番外編 王都を守る者
―冒険者ギルド ギルマス視点―
薬草を盛られ、暴れた者達の情報を確認する。
昨日までに捕まったのは87人。
注意を受けた者は、これの約4倍。
全員の情報を確認するだけでも、かなり時間が掛かる。
「はぁ、終わった」
確認しながら別にした書類に除外という文字を書き込む。
今回除外にした者達は、普段の行動から考えて薬草の影響が強く出たと判断した者達だ。
普段から問題行動を起こす者達と同じ罪に問うのは酷だ。
コンコンコン。
「オルフです」
「どうぞ」
また書類か?
いい加減、書類を見ると燃やしたくなるな。
「失礼します」
補佐をしている職員の1人、オルフが執務室に入って来る。
その手には、数枚の書類。
良かった。
そんなに多くないな。
「薬草を盛られ、騒いだ者達を調べた医者からです。自警団にも報告書を送ったそうです」
「ありがとう」
問題になった薬草だけで、ここまで騒動を起こすのはおかしいとあちこちの医者から報告を受けたため、冒険者ギルドに属する医者に調べさせたんだったな。
「薬を飲んでいたのか」
影響の強く出た者達が、薬を。
これのせいで、気分が高揚する薬草の効果が強くなったのか?
「はい。影響が強く出た者達の証言から、睡眠を促す薬か二日酔いの薬を飲んでいる事が分かりました」
受け取った書類には2種類の薬草の名前が挙がっている。
「この2種類の薬草が、どちらの薬にも入っているんだな」
「はい。そのようです」
「薬草と薬の関係を調べる実験は?」
「騒動を起こした者達の中で、要注意人物になっていた者達が選ばれたようです。書類を受け取った時には既に準備が終わっていたので、もう実験に入っているかもしれません」
「分かった」
結果はどれくらいで出るだろうか?
それにしても、飲み合わせで大人しい者が暴れ回るようになるなんて。
「何かを企む者に知られたら、やばいな」
「はい」
明日は戴冠式だ。
何事もなければいいが。
「あの~」
「なんだ?」
オルフを見ると、困った表情で視線をさ迷わせている。
「どうしたんだ?」
「ちょっと聞きたい事が」
「なんだ」
「あのですね」
俺の傍により、小声になるオルフ。
「フォロンダ公爵の隠し子が王都に来たって噂は本当ですか? 噂を調べていたら、その子の事がかなり流れているんですよ。凄く大切にしていて、護衛に化け物チームだと言われている『風』を付けたとか」
「あぁ……」
あの噂か。
「あれは嘘だ。フォロンダ公爵には2人の息子はいるが、娘はいない」
「あれ? 3人でしたよね?」
オルフが首を傾げて俺を見る。
「教会の暗殺者に殺されたそうだ」
それが、本当なのかは知らないが。
「うわっ、そうだったんですか?」
「あぁ。それより、その噂は消せそうか?」
フォロンダ公爵は今、動けない筈だ。
戴冠式の準備と問題を起こしそうな貴族の対応で。
「難しいですね。噂をしているのが貴族達と貴族と関わりのある商人達なので。まぁ、あの『風』が関わっていると噂が流れてからは、表立って話す者はいないですが」
「『風』か」
フォロンダ公爵が抱える冒険者チーム。
ハタハフ町に所属していると言っているが、実際はフォロンダ公爵に所属していると言えるよな。
実力は上位冒険者の中でも最強、裏にも詳しく、そして上位冒険者を調べる調査員でもある。
「そういえば『風』に新しい噂が追加されました。なんでも、彼等は不死身なんだとか」
「不死身?」
「はい。ジナルさんに捕まった者が『やっと殺せたと思ったのに、すぐに治って反撃された。奴は死なないのか』と叫んだそうです」
そういえば、そんな事を言っていた者がいたと報告を受けたな。
王都の傍で捕まった、呪具を王都に持ち込もうとしていた冒険者だったか。
「致命傷ではなかったんだろう」
「それが、心臓の近くだったそうです」
「それが真実だったら、本当に不死身だな。でも、ありえないだろう」
正規版の青のポーションでも、致命傷を簡単には治せない。
もしすぐに治せたとしても、出血が相当あった筈だからすぐには動けない。
フォロンダ公爵から、凄いポーションを貰っているなら別だが。
「致命傷に効くポーションなんて」
あっ、教会がマーチュ村を襲った時に活躍したポーションがあったな。
情報が秘匿とされたが、奇跡のポーションが見つかったとか言われたような。
「なんですか?」
俺の呟きに、視線を向けるオルフ。
「なんでもない」
情報を秘匿にしたのはフォロンダ公爵だ。
だから、調べない方がいい。
「呪具を運んでいた者の頭が、おかしくなっていたんだろう。あれは、運んだだけで影響を受けるから」
「そうか。呪具の影響だったんですね」
コンコンコン。
「ロロスだ」
自警団団長がこんな日に?
「どうぞ。何かあったのか?」
ロロス団長は、明日の準備で余裕がないと思ったけど違うのか?
「自警団の見回り中に、王都の東側にある薬屋で店主とその家族が殺されているのを発見した」
「薬屋?」
先ほどの報告があるから、嫌な感じだな。
「あぁ。気分を高揚させる薬草の効果を高める薬があるという報告書を読んでいる時に、薬屋の店主が殺されたという報告が来た。関係ないといいが、どう思う?」
「あると思って調べた方がいいだろうな」
「「はぁ」」
ロロスと同時に溜め息が出る。
「やはり、そう思うか」
「あぁ」
「薬草を混ぜた者達が、誰かに唆された可能性は?」
ロロスの質問に首を横に振る。
「その辺りはかなりしつこく調べたが、誰もいなかった」
「そうなると、面倒だな」
「そうだな」
誰かに唆されたのなら、接触した者がいる。
だから、そこから調べられる。
でも、今回はそんな存在はいなかった。
つまり店主を殺した者は、暴れる者達を見てから何かを計画した可能性が高い。
「大通りの数店舗が、問題の薬草で作った香を使っていた。店主を殺した者は、あれを見て気付いたのかもな」
暴れ回る者達が何かの影響を受けていると。
「そうかもしれないな」
疲れた表情のロロスを見る。
「大丈夫か?」
「大丈夫そうに見えるか?」
「見えないな」
俺の答えに、力なく笑うロロス。
コンコンコン。
「団長、いらっしゃいますか?」
「いるぞ。どうした?」
「薬屋の事件の報告書です」
ロロスが扉を開けると、部下から書類を受け取り確認する。
「薬屋からなくなった薬がある。二日酔いの薬だ。戴冠式で飲む量が多くなると考えて、多めに作っていたようだ」
「そうか」
間違いなく、戴冠式で騒動を起こすためだな。
「ロロス。騎士団に報告してくれ。戴冠式の警護は騎士団が中心だろう?」
「あぁ、そうだ。すぐに騎士団に向かう。殺しの捜査情報は、ドトラーにもすぐに報告するように言っておく」
「頼む」
急いで執務室を出ていくロロス。
それを見送ると、オルフを見る。
「実験の様子を見に行こう」
「はい」
はぁ、無事に戴冠式が終わるといいが。




