1015話 皆で夕飯
ジナルさんの表情から、当主と何かあった事が分かった。
でも、これは聞いてもいいのかな?
「何があったんだ?」
お父さんの質問にジナルさんの表情が歪む。
「まぁ、ちょっとな」
ジナルさんにしては珍しく言葉を濁す。
お父さんも深く追究する事なく「そうか」と話を終わらせた。
「さてと、アイビーの無事を皆に伝えてくるよ。シファルとヌーガがやり過ぎる前に」
「あの2人だったら、その辺の加減は分かっているだろう?」
お父さんが首を傾げてジナルさんを見る。
「そう思うが。ん~、どうかな? ここに来る前にチラッと見たけど、かなり機嫌が悪かったから」
ジナルさんはそう言うと、私の頭を撫でると仕事に戻った。
「お風呂に入ってゆっくりしようか」
「そうだね」
あっ、汚れたままソファに寝転がってしまった。
慌てて立ち上がってソファを見る。
「良かった」
この豪邸に入る時に、頑張って汚れを落としてきたから大丈夫みたい。
ここで数日過ごしたけど、まだ少し緊張するんだよね。
特に、壊したらどうしようと、汚したらどうしようって。
「まだ慣れないか?」
お父さんを見ると笑っている。
「ちょっとね。でもベッドは最高」
あの寝心地は本当にいいよね。
でも早めに宿に移った方がいいかもしれないな。
「あぁ、あれに慣れると危険だな」
お父さんも感じているのか、私を見て頷く。
「戴冠式が終わったら、宿も空きが出るだろうから移動するか?」
「ここのベッドに慣れる前にでしょ? でも、既に手遅れのような気がするな」
「確かに、そうだな」
お父さんと顔を見合わせて笑う。
あっ、ジナルさんとお父さんの話した事で、さっきまであった不快感が消えたみたい。
うん、もう本当に大丈夫だ。
「よしっ、風呂だ。頑張った俺達には、ご褒美が必要だからな」
「ふふっ、そうだね」
お父さんは、私の肩をポンと軽く叩くと出ていった。
お風呂の準備をして、ソラ達を見る。
「ぷっぷ?」
「皆も一緒にお風呂に入る?」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
「にゃうん」
「よし、行こう」
皆で部屋を出て、お風呂に向かう。
1階に下りると、大きなカゴを持ったフォリーさんと会った。
「襲われたと聞きましたが。本当に大丈夫ですか?」
心配そうに私を見るフォリーさん。
「はい、大丈夫です」
「それは良かったです。あっ、本日の夕飯には、アイビー様が大好きな沢山の野菜で作ったスープをご用意しますね」
「ありがとうございます。あの、お肉も多めにお願いします」
沢山の敵を相手にしたお父さんとラットルアさん。
今、尋問を頑張っているシファルさんとヌーガさん。
彼らはお肉が好きだから、いつもよりちょっと多めにお願いしたい。
「分かりました。皆様の好みに合う料理を作りますね」
えっ、皆の好みをもう知っているの?
そういえば、私はお父さんの好みしか知らないかも。
いや、そうでもない?
シファルさんは、お肉だけでなく野菜も沢山入った煮込み料理。
ラットルアさんは、強めの塩で味付けした串肉。
ヌーガさんは、こってりしたタレに浸けて焼いたお肉を葉野菜で巻いた物。
セイゼルクさんは、ちょっと甘めの味付けにした薄切り肉とたくさんの葉野菜をパンで挟んだサンドイッチ。
私、皆の好み知っているんだ。
ただ、セイゼルクさん達の好みって気付いたら変わっているんだよね。
お父さんは、ずっと辛めのスープとお肉なら全てなのに。
「どうかしましたか?」
不思議そうに私を見るフォリーさん。
「いえ、なんでもないです。夕飯、楽しみです」
「はい、お任せ下さいね」
フォリーさんと分かれてお風呂に向かう。
お風呂で十分体を温めると、ちょっと眠ってしまったみたい。
ソラが勢いよく顔にぶつかったお陰で起きた。
でももう少しだけ、優しく起こして欲しかったかも。
夕飯の為、食堂に向かうとちょうどお父さんがいた。
「十分、休憩が出来たみたいだな」
お父さんの言葉に笑顔で頷く。
もしかしたら、ここに戻って来た時の私の状態に気付いていたのかも。
1階に下りると、お父さんが嬉しそうに笑った。
「お父さんの好きなスープが出るね」
辛めのスープの香りって、食欲をそそるよね。
「そうだな」
食堂に入ると、セイゼルクさん達が全員揃っていた。
「皆、帰って来ていたんだね」
気付かなかった。
「ただいま、アイビー。全て終わらせてきたから、もう安全だ」
ラットルアさんが笑いながら言うと、隣の席を指す。
「ありがとう」
ラットルアさんの隣に座ると、反対側にお父さんが座る。
「お待たせしました」
捕まった人達の事を聞こうとすると、大皿を持ったドールさんが食堂に入って来た。
「本日は少々数がありますので、少しお待ち下さい」
話しは食事のあとにしよう。
「手伝いましょうか?」
「いえ、大丈夫です。座ってお待ち下さい」
笑顔で首を振るドールさん。
ちょっと圧を感じるから、大人しく待っていようかな。
「これで全てです。ごゆっくりどうぞ」
テーブルに並ぶ様々な料理。
その数の多さに、ちょっと目を見開く。
皆の好みの料理を1品ではなく、2品から3品も作ったんだ。
フォリーさんは、やっぱり凄いな。
「「「「「いただきます」」」」」
フォリーさんが言っていた沢山の野菜が入ったスープ。
優しい味で、やっぱりおいしい。
「ラットルアさん、野菜も食べないと駄目だよ」
「分かった」
「はい、ラットルア。野菜を食べような」
シファルさんがラットルアさんの前にお皿を置く。
そのお皿を見たラットルアさんが、嫌そうな表情をする。
「見事だな。肉と野菜の炒め物の筈なのに、肉が入っていない」
お父さんの言う通り、野菜しか入っていない。
「これは、酷くないか?」
「毎回注意を受けているのに改善しないラットルアが悪い」
シファルさんの指摘に、言葉を詰まらせるラットルアさん。
「いや、野菜も食べようとは思うんだけど……」
言い訳をするラットルアさんの前に、もう1つお皿が置かれた。
「ラットルア、これも食え」
肉と野菜の煮込み料理の、野菜のみ。
「あ~分かった。悪かった。食べるよ」
シファルさんとヌーガさんが持ってきた料理を、勢いよく食べるラットルアさん。
「野菜もうまいと思うんだけど、なんとなく手が出ないんだよな」
「肉の方が好きだからだろう? あと、食事は腹が膨れればいいと考えているから」
ラットルアさんの呟きにお父さんが答える。
「確かにその通り。ドルイドも俺と一緒だろ?」
「前は一緒だったな。食事の内容なんて気にした事もなかった。今は、少し気にするようになったよ」
「そうなのか?」
ラットルアさんがお父さんの前にあるお皿を見る。
「結構野菜を取ってるな」
そういえば、最近のお父さんは肉と野菜の煮込み料理だと野菜も一緒に食べているな。
「体作りをしているからな」
そうだったんだ。
「まだ強くなりたいのか?」
ラットルアさんが驚いた表情でお父さんを見る。
「あぁ、まだまだ足りない気がしているよ」
お父さんの言葉に首を傾げる。
どうして、そんな風に思っているんだろう?
お父さんは十分強いのに。




