994話 朝はのんびり
「ぷっぷ~」
「てりゅ?」
「ぷ~」
ソラとフレムの鳴き声だ。
何を話しているんだろう?
「ぷぷっ!」
「てりゅ!」
「ぺふっぺふっ」
ソルもいるみたい。
あれ?
周りが明るい?
「寝過ごした?」
目を開けると、
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
ソラ達が私を覗き込んでいた。
「……さすがにちょっと驚くね」
起き上がってソラ達の頭を撫でる。
「おはよう、皆」
ソラ達の元気な返事に笑顔で足元を見る。
「にゃうん」
「シエルもおはよう」
ゆっくりと体を起こし、伸びをするシエル。
本来の姿だから、なんとも優雅だな。
昨日、ドールさんにどこまで私の事を知っているのか聞いたら、ほとんど何も知らなかった。
フォロンダ領主から聞いたのは、私がテイマーで変わった魔物をテイムしているということだけ。
だから、皆をドールさんに紹介して、シエルの本来の姿についても話した。
ちょっと目を見開いたドールさんは、すぐに笑顔で頷いた。
あまりの反応の薄さに、私のほうが驚いてしまったんだよね。
「朝ご飯を用意するから待ってね」
マジックバッグから皆のご飯を出す。
「ポーションもマジックアイテムも残りが少ないな。今日か明日には、捨て場に行かないと」
お父さんに相談しよう。
顔を洗い、服を着替えると皆を見る。
「食べ終わったみたいだね」
いつもよりちょっと食べ終わるのが早かったな。
量はいつもと一緒の筈だけど。
「あれ? 一緒に行くの?」
私が朝ご飯を食べに行く時は、いつも部屋にいるのに。
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
ソラとフレムの視線が窓に向く。
つられて窓に視線を向ける。
「もしかして庭に行きたいの?」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
昨日は遠慮していたのに、庭が気になるのか。
「自由にどうぞと言われてはいる。言われてはいるけど……」
昨日見た庭を思い出す。
あそこでソラ達が飛び跳ね回って花が散ったら?
「ぷっ?」
不思議そうに私を見るソラ。
フレムも、ソラの隣で体を傾ける。
「花が咲いているから、動きはゆっくりね。あと木の枝を折らないようにね」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
うん、信じよう。
きっと大丈夫。
それに「自由にどうぞ」と言っていたから、ちょっとぐらい何かあっても許される筈!
「行こうか」
皆と部屋を出て扉に鍵を掛ける。
1階に下りて、庭に向かう。
「あら、アイビー様。おはようございます」
庭に出る扉から入って来た女性を見て、嬉しい気持ちになる。
「アマリさん。お久しぶりです」
フォロンダ領主の侍女、アマリさん。
今日も立ち姿が綺麗だな。
「お庭ですか?」
「はい。あっ、駄目でしょうか?」
「いいえ、大丈夫ですよ。ただ、ちょっと待ってもらえますか?」
アマリさんの言葉に首を傾げると、彼女が庭に出る扉を見た。
「虫が入り込んでしまったので処理をして、今掃除をしている所なのよ」
虫?
毒でも持っている虫が出たのかな?
「どんな虫なんですか?」
「毒を持っていて刺す虫なの。見つけたら、すぐに処理するのが基本ね」
あれ?
アマリさんの笑顔に、なんとも言えない凄みがあるんだけど。
もしかして虫って……侵入者?
毒を持って刺す。
処理……あぁこれは、聞かないほうがいいやつだ。
「えっと、庭はご飯を食べた後にします。掃除も大変だろうから」
「あら、大丈夫よ。フォリーは慣れているから掃除が早いもの」
フォリーさんは、昨日はいなかったドールさんの奥さんだったよね。
「あらっ、おはようございます」
庭に出る扉が開き、穏やかな笑顔の女性が入って来る。
「おはようございます。アイビーです。昨日からお世話になっています」
フォリーさんに頭を下げて挨拶すると、ふわりと優しい笑顔になる。
「ご丁寧にありがとうございます。料理長のフォリーです。よろしくお願いしますね」
料理長なんだ。
凄いな。
それにしても、もの凄く優しい笑顔の人だな。
アマリさんの話を聞いていなかったら、虫の掃除に慣れているとは思わないだろう。
「フォリー、庭に出てもいいかしら?」
アマリさんを不思議そうに見るフォリーさん。
「私ではなく、アイビー様達よ」
「えぇ、大丈夫です。どうぞ」
庭に続く扉を開けてくれるフォリーさん。
お礼を言って、皆と庭に出る。
昨日と違い、でもちょっと戸惑いながら庭を飛び回るソラ達。
シエルは日向になっている場所でくつろぎだした。
あれ?
アマリさんもフォリーさんも、シエルの姿を見ても驚かなかったな。
フォロンダ領主から聞いていたのかな?
「「おはよう」」
庭にシファルさんとラットルアさんが来る。
「おはよう」
2人を見ると、楽しそうにソラ達を見ている。
「この庭に慣れたみたいだな。まぁすこし、飛び跳ねる高さが低いけど」
シファルさんが楽しそうに言うと、ラットルアさんが頷く。
「うん。ちょっと加減して遊んでいるみたい」
3人でソラ達を見ていると、お父さんの声が聞こえた。
「ここにいたのか。朝ご飯を食べに行こう」
あっソラ達を見ていて、ご飯を忘れていた。
「うん。皆、ご飯を食べに行くけどどうする?」
ソラ達が、私の傍に来る。
「一緒に食堂に行く?」
「ぷっぷぷ~」
「ぺふっ」
「てっりゅりゅ~」
ソラ達は一緒に行くみたい。
シエルは庭に出てからずっと日向で眠っている。
「シエル、ご飯を食べに行って来るね」
シエルの傍により頭を撫でる。
「にゃうん」
顔を上げて、眠そうに鳴くシエル。
その可愛らしい姿に笑顔になる。
「行って来ます。あとで迎えに来るね」
皆で食堂に行くと、セイゼルクさんとドールさんが真剣な表情で話していた。
何かあったのかな?
「おはようございます。今、料理を持って来ますのでお待ちください」
ドールさんが私達に気付くと、挨拶をして食堂から出て行く。
「おはよう」
セイゼルクさんの様子を窺うが、いつもと変わらない。
それにホッとして椅子に座る。
「「お待たせしました」」
ドールさんとフォリーさんが、それぞれの前に料理を並べる。
「うわ、朝から凄いね」
昨日の夕飯も思ったけど、盛り付け方がとても綺麗だ。
「「「「「いただきます」」」」」
白パンに野菜たっぷりのスープ。
薄切り肉が載ったサラダに、さっぱりした味の野菜をお肉で巻いた料理。
「おいしい」
これがフォリーさんの作った料理か。
あっ、白パンの柔らかさが私の作った物と全く違う。
これは、時間がある時に作り方を聞いてみよう。
教えてくれるかな?
「ドルイド、今日の予定は?」
セイゼルクさんがお父さんを見る。
「まだ決まっていないが。セイゼルク達はどうするんだ?」
「俺とシファルは、フォロンダ様に魔物について説明して来る。ヌーガとラットルアは冒険者ギルドに魔物の素材などを売りに行く予定だ」
そういえば、売っていない魔石や宝石がまだ随分とあったな。
王都では売らないのかな?
「そうか。アイビー、何か希望はあるか?」
「ソラ達のポーションが欲しいから捨て場に行きたいんだけど」
私の言葉に、お父さんが首を横に振る。
「ドールさんに聞いたんだが、捨て場には許可した者しか入れないそうだ」
「えっ?」
入れない?
どういう事?
「王都のゴミ問題は深刻化していて、色々と決まりごとがあるらしい。その一つに、許可した者しか捨て場に入れないというものがあるそうなんだ」
「そうなんだ。ソラ達のポーションはどうしよう」
許可を貰えばいいのかな?
「フォロンダ様に、許可が貰えるか聞いてこようか?」
シファルさんを見て頭を下げる。
「お願いします」
マジックバッグに、あと4日分はある。
それまでに、許可が貰えればいいけど。




