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106話 逃げる!

森の中を久しぶりにのんびり歩く。

もちろん周りの気配は気にしているが、それでも楽しい。

それに、気配を感じる感覚が鋭くなったような気がする。

問題が起こる前より、自然に感覚が掴めるのだ。

今回の事で成長できたのだろうか?

不安な事がいっぱいあったけど、良い事もあったようだ。


「気持ちがいいね~。ソラ」


私の周りでピョンピョンと跳ね回るソラ。

ずっとテントの中だけで行動していたので、かなりうれしいようだ。

ソラを見ていると、本当に終わったんだな~っと感じる。


「ポーション、いっぱいあるといいね」


向かっている場所は捨て場だ。

ソラの食事用ポーションが、無くなったためだ。

捨て場に到着して、少し戸惑ってしまった。

いつものゴミに交じって、家財道具などが酷く壊されて捨てられていた。

もしかしたら、捕まった人達の物だろうか?

人の闇は深くて悲しい。


「ふぅ~。さて、ポーションを探そうか」


気を取り直して、捨て場に入る。

大きな町だけあって、探す必要がないぐらい捨てられている。

しかもちょっとでも劣化すると捨てるようで、私にとってはかなり状態のいいポーションが手に入る。

うれしい限りだ。

そう言えば、この町の近くに洞窟が数ヶ所あったはず。

そこに現れる魔物が持つ魔石が、かなり高額で取引されるって聞いたような気がするな。

もしかしたら、お金を持っている冒険者が多いのかな?


お金か。

謝礼金と懸賞金。

正直、冬の心配がなくなるならうれしい。

でもまさか、高額奴隷が買える金額になるとは思いもしなかった。


「あっ、でも高額奴隷の金額を知らないや」


驚きすぎて、高額奴隷の金額を教えてもらうのを忘れていた。

ただあの時に訊いたら、卒倒したかもしれないけど。

そう言えばラットルアさんが、ものすごくその事が嬉しそうだったな。

旅を続けるなら、奴隷で身を守った方が良いと教えてくれたのは彼だったっけ。

言っている事は、理解できる。

でも、奴隷か~。

何だかこうむずむずすると言うか、心の中に壁があると言うか。

ちょっと拒否反応があるような気がする。

なんでだろう?

ふ~、この問題は後回しだな。

まだ2週間余裕があるし。


ボロルダさんには団長さんに「分かりました」と伝言をお願いしておいた。

急ぐ旅でもないし、少しゆっくりしてまた狩りを始めたいと思っている。

そう言えば、彼らは団長さん並みに忙しくなるようだ。

自警団から指定依頼が入っていた。

見つかった書類整理にボロルダさんとセイゼルクさん、ロークリークさん、マールリークさんが。

捕まった人達から話を聞くのにシファルさんとリックベルトさん、ラットルアさんが協力するそうだ。

ちなみにヌーガさんはシファルさんの止め役らしい。

いったいシファルさんは何をするのだろう?

当たり前のように止め役として依頼がきたと、ラットルアさんが大笑いしていた。

その後シファルさんに……まぁ、色々ありました。


「ふ~、腰が……」


屈めていた体勢を戻して、体を伸ばす。

ポーションはマジックバッグに詰め込めるだけ詰め込んだ。


「ソラ、森の奥へ少し行ってみようか」


此処まで森を歩き回ったが、アダンダラが姿を見せる事はなかった。

もしかしたら、何処かへ行ってしまったのだろうか?

それなら仕方ないけれど、悲しい。

ソラがぴょんと跳ねて私のもとへやって来る。

そう言えば、今日はゴミに挟まる事が無かった。

ソラも成長したのかな?


捨て場から離れて森の奥を目指す。

ただ、あまり奥に行きすぎると強い魔物がいるので注意が必要だ。

周辺や木の上を見ながらしばらく歩くが姿は無い。


「お別れなのかな?」


「ぷっぷ~?」


ん?

ソラの鳴き方に違和感を感じた。


「どうしたの?」


ソラを抱き上げると、こちらに近づく気配に気が付いた。

冒険者の様で、その気配はかなり薄い。

以前の私だったら、もっと近づくまで気付くことは無かっただろう。


「ソラ、隠れていてね」


ソラをバッグに隠す。

近付く気配からなんとなく嫌なモノを感じる。

その感覚に背中に汗が伝う。


「どうしよう」


あっ、1人じゃない。

先頭を歩いている人の少し離れた場所に1人……違った、3人もいる!

全員で4人の様だ。

逃げたいけど、近付く速度が速くて間に合わない。

それに、もうすぐそこに来ている!


「あれ? こんな所で何をしているの? あっ、君って確かアイビーって言う子だよね?」


落ち着け!

強張りそうになる表情を何とか抑え込む。

声に視線を向けると、温和な表情で笑う男性がいる。

ただ、他の3人が姿を見せる事はない。

声が強張らないように、ゆっくり深呼吸して。


「はい。あなたは確かセイゼルクさん達を呼びに来た冒険者の方ですよね?」


思い出した。

この町へ来た翌日の朝、セイゼルクさん達を呼びに来た人だ。


「覚えていてくれたんだ。そうそう、中位冒険者のハルレって言うんだ。よろしく」


ハルレさんが名前を名乗ると、肩から提げていたバッグが微かに揺れる。

困った、ここには私1人だ。

しかも、この人の他に3人もいる。

それが、私を囲うように回り込んだのを気配で感じた。

逃げられない。

隙が出来るようにするには、どうすればいいのだろう?


「よろしくお願いします。今日はどうしたのですか?」


「ん? あぁ、ちょっといろいろね」


「いろいろですか?」


「あぁ、危ない魔物の情報があってね。俺はその確認に来たんだ」


嘘だ。

だったらどうして他の3人は隠れているのですか? って聞きたい。

う~、どうしよう。

ある程度、合わせて隙を見つけた方が良いのかな?

でも、薬を使われたら手も足も出ない。

ミーラさんの作戦では、薬が使われる手筈になっていたし。

一か八か。


「嘘ですよね」


「えっ?」


「組織関係者の人ですか? 3人の方も、バレバレですよ」


ハルレさんの目が見開かれる。

隠れている3人からも、動揺が伝わってくる。

さて、ここからどうしよう。


「何を言って『あなたが組織関係者だという事は、団長さんやギルマスさんは既に知っている事です』」


だといいな~。

私の言葉に、目に見えて狼狽えたハルレさん。


今だ!


ハルレさんに向かって体当たりする。

そして、走って逃げる。


「あっ、待て。おい何をしている、捕まえろ! あいつは高く売れるんだ!」


隠れている3人は、私が後ろに逃げた時のために背後に隠れていた。

なので不意をつくならハルレさんだと思った。

とりあえず成功したけど、大人の足だけあって速い。


「逃がすか!」


男性達の声と足音が近づいて来る。

やっぱり作戦失敗だったかな?

でも! 諦めたくない!


「こいつ!」


腕を掴まれ、木にたたきつけられた。

グッと胸が圧迫されて息苦しくなる。


「いたっ」


「おい。傷をつけるな! 商品だ」


何が商品だ!

ふざけるな!


「ハッ、少しぐらい大丈夫だろ。どうせあの変態の所なんだろ?」


「ハハハ、まぁな」


腕を思いっきり掴まれているので痛みが走る。

悔しい。

何とか……。


「おいっ……」


男性の怯えた声が耳に届く。

そちらを向きたいが、ぶつけた胸と掴まれた腕が痛くて確認できない。


「えっ、何で……」


「ちょっ、どうするんだよ!」


ヴ~~、グルルル……


ものすごい重低音が聞こえる。

私を掴んでいた男性の体がびくりと震えて、手が緩む。

すぐに掴まれている腕を振り回して手を引き離した。

何故か、すぐに手が離れていった。


「?」


不思議に思って男性に視線を向けると、真っ青な顔して何かを凝視している。


「えっ、何?」


シャー


何かの威嚇音が後ろから聞こえた。

次の瞬間、男性がばたりと後ろに倒れる。


「……」


周りを見るとハルレさん以外の男性達は既に意識が飛んでいるようだ。

ハルレさんも、ガクガクと震えて座り込んでいる。

震える体にぐっと力を入れて、そっと後ろを向く。


「あっ」


その瞬間、体から力が抜けた。

後ろには、牙をむき出しにしてハルレさんを睨みつけるアダンダラの姿。

じっと見ていると、ちらりと私を見てからハルレさんに近づいていく。

そして、目の前でぐわっと大きく口を開いて……ハルレさんが白目をむいて倒れた。

白目をむく人、初めて見たな。


「はぁ~」


全身から力が抜けて、その場に座り込む。

バッグがもぞもぞと動いてソラがそっと顔を出す。


「アダンダラが助けてくれたよ」


私が伝えると、うれしそうにぴょんと跳ねるソラ。

アダンダラは私に近づいて、頭に顔をすりすり。

久しぶりの感覚にうれしくなって、首元に抱き着く。


グルルル。


あ~、アダンダラだ~。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 『ヴ~~、グルルル……』 ここでウルッと来てしまいました。 2期はここからでしょうか?
[良い点] アダンダラ、Tueeeeeee!! かっこいい!!!
[一言] お帰りなさい、アダンダラ。良かったやっと会えたね。
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