地」に行く事によって。


アイビーにとって、木の魔物は特別だ。

なぜなら、命をかけて彼女を守ったトロンが木の魔物だから。

そしてトロンだけではなく、木の魔物はいつも彼女に優しかった。

その木の魔物が、魔法陣とずっと戦ってきた事をアイビーは知って、心を痛めている。


だから、木の魔物を助ける為に、彼女はきっと捨てられた大地に行く。

王都を襲う前に、その原因を排除する為に。


そしてアイビーの答えは、俺の考えた通りだった。


本当は、アイビーを止めたい。

でも俺は、アイビーと家族になる時に誓った。

彼女のやりたい事や望みを、不安や危険という理由で止めない。

真剣に考えて出した答えなら、応援すると。


次に俺が考えた事は、自分を強くする事。

でも、行く場所は捨てられた大地。

そこには、もしかしたらおかしくなった木の魔物が、沢山いるかもしれない。

魔物の中で最も恐れられているリュウが、沢山いるかもしれない。


俺だけ強くなっても守れない。

もっと俺達と一緒に戦う仲間がいる、だった。


まぁその仲間に関しては心配していなかった。

何故かアイビーの周りには、強い冒険者が集まって来るから。

そして思った通り、一緒に行く仲間がすぐに出来た。


そしてシファル達がそれぞれ特訓を始める中、アイビーがシファルから弓を習いだした。

以前も真剣だったか、今回は向き合い方が違う。


アイビーが気付いているのか分からないが、貪欲に取り組んでいる。

鞭の時も真剣だったが、今回のアイビーは何がなんでも戦い方を覚えようと足掻いているのが伝わってきた。

それに気付いたシファルも、教え方を変えた。

同じ場所に立ち、一緒に戦える仲間として成長出来るように。

まぁ、「特訓中に殺気を使うから準備しておいてくれ」と言われた時は、唖然としたけどな。


アイビーはそんなシファルの特訓に食らいついている。

日々、少しずつ上達するアイビー。

本人は、なかなか上達しないと悩んでいるが、そんな事はない。

アイビーの状態を知っている俺からしたら、確実に上達している。

今日だって、本当に助かった。

でもその結果、俺が自分の弱さを知る事になるなんて思わなかったけどな。


いや、自分の弱さを知れて良かったのだろう。

今なら、気持ちをしっかり整理出来る。


「お父さん」


アイビーを見ると、不思議そうな表情で俺を見ている。

どうしたんだろう?


「強いのに、まだ強くなりたいの?」


あぁ、そんな事か。


「まだまだ強くなりたい。俺は弱いからな」


「えっ?」


俺の言葉に、いつもより大きな声で驚きを見せるアイビー。

そんな彼女に、笑ってしまう。


「一緒に頑張ろうな」


「うん」


少し戸惑った表情のアイビー。

そのコロコロ変わるアイビーの表情が悲しみに染まらない為に、俺は強くなる。


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― 新着の感想 ―
不穏な気配のする大地の方がアイビーがアイビー自身のままでいれる可能性もありますね( ˊ̱˂˃ˋ̱ ) 天上突破のテイマーなので。 パパという役割に固執せず、2人とも色鮮やかな思い出を経験を重ねてほしい…
ん??? 王都が襲われる前に「捨てられた大地」に行くって流れだったっけ??? 本に書かれてる流れでいくのかと勘違いしてた リュウや木の魔物がいる状態の「捨てられた大地」に行くなら、どんなに強い冒険者を…
そっかアレがアイビーの「童貞卒業」だったか…
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