983話 王都にいる木の魔物
大量に用意されたマジックバッグ。
その1つを手に取って、フェイ隊長さんが私達を見る。
「ゴミの仕分けは必要ないわ。出来るだけ限界まで入れて欲しいの、この量だからね」
溜め息を吐きゴミの山に視線を向けるフェイ隊長さん。
他の自警団隊員達も、うんざりした表情をしている。
「頑張りましょう」
ミミー副隊長さんの言葉に動き出す隊員達。
セイゼルクさんやお父さん達も、捨て場に入り手当たり次第ゴミをマジックバッグに入れていく。
「王都の情報だったわよね」
フェイ隊長さんを見るセイゼルクさん。
「あぁ。逃げ出した教会関係者達はどうなっている?」
「フォロンダ様って分かる? あっ、あの方はオルトワ町の領主だから知り合いかしら?」
「あぁ、一緒に問題を解決した事もある」
「そうなの。あの方、怖いわよね」
えっ、怖い?
「まぁ、すこしな。それで?」
「そのフォロンダ様が中心になって逃げ出した者達を捕まえているわ。王都で隠れていた者達は、ほとんど捕まったみたいよ。でも、王都から逃げ出した者達はまだみたいね。各村や町に指名手配書を送ったみたいだけど、協力者がいるみたいで居場所すら不明の者も多数いるみたい。あと今の王都は、凄く安全よ。逃げた者達を追うために、騎士団、自警団、冒険者達が協力しているから犯罪の抑止力になっているみたい」
安全なのは良い事だね。
それにしても、まだ協力者がいるんだ。
「そういえば少し前に、王都に呪具をばらまかれたという噂が出たわね」
呪具!
「ばらまかれたのか?」
険しい表情をするセイゼルクさんに、フェイ隊長さんが笑って首を横に振る。
「デマだったみたい。すぐにその噂は消えたわ」
カシメ町から持ち出された呪具は、ジナルさんが全て回収出来たって事でいいのかな?
「でも、それは本当か?」
オッグ副隊長さんが、首を傾げながらフェイ隊長さんを見る。
「どういう事?」
「その噂が出たあと、ある貴族が消えたって噂になっただろう?」
ある貴族が消えた?
「あぁ、あれね。オッグ」
「なんだ?」
フェイ隊長さんが、なんとも言えない笑みで彼を見る。
「呪具は王都に出回らなかった」
「あぁ。それはその通りだ」
「重要なのは、それだけよ。余計な事に関わっても良い事はないわ。特に消えた貴族とか」
んっ?
つまり何かあるという事かな?
「あぁ、なるほど。呪具、もしくは消された貴族を調べると……」
オッグ副隊長さんが微妙な表情をする。
「ふふふふっ」
フェイ隊長さんも笑っているけど、目が笑っていない。
「分かった。呪具はデマで貴族はただの噂だ」
オッグ副隊長さんの言葉に、満足そうに頷くフェイ隊長さん。
「さて、とっとと拾うわよ。それで、他に聞きたい事は?」
呪具と貴族の事は、これ以上は聞くなという事なんだろうな。
それと、これらに関わってはいけないという注意でもあるんだろう。
噂を聞いても聞き流せという。
「他か……」
セイゼルクさんが悩むように呟く。
私は王都に行った木の魔物について聞きたいけど、これは聞いて良い事なのかな?
呪具のように、聞いてはいけない事になっている可能性もあるのかな?
「木の魔物について知っているか?」
お父さんの言葉にドキッとする。
「木の魔物? あぁ、次代の王と一緒にいる木の魔物の事?」
んっ?
今、フェイ隊長さんはなんて言ったの?
「次代の王?」
「あれ? それではないの?」
フェイ隊長さんが不思議そうな表情でお父さんを見る。
「あぁ、初めて聞いた。俺は王都に、木の魔物がいるという噂を聞いたんだ。本当だったら凄い事だから、真実を知りたかったんだけど。王になる者と一緒にいるのか?」
「そうらしいわ。私は噂を聞いただけなんだけど、ミミーは見たのよね?」
フェイ隊長さんがミミー副隊長さんを見る。
「えぇ。護衛騎士の兄に会いに行ったら、一緒にいるところを見たわ。私も噂は聞いていたんだけど、本当だとは思っていなかったから驚いたわよ」
どうして木の魔物が王の傍にいるんだろう?
何があったのか、すっごく気になる。
「そうか」
「兄に聞いたんだけど、王を狙った者達を木の魔物が倒した事もあるらしいの。でも、あの木の魔物……」
ミミー副隊長さんを見る。
「何? どうしたの?」
フェイ隊長さんがミミー副隊長に視線を向ける。
「私が本で習った木の魔物とは違ったように見えたのよね。木の魔物って動きが遅いって、本に書いてあるでしょう? 王と一緒にいた木の魔物は、動きが遅くなかったわ」
本に載っている木の魔物は、魔法陣のせいでおかしくなった木の魔物。
だから本来の木の魔物とは少し違うんだよね。
「人に協力的な木の魔物は、動きが遅くないって聞いただろう? 王の傍にいるって事は、協力的な木の魔物なんだろう」
オッグ副隊長さんの言葉にミミー副隊長さんが頷く。
「そうだったわね」
「元気そうで良かったな」
お父さんが傍に来る小声で話す。
「うん。でも王の傍にいるんだって」
「そうみたいだな。どうしてそうなったのか、凄く気になるな」
お父さんも私と一緒だ。
「うん。あっ、王と一緒にいるって事は、もう会えないのかな?」
王都に行ったら会えると思っていたんだけど、無理だよね。
「それは、フォロンダ様にお願いしてみよう」
「フォロンダ領主に?」
「うん。お願いしてみよう」
「そうだね」
もしかしたら、会えるかな?
「あぁ、腰が痛い! 面倒くさい!」
フェイ隊長さんの叫び声に視線を向ける。
「私は暴れる事が好きなの! 細々した事は苦手なの!」
「「知ってる」」
オッグ副隊長さんとミミー副隊長さんが、呆れた表情でフェイ隊長さんを見る。
あっ、他の自警団員達も同じ表情だ。
ピピッピピッ。
「あっ、1時間よ」
嬉しそうに笑うフェイ隊長さんに、ちょっと笑ってしまう。
「終わりよ~。終わり」
ゴミの入ったマジックバッグを7個持って、笑って捨て場を出て行くフェイ隊長さん。
「はぁ、全く」
嬉しそうに去って行くフェイ隊長さんに溜め息を吐くミミー副隊長さんが、私達に視線を向ける。
「隊長がすみません。捕まえた奴等を放り込んである檻があるので、マジックバッグをそこまでお願いします」
「分かった。アイビーとドルイドも行こうか」
セイゼルクさんが私とお父さんに向かって手を上げる。
「分かった」
ゴミの入ったマジックバッグを、私は3個。
お父さんは4個持って、セイゼルクさん達の後を追う。
そういえば、フェイ隊長さんはマジックバッグを7個も持っていた。
あれに全部ゴミが詰まっているとしたら、たった1時間で7個分も拾ったの?
彼女は話をしながらだったのに。
捨て場を出て少し歩くと、檻が見えた。
馬車の荷台が檻になっているようだ。
「ありがとう」
オッグ副隊長さんにゴミの入ったマジックバッグを渡す。
彼は、そのマジックバッグを檻の中に放り込んで行く。
中に捕まった人がいるんだけど、気にしていないようだ。
「依頼料はこちらです。書類を確認して名前を書いてから受け取って下さいね」
ミミー副隊長さんが、1枚の紙を差し出す。
内容を読んで名前を書くと、銀貨2枚を受け取った
「ありがとう。本当に助かったわ」
フェイ隊長さんが、私達に向かって頭を下げる。
「そうだ。王都に来て困った事があったら、自警団の詰め所で私の名前を言って。私達は王都の外にいる事が多いから手助け出来ないかもしれないけど、仲間達が助けてくれるわ。とても協力的だったと話しておくから」
「ありがとう。何かあったら、頼むよ」
フェイ隊長さん達は、まだやる事があるらしいのでその場で別れる。
しばらく歩くと、シエルの気配がした。
立ち止まり、周りを見る。
「シエル」
「にゃうん」
木の上から下りてくるシエル。
フェイ隊長さん達の気配を感じた瞬間から、シエルの気配が全くしなかったから心配していたけど大丈夫みたい。
良かった。




