1007話 凄く疲れた
「「おかえりなさいませ」」
フォロンダ領主の豪邸に戻ると、ドールさんとフォリーさんが笑顔で出迎えてくれた。
「ただいま戻りました」
それに挨拶を返しながら、大きく息を吐き出す。
疲れた。
もの凄く疲れたよ。
お世話になっているドールさん達にお土産が買いたかった。
だから、アマリさんに2人が好きそうなお菓子を紹介してもらったんだけど、店の位置は大通りの中央辺り。
ある程度は裏から行ったけど、お店に行くには人込みをかき分けていく必要があり頑張った。
お店は人気店だけあって凄い行列。
1時間は並んだと思う。
その間に、あちこちで怒鳴り声がしたり、何故か椅子が飛んできたりしたけど無事に購入。
あの時は本当に嬉しかった。
「これ、ドールさんとフォリーさんにお土産です」
ドールさんにお菓子の入ったカゴを指しだすと、驚いた表情をした。
それに首を傾げる。
「ありがとうございます。お土産なんて久しく貰っていなかったので驚きましたわ」
フォリーさんが笑顔でカゴを受け取ると、ドールさんを肘で突く。
「あっ、すみません。驚いてしまって」
そんなに驚く事だったのかな?
不思議に思いながら2人を見ると、カゴを見て嬉しそうに笑っている。
それにホッとしていると、ドールさんがアマリさんに視線を向けた。
「アマリ、問題はなかったですか?」
「なかったですわ。ただ、とても騒々しかったです」
「騒々しかった?」
フォリーさんがアマリさんを見ると、彼女が苦笑する。
そして、大通りの様子をアマリさんが説明すると、2人は溜め息を吐くと首を横に振った。
「まったく愚かですわね。騒ぎを起こせば罪に問われ、最悪奴隷落ちもありますのに」
フォリーさんが呟くとアマリさんが深く頷く。
「アイビーさん、ドルイドさん。今日は疲れたでしょう? 夕飯までゆっくり休憩して下さい」
「ありがとうございます。そうさせてもらいます」
お父さんが私を見る。
「うん。部屋でゆっくり過ごしたい」
そんなに歩き回ったわけではない。
でも、異様に疲れた。
「あっ、シファルが帰って来たら伝言をお願いできますか?」
お父さんがドールさんを見る。
「なんでしょうか?」
「『アイビーにマジックアイテムの弓を貸して欲しい』と」
「分かりました」
ドールさん達を分かれ、借りている部屋に向かう。
お父さんを見ると、少し疲れが見えた。
「今日はありがとう」
あの凄い人込みの中で、私を何度も守ってくれた。
お父さんがいなかったら、怪我をしていたと思う。
「役に立てて良かった」
「でも、私のせいで足を踏まれたよね? 本当に大丈夫?」
私をかばった時に、男性冒険者がお父さんの足を踏んだ。
彼はすぐに気付くと謝ってくれたしお父さんは大丈夫と言ったけど、ちょっと痛そうな表情だった。
「大丈夫。怪我をしていたらポーションで治すから」
お父さんの言葉に反応したのか、バッグが揺れる。
「ソラ?」
バッグの蓋を開けると、ソラ達が飛び出して来た。
「皆、今日は大丈夫だった?」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
「にゃうん」
人込みの中、皆が入っているバッグは頑張って守ったけど数回は押された。
だから心配だったけど、大丈夫そう。
「良かった」
「ぷぷっ?」
ソラがお父さんを見る。
「んっ? あぁ、怪我か?」
「ぷっぷぷ~」
「今は痛くないから、怪我はしていないと思うぞ」
「ぷ~」
落ち込むソラに、お父さんが笑う。
「落ち込まれると、複雑な気持ちになるな」
お父さんとソラのやり取りに笑ってしまう。
「さて、風呂に入ってさっぱりするか」
あっ、お風呂か。
「そうだね。休憩前にゆっくりお湯につかりたい」
お父さんと分かれて、何故かソラがお父さんに付いて行った。
お風呂の準備して、部屋を出る。
「だから、怪我はしていないと言っただろう?」
「ぷっ」
お父さん、怪我はしていなかったんだね。
良かった。
でもソラは不服そう。
「また怪我をした時に、治してくれ」
「ぷっぷぷ~」
お父さんとソラのやり取りに、また笑いながらお風呂に向かう。
お風呂に入り、お湯につかると大きく息を吐き出す。
「はぁ~、気持ちい~」
「ぷ~」
「てりゅ~」
「ぺふっ」
「にゃうん」
スライム4匹が、お湯に浮かんだ状態で気持ちよさそうに鳴く。
普通の宿では無理だけど、この豪邸だと一緒にお風呂に入れるんだよね
浮かんでいるソルを指で突く。
「ぺふっ?」
「ふふっ、気持ちいいね」
「ぺふっ」
あれ?
なんとなく皆、横に広がってない?
温かいお湯で?
「皆、体に異常はない?」
「ぷ~」
「りゅ~」
「ぺ~」
「にゃ~ん」
なんとも言えない鳴き声に笑ってしまう。
「大丈夫そうだね。そろそろ出ようか」
十分温まったのでお風呂を出て部屋に戻る。
ベッドに飛び乗ると、ソラとフレムがマジックバッグの上で飛び跳ねた。
「お腹空いた? 今用意するね」
ベッドから下りると、マジックバッグからポーションとマジックアイテムを出す。
剣は全て食べ切ってしまい、ない。
「皆のご飯。もうないな」
明後日の朝までならあるかな。
「フォロンダ領主にはセイゼルクさん達が言ってくれた筈だけど」
夕飯の時にお父さんに相談しよう。
「皆、食べていいよ」
ソラ達の食べている様子を見てから、ベッドに戻る。
「にゃうん」
元の姿に戻ったシエルが私の横に寝そべる。
「シエル、一緒に寝よう」
夕飯まで寝よう。
今日は、本当に疲れたから。
「あれ?」
欠伸をしながら、窓の外を見る。
「明るい?」
昨日は夕飯まで寝ようと思って……。
「朝まで寝てしまったんだ!」
フォリーさんの作る夕飯を凄く楽しみにしていたのに。
グー。
お腹を押さえる。
時計を見ると、朝ごはんの時間まで1時間ある。
「ちょっと早いね。でも、お腹が空いた」
ベッドを下り、顔を洗い着替える。
「にゃうん?」
シエルが不思議そうに私を見る。
「起こしちゃってごめんね。朝ごはんにはちょっと早いけど、食堂に行って来るね」
「にゃうん」
シエルがベッドを下り、私の傍に来る。
「一緒に行くの?」
「にゃうん」
「ありがとう。行こうか」
足元で寝ていたソラ達を見る。
私が起きた時に一度目を覚ましたけど、今は寝ている。
起こさないようにそっと部屋を出ると、1階の食堂に行く。
「アイビー、シエル、おはよう」
「お父さん、おはよう」
「にゃうん」
食堂に入ると、お父さんがいた。
「疲れは取れたか?」
「うん。気付いたら朝だった」
「夕飯の時に起こしに行ったんだけど、起きなかったんだ」
起こしに来てくれたのに起きなかったんだ。
今までは起こしてくれたら起きたのに。
「おはようございます。今、朝ごはんの用意をしますね」
調理場から顔を出したフォリーさんが、私を見て笑う。
「フォリーさん、昨日はすみません。夕飯を作ってくれたのに、寝てしまって」
「ふふっ、大丈夫ですよ。気にしないで下さい。それに、セイゼルクさん達が食べ切ってくれましたから」
それなら良かった。
食べれなかったのは悲しいけど。
「アイビー、おはよう」
食堂に入って来たシファルさんを見る。
「おはよう、シファルさん」
「伝言を聞いたよ。あとで、使い方を教えるから一緒に特訓をしようか」
あれ?
「今日は時間があるの? 大丈夫?」
昨日のあの状態で休み?
「あぁ、昨日のうちに色々と解決したから。今日からは昨日ほど騒ぎが起きない筈だ」
どういう意味だろう?
解決したから、騒ぎが起きない?
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ほのぼのる500




