表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1100/1160

1014話 誰の物?

「疲れた~」


借りている部屋に戻り、ソファに倒れ込む。


騎士団からの事情聴取が終わり、ようやく借りている部屋に戻って来られた。

事情聴取は、お父さんが何か言ってくれたみたいで、それほど長かったわけではない。

でも、さすがに色々あったあとだったから、疲れた。


「ぷっぷぷ~」


心配そうに私を見るソラ。

フレムとソルも傍に寄って来る。


「にゃうん」


シエルは元の姿に戻り、心配そうに私を覗き込んだ。


「大丈夫。少し疲れただけだよ」


ソファから起き上がって、皆の頭を撫でる。


「ありがとう」


お茶でも入れようとテーブルを見て、


「あっ……あぁ~」


テーブルに乗っている弓を手に取る。


「持って来てしまった」


亡くなった男性から奪った武器。

とても役に立ってくれたけど、持ってくるのは駄目だよね?


弓を隅々まで、目と手で触りながら確認する。


「良かった、傷は付いていない。ん~これ、かなりいい矢だよね」


使っている時は必死で気付かなかったけど、私の手にとても馴染んでいる。

シファルさんから借りている弓も、私の手に馴染んでいるけど、これはそれ以上かも。


「欲しいな」


亡くなった男性を思い出す。


「いや、駄目だよね。亡くなった男性の家族に、ちゃんと返さないと」


シファルさんが「気に入った弓は、何本持っていてもいい」とは言っていた。

でも、さすがにね?

奪った物は駄目でしょう。


コンコンコン。


「アイビー、俺だ」


お父さんだ。


「どうぞ」


「疲れていないか?」


部屋に入って来たお父さんは、私が手にしている物を見て首を傾げた。


「それは……」


「亡くなった男性から奪った弓なんだけど、無意識に持って帰ってしまって」


お父さんは私の隣に座ると、弓を見る。


「あぁ、見た覚えがないと思ったら、拾った物か。さっきは慌ただしくて気付かなかったよ」


拾った?


「拾ったわけではなくて、亡くなった方の持ち物だったの。許可を貰えないから、奪った事になると思うんだけど」


「持ち主は死んでいるんだろう?」


「うん」


それは確かめたから、間違いない。


「それだったら許可は必要ない。死んだ者には必要ない物だから、その弓に所有者はいなかった事になる。所有者がいない物をアイビーは拾って、使っただけだ」


「本当に?」


「あぁ、だから奪ったなんていう必要はないぞ。それは落とし物だ」


そういう考え方をするんだ。


「あぁでも、登録されていたら駄目だな」


登録?


「調べたいから、見せてくれ」


お父さんに弓を渡すと、何かを探すように弓全体を見る。


「これは、大丈夫みたいだ。登録はされていない」


「登録って何?」


「これだ」


お父さんが、いつも使っている剣を私の前に出す。

そして、持ち手の部分を指した。


「あっ、お父さんの名前だ」


持ち手の部分に彫られたお父さんの名前を指で辿る。


「わざわざ彫ってもらったの?」


「冒険者ギルドで、武器の登録をしたら、登録した武器の一部に所有者の名前が彫られるんだよ」


「つまり、この剣はお父さんの物だと、冒険者ギルドに登録したって事?」


そんな制度があるなんて初めて聞いた。


「そう。登録しておけば、他の者が勝手に使う事はできない。盗まれても、戻ってくる可能性が高くなる」


そうなんだ。

それにしても、登録はいつしたんだろう?

全く知らなかったな。


「ソラが作ってくれたこの剣は、財産になる。だから、俺が死んだらアイビーの物という事だ」


「えっ?」


笑っているお父さんを見る。


お父さんの娘として家族登録したから、そうなんだろうけど。


「『死んだら』なんて考えないで」


そんな話はしたくない。


私の頭を優しく撫でるお父さんに視線を向ける。


「冒険者ではないけど、旅であちこち行っているし。色々な問題に巻き込まれる。だから、先の事を少しは考えておかないと。これも父親としての務めだよ。それに、可愛いアイビーが困らないように考えるのは楽しいしな」


問題に巻き込まれるのって、私のせいだよね?

それでお父さんに何かあったら、凄く嫌だな。


「大丈夫だ。そう簡単に、死んだりしない。そのために鍛えているんだしな。アイビーだって、俺を守ってくれるだろう?」


私が、お父さんを?


「もちろん。そのために矢の特訓をしているんだから」


守られるだけは嫌。

私も、お父さんを、皆を守りたいんだから。


「アイビー」


バターン。


「うわっ」


不意に開いた扉に、小さく飛び上がる。


「はぁ、ジナル」


お父さんの呆れた視線の先には、困った表情をしたジナルさん。


「悪い。襲われたと聞いて、心配で見に来たんだけど」


心配してくれるのは嬉しい。

でも今はまだ、さっきの緊張が完全に解かれていないのか、音に敏感になっているみたい。

だから、扉はゆっくりと開けて欲しかったな。


「怪我は?」


「大丈夫だよ」


心配そうに私を見るジナルさんに笑顔になる。


「そうか。良かった」


部屋に入って来たジナルさんは、お父さんを見る。


「ドルイドは?」


「大丈夫だ」


「そうか。2人が無事で、本当に良かった」


ジナルさんは、ホッとすると私達の前の椅子に座った。


「捕まえた奴等は?」


お父さんの質問に、何故かニコリと笑うジナルさん。


「やる気に満ちたシファルとヌーガが担当になるそうだ。フォロンダ様が、指示を出したからな」


「……そうか。まぁ、自業自得だな」


あぁ、ご愁傷様。

捕まった方達は、速やかに全て話す事がシファルさん達から解放される最良だね。

その事に、早く気付けるといいけど。


「それにしても、良く気付いたな」


ジナルさんが、私とお父さんを見る。


「何がだ?」


「問題になっている薬草が近くにあるって」


ジナルさんの質問にお父さんが私を見る。


「臭いが独特なので」


「あぁ、確かに独特だったな。ここに来る前に現場を見てきたけど、家の中が凄く臭かった。あの中で薬と薬草を混ぜていたらしいが」


ジナルさんは嫌そうな表情で首を横に振る。


そうか、外であれだけ臭っていたんだから、中はもっと凄い臭いなのか。


「あの臭い中で、生活していたんだよな?」


お父さんの言葉に、想像してしまう。


「うっ……」


駄目だ。

想像だけなのに、気持ち悪くなる。


「生活はどうかな? 薬を手に入れたのは、今日の朝方だから」


ジナルさんが首を傾げる。


「あの薬草は、2,3日乾燥させるとあの臭いになるから、2日はあの臭いの中で生活していたと思う」


しっかり乾燥させると、本当に臭いんだよね。

間違って収穫して乾燥させた時は、一緒に乾燥させていた他の薬草にまで臭いが移ってしまい、全て処分するしかなかった。


「臭いは消えるのか?」


ジナルさんが私を見る。


「難しいと思う。けっこうしつこく臭っていたから」


薬草を捨てる時に着ていた服に臭いが移ってしまって、何度洗っても取れなかった記憶がある。


「あの豪邸、どうなるんだ」


お父さんの小さな呟きに、さっき見た豪邸を思い出す。


「臭いを完全に取るのは無理だと思うけど」


服も、最後は諦めたんだよね。


「しばらく様子を見て、臭いが消えなかったら建て替えだろうな」


ジナルさんが、冷ややかな笑みを見せる。


「あの豪邸の持ち主と関わりがあるのか?」


ジナルさんの表情に首を傾げながら、お父さんが聞く。


「あぁ、ちょっとな。今の当主とは色々と」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ジナルさん最後の含みが怖い(笑) あと、前の人も言ってるけど登場の仕方変えないとシファルさん出てくると思うなぁ……南無……
ついこないだ1000だったのに!早いなぁ。。。 更新続けてくださり、ありがとうございます\(//∇//)\
何だかんだ父娘どちらも心配してくれているジナルが自分は好きです。でもちゃんとノックはしましょうww オール町の商業ギルドで家族登録する時に何か書き込んでいるくだりもあったから、もしもの時ってのは元冒険…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ