992話 ポーションの値段
「あれ? 遊ばないのか?」
フォロンダ領主が不思議そうにソラ達を見る。
「この庭を見て、気後れしたんだろう。ここの庭、凄いから」
ジナルさんの言う通り、とても綺麗な庭だもんね。
木の位置や高さまで計算されていそう。
「そうか? まぁ、確かにちょっと金は掛けたかな」
きっと、私では想像出来ないような金額を掛けて作ったんだろうな。
気になるけど、聞かない方が良さそう。
だって、知ったら庭に出れなくなりそうだから。
「あっ、ドルイド。ポーションの値段は幾らだ?」
フォロンダ領主を見て、困った表情をするお父さん。
「もしかして決めていないのか?」
驚いた表情を見せるフォロンダ領主に、お父さんは頷く。
「このポーションを使うのは、問題が起こった場所です。なので、復興に影響しない金額を貰っているんです」
「素晴らしい考えだな。そうか、払える金額か……」
考え込むフォロンダ領主に、お父さんの眉間に皺が寄る。
「いや、決めました。5ラダルです」
うん、お父さんが決めたらいいと思う。
だって、凄い金額を言いそうだもん。
「ありえないだろう! 王都では正規版の青のポーションが1ラダルから3ラダル。裏取引で5ラダルだぞ」
「5ラダル? 高すぎるでしょう」
フォロンダ領主の言葉に、セイゼルクさんが目を見開く。
「ポーションが足りないんだ」
シファルさんが首を傾げてジナルさんを見る。
「どういう事だ? ポーションを作る者に何かあったのか?」
「いや、そうではない。冒険者達が、いつもより多くポーションを確保しているせいだ」
ジナルさんの説明に、フォロンダ領主の表情が険しくなる。
「冒険者が? 魔物に何か……もしかして突然変異が関係していますか?」
「「えっ?」」
お父さんを、驚いた表情で見るジナルさんとフォロンダ領主。
「どうしてそれを知っている? もしかして王都に来るまでに何かあったのか?」
ジナルさんの質問に、お父さんとセイゼルクさん達が頷く。
「何があったんだ?」
ジナルさんがセイゼルクさんを見る。
「突然変異した巨大な魔物2匹に襲われた。その近くには、人が手を加えたような洞窟があった」
「何?」
セイゼルクさんの言葉に、反応するフォロンダ領主。
その表情には少し焦りが見える。
「どうしたんだ?」
ジナルさんが不思議そうに聞くと、彼は首を横に振る。
「悪い。まだ詳しい事は話せない。場所は何処だ? それと魔物はどうした?」
「地図に印を付けておきました」
セイゼルクさんが地図を出すと、フォロンダ領主に渡す。
「魔物は、冒険者ギルドから預かっていたマジックバッグに入れて持って来ました」
フォロンダ領主が、セイゼルクさんが持ち上げたマジックバッグを見て頷く。
「冒険者ギルドには俺から報告しておく。その魔物を、こちらで調べさせてもらえないか?」
セイゼルクさんがお父さんを見る。
「冒険者ギルドに報告してくれるなら、問題ないだろう」
「分かりました。どうぞ、巨大な魔物が2匹と皮が異様に硬かったトトーラも入っています」
マジックバッツを受け取ったフォロンダ領主が首を傾げる。
「トトーラ?」
「はい、薬草が沢山ある場所で遭遇しました。トトーラから逃げてきた冒険者達の話で、トトーラも突然変異した可能性があるので持ってきたんです」
セイゼルクさんの説明に頷くフォロンダ領主。
「そうか。どちらも詳しく調べないとな」
フォロンダ領主が、傍に控えていたドールさんを見る。
「部屋の準備は?」
「終わっております」
「ありがとう」
フォロンダ領主が私達を見て笑う。
「急ぎの用事が出来たので、ここで失礼させてもらうよ」
手に持っている魔物の事だよね。
「俺に用事がある時は、ドールに言ってくれ。すぐに対応が出来ないかもしれないけど、確実に俺に届くから。あとは、この家の中は自由に使ってもらっていい。セイゼルク」
「はい」
「この魔物と戦った時の事を聞きたいんだが、問題ないか?」
手に持っているマジックバッグを掲げてセイゼルクさんを見るフォロンダ領主。
「問題ないです。話をする時は、仲間と一緒でいいですか?」
「もちろんだ。なるべく魔物の動きや攻撃について、詳しく話して欲しい」
「分かりました。シファルと一緒に行きます」
フォロンダ領主がシファルさんを見ると、彼は頷いた。
「ありがとう、頼むな。今日は旅の疲れもあるだろうから、ゆっくり過ごしてくれ」
フォロンダ領主が庭から豪邸に入る扉に手を掛け、「あっ」と小さな声を上げ振り向いた。
「ジナル、ポーションを全てナギの所へ持って行ってくれ」
「分かった」
ナギさんの所に、必要としている冒険者達がいるのかな?
「ドルイド。1本10ラダルを払う」
「高すぎます」
「その1本で4から5人が助かった。10ラダル以上の価値はあるが、これ以上は受け取ってくれないだろう?」
お父さんを見ると、溜め息を吐いて頷いた。
1本10ラダルになったんだ。
えっと青のポーションが46本、赤のポーションが47本。
全部で93本だから……930……沢山だね。
うん、とっても沢山。
「それじゃ」
お父さんが頷くのを見たフォロンダ領主は、満足気に扉から豪邸に入って行った。
しばらくすると、馬の蹄の音が聞こえた。
「忙しい人だ」
呆れた表情で呟くジナルさんは、ドールさんにマジックボックスを頼む。
「このマジックボックスを使って良いぞ」
ポーションが入っていたマジックボックスを差し出すお父さんに、ジナルさんは首を横に振る。
「また必要になるだろう?」
ジナルさんがソラ達を見ると、お父さんが笑った。
「そうだな。今日の夜辺りか」
そうかも。
「そうだ。ジナルに聞きたい事があったんだが」
「なんだ?」
ジナルさんが不思議そうにお父さんを見る。
「王都では、シャーミは魔物扱いなのか? ハタカ村では、動物扱いだったんだが」
あっ、トトーラに襲われていた冒険者達が言っていた事だ。
あの時は気付かなくて私も魔物扱いしたけど、後で不思議に思ったんだよね。
シャーミって動物ではなかったかなって。
「あぁ、それか。今シャーミは動物でもあり魔物でもある、だな」
ジナルさんの言葉に、全員が首を傾げる。
「ハタカ村のシャーミには、魔力がないから動物で間違いない。でもトトーラと一緒にいるシャーミは、魔力を持っているから魔物扱いなんだ」
「ハタカ村のシャーミと、別の種だからではないのか? よく似ているだけの別の種」
シファルさんを見て首を横に振るジナルさん。
「ハタカ村のシャーミとトトーラと一緒にいるシャーミは、詳しく調べたら違いは魔力の有無だけだと分かった。動物が魔物化する事は、自然界でも稀にある。その場合、魔力を持った時点で見た目が変わる。一番多い変化が巨大化だ。つまりシャーミの魔物化した姿がトトーラだ」
突然変異で2倍の大きさになった訳ではないのか。
「でも不思議な事に、そのままの姿を維持する個体がいた。それが魔力を持ったシャーミだ。しかも、魔力を持ったシャーミは繁殖して増えた。だからシャーミは今、動物でもあり魔物でもあると言われているんだ。王都では、魔物だと思っている者が多いかもしれないが」
シャーミが変わらなかった原因は何だろう?
「シャーミは、人為的に魔物化されたのか?」
シファルさんがジナルさんを見ると頷いた。
「教会の作った研究所生まれだ。シャーミは人に対して警戒心の薄い動物だ。実験体にするには扱いやすかったんだろう」
また教会の研究所か。
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