1005話 人気のない盾
「次はお父さんの用事だね。何を見に来たの?」
「盾が欲しいんだ」
盾?
でもお父さんは、盾を持つと戦えなくなる。
「マジックアイテムの盾だ。通常は小さいけど、大きくなって攻撃を防ぐんだ」
そんな盾があるんだ。
「ドルイドさん。その盾は、冒険者に人気がないですよ」
アマリさんを見て頷くお父さん。
「冒険者だったら、普通の盾を選ぶでしょう。でも俺はこの腕です。持てる盾にも限界があります。だから、マジックアイテムの盾ぐらいがちょうどいいと思ったんです」
お父さんの右腕を見る。
どうやって盾を持つんだろう?
「マジックアイテムの盾を改良してもらって、腕に巻きつけられるようにしてもらおうかと思ってな」
私の視線に気付いたお父さんが、笑って言う。
「必要なの?」
今まで何度もお父さんの戦っている姿を見てきた。
それを思い出しても、盾が必要だとは思えない。
「うん、必要だと思う」
首を傾げると、ポンと頭を撫でられた。
「戦っている時は何が起こるか分からないから、俺でも持てる盾をずっと考えていたんだ。そして突然変異の魔物と戦って本当に必要だと感じた。だから、本気で探そうと思ったんだ」
「そうだったんだ」
気付かなかったな。
戦っているお父さんはいつも余裕があるように見えたから。
「マジックアイテムの盾は、あちらですね」
アマリさんが指す方を見ると、沢山の盾が壁に並んでいる一角が見えた。
「ありがとうございます。アイビー、マジックアイテムの弓はどうする?」
「シファルさんに話を聞いてから考えてみようと思う」
「そうか。だったら盾を見に行こう」
盾がある場所に行き、マジックアイテムの盾を探す。
「見当たりませんね」
アマリさんが首を傾げる。
お父さんも不思議そうに首を傾げる。
「実は、実物を見た事がないんですよね」
お父さんも見た事がない、マジックアイテムの盾?
もしかして見た目が盾のように見えないのかも。
盾が並んでいる場所ではなく、近くの棚に視線を向ける。
そこに並ぶのは、7,8㎝ぐらいの板。
形は丸い物から縦長など様々あるみたいだ。
「あっ、お父さん。これがマジックアイテムの盾だ」
「えっ? それが?」
私が持った丸い板を見て、お父さんが困惑した表情を見せる。
「うん。商品説明に『マジックアイテムの盾』と書いてあるよ」
アマリさんが言っていた通り、マジックアイテムの盾は人気がないみたいだ。
だって商品説明が「マジックアイテムの盾、作動時の大きさ20㎝」と、とても簡単だ。
通常の盾の説明には、素材や耐久性がしっかり書かれてあり、攻撃にどれだけ耐えられるかも書いてあるのに。
「これか。こんなに小さいんだな」
お父さんがちょっと感心した様子で、私から丸い板を受け取る。
「不人気なわけだな。普通の冒険者だったら、20㎝の盾は小さすぎる」
確かに小さい盾だと不安かも。
ただ商品説明からは、耐久性が分からないから判断は出来ないけれど。
「これ、腕に着けられるようになるかな?」
お父さんが、右腕にマジックアイテムの盾を当てる。
「ここで20㎝の大きさになるのか。もう少し大きくなってもいいかもしれないな」
お父さんの気に入った様子に笑顔になる。
「もう少し大きくなる盾だね」
並んでいる商品説明を見る。
20㎝になる物が多いな。
「あっ、30㎝になる盾があるよ」
お父さんに細長い板を渡す。
「形もそれぞれ違うんだな」
「うん、そうだと思う」
細長い板が丸い盾になる事はないと思う。
でも、マジックアイテムだから絶対にないとはいえないんだよね。
「ドルイドさん、この店で改良をしていただけるか聞いてきましょうか?」
「いいんですか?」
「はい」
「では、お願いします」
アマリさんが笑顔で頷くと、周りを見渡しながら会計の印がある場所に向かった。
「お父さん、この盾は魔力攻撃を防ぐと書いてあるよ」
「本当だ。この機能は欲しいな」
次々とマジックアイテムの盾を見て行く。
「ん~、耐久性が分からないと、選べないな」
「そうだね」
お父さんが欲しいのは、30㎝ほどの大きさになり数回は確実に攻撃を防げる盾みたいだ。
「ドルイドさん」
「アマリさん、ありがとうございました。どうでしたか?」
「この店で改良は無理だそうです。でも、姉妹店にマジックアイテムの改良をする専門店があるそうなので紹介してくれるそうです」
「そうなんですね。分かりました」
「選べましたか?」
「それが商品説明からは、耐久性が分からなくて」
アマリさんが商品説明を見る。
「本当に何も書いていないんですね。盾を選ぶにあたって重要ですのに」
そうだよね。
盾は耐久性が重要な要素の1つだよね。
その説明がないなんて、今まで指摘された事がないのかな?
「失礼します」
男性の声に視線を向けると、最初に声を掛けてくれた男性がいた。
「何かお困りですか?」
男性は、お父さんが手に持つマジックアイテムの盾を見て少し驚いた表情をした。
「これの耐久性を調べて欲しいんですが、分かりますか?」
「少しお待ち下さい」
お父さんの言葉に頷くと、男性が商品説明を見る。
そして困った表情をした。
「申し訳ありません。少しお待ちいただけますか?」
「分かりました」
お父さんの返事を聞くと、周りを見渡す男性。
私たちに小さく頭を下げると、1人の女性の元に行った。
そして女性と一緒に店の奥に入っていく。
「お待たせいたしました」
しばらく待っていると、男性は紙の束を持って戻って来た。
「耐久性をお知りになりたい商品は、どちらでしょうか?」
近くにあったテーブルに紙を置き、お父さんを見る男性。
「この2個です」
お父さんは、持っていた2個のマジックアイテムの盾をテーブルに置く。
男性は商品を確認すると、紙の束を調べ始めた。
「ありました。こちらの丸い形は、耐久性は12です。6回程度の攻撃は完全に防げるでしょう。縦長の方は22ですので10回程度です。こちらの商品ですが、攻撃を防ぐときに魔力を使用します。盾が壊れない限り、魔力を補充すると耐久性は元に戻ります」
魔力を補充すれば耐久性は戻るけど、戦っている時に補充するのは難しい。
しかも多い方でも10回しか防げない。
冒険者達に人気がないわけだ。
縦長の方を手に取るお父さん。
「作動時の大きさを見る場合は、横に小さなボタンがあります。それを押して下さい」
「小さなボタン? あっ、これか」
お父さんがボタンを押すと7㎝の細長い板が横幅28㎝の細長い盾になった。
「長さは35㎝ぐらいか」
お父さんは大きくなった盾を右腕に当てる。
「これにしようかな。あっ、裏に魔石が埋まっているんですね」
お父さんの持っている盾を隣から見る。
「本当だ、小さい時は魔石に気付かなかったね」
「うん。不思議なマジックアイテムだな」
お父さんは、大きくした盾を隅々まで確認すると男性を見る。
「こちらの改良をお願い出来ますか?」
「分かりました。本日、商品代金をお支払いいただく事になりますがいいでしょうか?」
「はい」
お父さんはマジックアイテムの盾を元の大きさに戻し、テーブルに置く。
「こちらに改良して欲しい要望をお書き下さい」
お父さんは、受け取った紙に「腕に着けれるように」と書くと男性に渡す。
「ありがとうございます」
紙を受け取った男性はお父さんと私を見る。
「本日の購入は、こちらだけでしょうか?」
「はい」
「では会計をしますので、よろしくお願いいたします」
お父さんが会計に行くのを見送ると、周りの商品を見て回る。
「欲しい物がありましたか?」
「いえ、武器や防具は見ているだけで楽しいですから」
「そうですか。あっ、見て楽しむなら暗器の方がお薦めですよ」
暗器?
「こちらです」
アマリさんと一緒に暗器の武器がある場所に行き、彼女の説明を聞く。
「接近戦ではこちらの髪留めがお薦めです。スッと刺さるので気持ちがいいですよ」
ふふっ、凄い説明だな。
「何をしているんだ?」
戻って来たお父さんが、私とアマリさんを見て首を傾げる。
「暗器の使い心地と商品の説明かな?」
「使い心地?」
お父さんに溜め息を吐かれてしまった。




