1009話 えっ、早い
「休憩を終わろうか」
「はい」
「次は、殺気がある状態とない状態で交互にやろう。ドルイド、いいか?」
シファルさんがお父さんを見る。
「問題ない」
「アイビーは?」
「大丈夫です」
よし、殺気がない状態でも的に当てられるように頑張ろう。
「はじめよう」
シファルさんの合図で、お父さんが殺気を調整する。
私は、的に当たった時の感覚を確認しながらマジックアイテムの弓を放つ。
「また駄目だ」
放った6本目。
的から少し離れた場所に、矢が当たる。
「でも、的に近付いているから自信を持って」
「はい」
「次」
殺気がある状態と同じ腕の角度と弦を引く力なんだけど、何が駄目なんだろう?
お父さんの殺気が満ちた状態で、マジックアイテムの弓を引く。
的を狙い、指を離す。
ドスッ。
あっ、真ん中に当たった!
「お見事」
シファルさんが嬉しそうな表情で私を見る。
「ありがとうございます」
よしっ、次は殺気がなくても的に当てる。
大丈夫、出来る!
「次」
お父さんの殺気が消えると、マジックアイテムの弓を構える。
腕の角度と弦を引く力は問題無し。
最後に深呼吸して息を整え、よし。
ドスッ。
「えっ?」
「アイビー、当たったぞ」
お父さんの言葉に頷く。
「うん、当たった。的の隅だけど当たった」
嬉しい。
「良かったな」
シファルさんの言葉にホッとする。
「ありがとうございます。シファルさんのおかげです」
「いや、アイビーが頑張ったからだよ。次も殺気なしでやってみようか」
「はい」
マジックアイテムの弓を構え、さっきの感覚を思い出しながら調整する。
あっ、駄目だ。
変に力が入っている。
ゆっくり呼吸して、落ち着いて。
よし。
ドスッ。
また、当たった。
シファルさんを見ると、ホッとした表情で私の頭を撫でた。
「おめでとう」
「うん、ありがとうございます」
チラッとシファルさんが私の腕を見る。
「あと5回で今日は終わろうか」
いつもより早いけど、私にはこれが限界かな。
無理をすると、明日の特訓に影響する。
「はい」
殺気がない状態で5回、弓を放つ。
5回中2回、的の隅に当たった。
3回も的のすぐ傍だった。
「アイビー、お疲れ様」
「はい。今日はありがとうございました」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「えっ?」
私がお礼を言い終わると、勢いよくソラとフレムが私の傍に来る。
そして、私が持っているマジックアイテムの弓を見た。
「どうしたんだ?」
シファルさんが不思議そうに2匹を見る。
「ソラとフレムに、魔石に魔力を籠めて欲しいとお願いしていたからだと思う」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
もの凄くやる気の2匹に笑ってしまう。
シファルさんもお父さんも楽しそうに笑う。
「ありがとう。えっと、どっちに渡せばいいの?」
「ぷっ!」
「てりゅっ!」
私の言葉を聞いて睨み合うソラとフレム。
「面白いな」
そんな2匹の様子にシファルさんが笑う。
「あっ、もしかしたらあれが使えるのか?」
あれ?
首を傾げながらシファルさんを見る。
「あれとは?」
お父さんがシファルさんに聞くと、彼は傍に置いてあったマジックバッグからマジックアイテムの弓を取り出した。
私が借りたマジックアイテムの弓より大きく、そして埋まってる魔石も大きい。
「凄いな」
お父さんが驚いた様子で、シファルさんが持つマジックアイテムの弓を見る。
「ある洞窟で手に入れた物だ。通常の弓より強い矢を放つ事が出来る。それに、少し特殊なんだ。ただ使用する魔力量が多く、使う時は本当に限られるんだけどな」
特殊?
「見た方が分かりやすいな。少し離れて」
シファルさんが的に向かって構えたので、ソラとフレムに声を掛けて少し離れる。
私達が離れた事を確認したシファルさんは、矢を放った。
ドスッ。
ドスッ。
「えっ。2本?」
的の真ん中に刺さる2本の矢。
それに、私の放った矢が的に当たった時の音より重い音だった。
「凄いな」
「そうだろう?」
お父さんいの呟きにシファルさんが頷く。
でもすぐに、首を横に振る。
「でも、10回が限界なんだ」
「たった10回?」
お父さんが目を見開く。
「そう。魔石に籠められている魔力がなくなるから」
まさか10回使っただけで魔力がなくなるなんて。
シファルさんが的に向かってマジックアイテムの弓を構える。
そして、連続で4回矢を放った。
「魔石を見てくれ」
シファルさんが指した場所にある魔石を見る。
あれ?
さっき見た時は、もっと明るい緑だったのに。
「色が薄くなっているのか」
お父さんが不思議そうに魔石を見る。
「うん。この魔石は魔力を籠めると鮮やかな緑になって、魔力がなくなると薄くなるんだ」
分かりやすいけど、たった5回でかなり薄くなっている。
「ソラ、フレム。魔力を籠めて貰えるか?」
シファルさんを見て、飛び跳ねるソラとフレム。
「ぷぷ」
「てりゅ」
「ぷ~」
「りゅ」
ソラとフレムは向き合うと話し合うように鳴き合う。
そして、ソラは私が使ったマジックアイテムの弓へ、フレムはシファルさんが持っているマジックアイテムの弓へ向かった。
「てりゅりゅ」
シファルさんを見て鳴くフレム。
彼は、フレムの前にマジックアイテムの弓を置く。
「頼むな」
「てっりゅりゅ~」
「ソラもお願いね」
「ぷっぷぷ~」
ソラとフレムがマジックアイテムの弓を包み込む。
そして20秒ほどで離れた。
えっ?
「駄目だったのか?」
「違う、シファル。籠め終わったんだ」
「何?」
お父さんの言葉に驚いた表情をするシファルさん。
きっと私の同じ表情をしていると思う。
だって、ソラとフレムがマジックアイテムの弓を包み込んだのは短い時間だったから。
シファルさんが使ったマジックアイテムの弓を手に取る。
「本当だ」
シファルさんが埋まっている魔石をそっと撫でる。
その魔石は、最初に見た時より鮮やかな緑色をしていた。
「まさかあんなに簡単に魔力を籠めるとは。俺でもこの魔石に魔力を籠めるのは大変だったのに」
感心したような、ちょっと悔しそうな表情で呟くシファルさん。
「凄い2匹だからな。ソラもフレムもありがとう」
ソラとフレムを撫でるお父さん。
2匹は、満足そうに胸を張ってお父さんを見る。
「『どうだ、凄いだろう』という顔だな」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
認めたソラとフレムにお父さんが笑う。
「魔石を作る時も、あんなに早いのか?」
シファルさんが、お父さんと私を見る。
「いや、さすがに20秒ではないかな」
お父さんが私を見る。
「うん。でも魔石を作る速度は、どんどん早くなっているよね」
最初の頃に比べると本当に早くなった。
すぐに止めないと、魔石の山が出来るからね。
「ぺふっ」
んっ?
もの凄く不服そうなソルの声に視線を向ける。
何故か背を向けているソル。
「あっ、アイビー」
お父さんが小声で私を呼ぶ。
「何?」
「ソラとフレムだけを褒めるから、拗ねているのかもしれない」
なるほど。
といっても、ここでソルを褒めるのもおかしいよね?
「「「……」」」
お父さんもシファルさんも困った表情で考え込んでいむ。
「後片付けしようか」
無理に褒めても怒りそうだから、今はそっとしておこう。
お父さん達も私の考えに気付いたのか、笑って頷くと後片付けを始めた。
「ソル」
「ぺふ?」
ソルが私を見る。
「協力して欲しい時はお願いするから、その時は宜しくね」
「ぺふっ」
あっ、ちょっと機嫌が治ったみたい。




