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1011話 お薦めの庭

お昼を済ませ、出掛ける準備をする。


「王都観光で通った道とは、別の道に行こうか」


部屋まで迎えに来てくれたお父さんの言葉に頷く。


「うん、そうしよう。ソラ達はどうする?」


ベッドの上で欠伸をしているソラとフレムを見る。

ソルは既に夢の中だ


「ソラ達は留守番だな」


「そうだね」


「にゃうん」


シエルは元気みたい。


「シエルは一緒に来る?」


「にゃうん」


シエルと一緒に部屋を出て、ソラ達に視線を向ける。


「皆、行って来るね。お休み」


眠そうに揺れるソラとフレムに手を振って部屋を出る。

階段を下り玄関まで来ると、スライムに変化したシエルをバッグに入れる。


「ドルイドさん、これをどうぞ」


玄関にいたドールさんが、お父さんに1枚の紙を渡す。


「この周辺の地図ですか?」


「はい。お薦めの庭に印を付けておきました」


「ありがとうございます」


お父さんのお礼に、嬉しそうに笑うドールさん。

その隣でアマリさんが少し呆れた表情をしている。


あっ、その地図はドールさんとフォリーさんの「役立つ勝負」だ。

まだ継続中なのか。


「お気を付けて」


「いってきます」


見送りに出て来てくれた、ドールさんとアマリさんに手を振る。


「「いってらっしゃいませ」」


頭を下げ、丁寧に見送ってくれる2人の姿に、ちょっと視線が彷徨う。


「どうした?」


私の態度が気になったのか、お父さんが視線を向ける。


「ん~、ここで手を振るのは駄目だったかなって思って」


この辺りは貴族が住んでいるから。


「大丈夫だろう。もしも気を付けた方がいいならドールさん達が教えてくれる筈だ」


それもそうか。


「まぁ、こんな場所だとちょっと気後れするよな」


ラットルアさんを見て頷く。


「ここに私がいていいのかなって、考えたりするよね」


お父さんが不思議そうに首を傾げる。


「ドルイドは、そんな風に思った事はないのか?」


そんなお父さんを見て、ラットルアさんが聞く。


「あぁ、俺は気にした事がないな。アイビーは繊細なんだろう」


そうかな?


お父さんがラットルアさんを見る。


「なんだ?」


「いや、人は見かけによらないんだな」


「悪かったな。俺は繊細には見えないけど、本当は繊細なんだよ」


「……へぇ」


お父さんの反応にラットルアさんの眉間に皺が寄る。


「そんな事より、アイビー。見えてきたぞ」


お父さんが指す方を見る。


「凄い」


視線の先にある庭は、ドールさんがくれた地図に印が付いていた庭だ。

お薦めだけあって、見ごたえがある。


「大きな花が多いな」


ラットルアさんが、庭を見て呟く。


「そうだな。奥の花は、アイビーが手を広げたぐらいないか?」


確かに凄く大きな花だな。


「倒れないように支えてあるね」


大きな花には1本1本、支えがある。

きっとあの支えがないと倒れてしまうんだろうな。


「あれだけ花がデカいと、支えが必要だろうな。あっ、アイビー」


お父さんを見る。


「大きな花で気付かなかったけど、右隣りにある木。面白い形をしているぞ」


右隣の木?


あっ、野兎の形になってる!

いや、野兎にしては耳が短いな。


「なんの生き物だ?」


ラットルアさんが首を傾げる。


「なんだろう?」


ぱっと見は野兎なのに、耳が短い。

他にあの形をした動物や魔物はいたかな?


「あの中途半端な耳の長さが気になるな。長かったら野兎だけど、短かったら野ネズミか?」


お父さんも気になるのか、少し身を乗り出す。


「尻尾は?」


「長いぞ」


ラットルアさんの質問にお父さんが答える。


尻尾が長いなら野ネズミ?

でも、顔の形は野兎だよね?


「野ネズミと野兎が混ざった印象だな」


お父さんが首を傾げる。


「そうだな。なんであの形なんだろうな?」


ラットルアさんも不思議そうだ。


「次に行こうか」


「うん」


お父さんが私を見るので頷く。


不思議な木をずっと見ていても仕方ないからね。

でも、あの木がなんの動物を対象にしたのかは知りたいな。


「ここはまた、拘りが強いな」


ドールさんが印を付けた庭の前で、ラットルアさんが笑いながら言う。


「そうだな。真っ白な庭なんて初めてだ」


お父さんも笑って言う。


「凄いね。白い花だけの庭なんて」


白い花しかないのに種類は多いみたい。


「見ごたえがあるけど、ずっと見ていると……」


「何?」


ラットルアさんを見る。


「ちょっと不気味に見えてくるな」


「ん~」


不気味というか、少し異様な雰囲気は感じるかな。

でも、綺麗は綺麗なんだよね。


ドールさんがお薦めしてくれた庭を見て回る。


「次の5件目が、この通りでは最後のお薦めだ。帰りは、奥にも道があるからそっちへ行こうか」


「うん」


5件目を見て、道を変えフォロンダ領主の家に向かって歩く。


「どの庭も綺麗だね」


どの庭も、色鮮やかな花々で綺麗だな。

もの凄く、手間とお金がかかっていそう。


「膨大な金がかかっていそうだな」


「えっ?」


驚いた表情でお父さんを見る。


「んっ?」


私の視線にお父さんが首を傾げる。


「今、同じ事を思ったから驚いて」


私とお父さんを見て笑うラットルアさん。


「2人は色々な所が似ているよな」


「似ているか?」


お父さんがラットルアさんを見る。


「あぁ、振り返った時の動作とか」


えっ、そうなの?


「あと考え方も似ているだろう?」


「そうか?」


お父さんが私を見るので、首を横に振る。


「分からない」


「一緒にいるから似てくるのか?」


「その考えだと、ラットルアとシファルが似てくる事になるな」


「一緒にいても似る事はないか」


ラットルアさんが首を横に振る。


「でも、腹黒さはそっくり」


「あはははっ」


「……」


あれ?

お父さんは大笑い?

ラットルアさんは……ちょっと不機嫌?


「えっと」


「まぁ、シファルから学んだ事も多いからな。あっ、アイビー」


「何?」


「ドルイドの腹黒さは似るなよ」


「えっ? 駄目なの?」


「「えっ?」」


犯罪者に対する考え方とか、容赦がない態度とか目標にしているんだけど。


「これは喜んでいいのか? それとも止めた方がいいのか?」


お父さんが複雑な表情で私を見る。


「難しい問題だな」


ラットルアさんが真剣な表情で言うので笑ってしまう。


「あれ?」


この臭いって。


ドールさんがお薦めした6件目の庭の近くに来ると、酸っぱさと青臭さが混ざったような鼻につく臭いがした。


「この臭い」


ラットルアさんも気付いたのか、立ち止まって周りを見た。


「どうした? この臭いがなんなんだ?」


お父さんが不思議そうに、私とラットルアさんを見る。


「この臭い、問題になっている薬草の臭いに似ているの」


「それって気分が高揚する薬草か?」


お父さんが私を見る。


「うん」


「アイビーは、問題になっている薬草を知っているのか」


ラットルアさんを見て頷く。


「うん。料理に辛みを足す時に使う薬草の1種類にそっくりだから、何度か間違って収穫してしまって。辛みを足す薬草も、問題の薬草も乾燥させるまではほとんど無臭だから収穫の時に気付けなくて」


「そうか。というか、どうしてここでその薬草の臭いがこんなに強くするんだ?」


お父さんが険しい表情で周りを見る。


ぞわっ。


「アイビー!」


「うわっ」


凄い殺気を感じた瞬間、お父さんに手を引っ張られる。


ドスッ。

ドスッ。

ドスッ。

ドスッ。


お父さんに抱えられるように、道に面した壁の影に隠れる。

そっと元いた場所を見ると、4本の矢が刺さっていた。


怖い、何が起こったの?


「無事か?」


お父さんがラットルアさんを見る。


「あぁ、ぎりぎりだったけど大丈夫だ」


ラットルアさんを見ると、肩のあたりの服が少し切れていた。

でも出血はしていないので、怪我はしなかったみたいだ。


良かった。


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― 新着の感想 ―
なんだ枯山水やってる庭園は無いのか(スットボケ
う~ん、でもまぁ、射かける際に殺気を出してる程度の相手ってことだよね。 もう保護者二人が気を付けてるから問題無い、よね?
こんなところで…! でもシエルが静かだね?
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