982話 自警団第四部隊
回収屋と呼ばれた男性達は、全てのゴミを捨て終わると来た道を戻り始める。
このまま行かせていいのだろうか?
あれ?
また、誰か来る。
今度の人達は気配が読みにくいな。
彼等の仲間かな?
「おい、誰か来るぞ」
回収屋の一人の様子から、仲間ではないようだ。
「はぁい。皆さん、こんにちは」
明るい声が聞こえると、真っ赤な髪をした笑顔の女性が姿を見せた。
あれ?
他の人達は何処にいるんだろう?
森に紛れ込んでいる気配をなんとか探ると、回収屋の男性達を囲うように移動していた。
それに首を傾げる。
「なんだ、お前」
「いや、良かった。こんなに簡単に、お前達が利用している捨て場を見つけるなんて。私はとっても運がいい!」
違法な捨て場を探していたのかな?
「はっ?」
「あっごめん、私が誰だって話よね? 私は、王都の自警団第四部隊隊長のフェイよ。よろしくね」
「えっ、自警団? 第四……」
男性達の顔色が悪くなり、ちらちらと周りを見る。
「あら、逃げるの? それは止めた方がいいわ。逃げたらぶん殴るわよ」
にこやかだった表情が、がらりと冷たいものに変わる。
「ひっ」
その変化に男性達は小さく悲鳴を上げると、フェイ隊長さんの前から逃げ出した。
「もう、逃げるなって言ったのに。みんな、よろしくね」
フェイ隊長さんの言葉に、男性達を囲んでいた者達が一斉に動き出す。
そしてあっという間に、5人全員が捕まった。
「はい、終わり。それで……」
フェイ隊長が少し困った表情でこちらを見る。
「やっぱり、バレていたか」
セイゼルクさんは小さく笑うと、隠れていた場所から姿を見せた。
次の瞬間、フェイ隊長以外の自警団員が武器を構える。
「大丈夫よ。たぶん」
「隊長、どっちですか?」
フェイ隊長の傍にいる男性が、呆れた様子を見せる。
「そんなのわかるわけないでしょう? まだ名前を聞いていないんだから」
「オルトワ町の炎の剣、リーダーのセイゼルクです」
「ラットルアです」
「ヌーガだ」
「俺は、シファルです」
「私は王都の自警団第四部隊の隊長フェイです」
「あの炎の剣ですか?」
フェイ隊長の傍にいた男性が、少し興奮気味にセイゼルクさんに聞く。
あの炎の剣?
セイゼルクさん達は有名なのかな?
あっ、功労者になったからか。
「あのがどれを指すのかは知らないですが、少しは名が知られていると思います」
「うわぁ、フェイ。あの炎の剣だ」
フェイ隊長の肩をバンバン叩く男性。
「落ち着け、痛いから」
「あぁ、悪い」
フェイ隊長と男性のやり取りに、緊張感がなくなる。
「すみません。急に現れたので驚いてしまって」
自警団員の1人が、私達に向かって頭を下がる。
「謝らなくていいですよ。今のは、正しい行動ですから」
「ありがとうございます」
セイゼルクさんの言葉に、自警団員は嬉しそうに笑う。
「あの、どうしてここに?」
フェイ隊長さんが不思議そうに捨て場とセイゼルクさん達を交互に見る。
「偶然、違法な捨て場を見つけたので、情報を集めていたんです。冒険者ギルドに報告する義務がありますから」
「あぁ、なるほど。あの、この場所についてはこちらから報告しておきます」
「お願いします」
あっ、セイゼルクさん嬉しそう。
冒険者ギルドに報告するのを、本当に面倒くさいと言っていたからね。
「えっと、そちらの2人は仲間ですか?」
フェイ隊長が、私とお父さんを気にする様子を見せる。
「彼等は冒険者ではないですが、一緒に王都に向かっているんです」
「王都に、そうでしたか」
フェイ隊長がお父さんを見る。
「王都の自警団第四部隊の隊長フェイです」
「俺はドルイドです。こっちは娘のアイビー」
「アイビーです」
小さく頭を下げると、ニコッと笑顔になるフェイ隊長さん。
「可愛い」
んっ?
何か言ったようだけど、声が小さかった。
「あの?」
「あっ、なんでもないです。王都に向かっているのよね。ここからは、馬鹿と屑の情報が多くなっているから気を付けてね」
えっと、馬鹿と屑?
何を指しているんだろう?
「隊長、それではわかりませんよ」
フェイ隊長を呆れた表情で見た女性が、私達を見る。
「馬鹿が人攫いで、屑が盗賊の事よ。戴冠式が近いから王都に人が集まると思ったみたいで、問題の者達も集まってしまったの」
あぁ、人が集まるところに問題の者達も集まるよね。
仕事がやりやすいと思うのか。
「ふふふっ。そんな奴等のせいで私は大忙し。しかも、今回の奴等は弱過ぎて憂さ晴らしも出来なかったわ」
フェイ隊長の言葉に、傍にいる女性が深く頷く。
「本当に弱かったわ。一発殴ったぐらいで気を失うなんて。やってられない」
聞かなかった事にしよう。
彼女達は仕事熱心だっただけ。
「はぁ、隊長と副隊長がどうしてこうなんだ」
えっ、フェイ隊長さんはわかるけど副隊長?
傍にいる女性に視線を向ける。
「あっ、私の事よ。私は、ミミー。これでも第四部隊の副隊長なの。で、さっき嘆いていたのが同じ副隊長のオッグよ」
副隊長さんが2人もいるんだ。
「隊長、こいつ等を馬車に連れて行くぞ」
少し離れた場所から男性の声が聞こえた。
視線を向けると、捕まえた男性達を肩に担いだ男性達が見えた。
「お願いね。こっちは……はぁ、少しぐらいはゴミを持って行かないとね」
ゴミの山を見て、フェイ隊長が溜め息を吐く。
ミミー副隊長とオッグ副隊長も嫌そうな表情を見せた。
「あっ、お願いがあるんだけど。1時間でもいいの、雇われない?」
フェイ隊長がセイゼルクさんとお父さんを見る。
「ゴミの回収か?」
セイゼルクさんがフェイ隊長を見ると、お願いしますと頭を下げた。
「1時間で銀貨2枚。駄目ですか?」
「銀貨2枚? 多過ぎませんか?」
お父さんが驚いた表情を見せる。
「そうだけど、どうしても手伝って欲しくて。だって、この量よ!」
フェイ隊長がゴミの山を指す。
確かに凄い量だよね。
これを全て回収するとなると、どれくらいかかるんだろう?
「少しぐらい出費が多くなっても、回収人数が増える方が重要よ」
フェイ隊長の言葉に、2人の副隊長も頷く。
「1時間だけなら大丈夫だよね?」
さすがに目の前にあるゴミの量を見ていると、可哀そうになってきた。
「まぁ、大丈夫だが。あっ、そうだ」
「何?」
セイゼルクさんを不思議そうに見るフェイ隊長。
「ゴミの回収をしながら、王都の情報を教えて欲しい。今、王都がどんな状態なのか知りたいんだ」
「王都の情報? どうしてそんな物が必要に?」
フェイ隊長さんがセイゼルクさんを怪訝な表情で見る。
「王都の問題に、巻き込まれないようにする為だな」
もしかして、巻き込まれやすい私の為?
「巻き込まれないため? 事件になんて、そう簡単には巻き込まれたりはしないでしょう?」
「「「「「……」」」」」
私達の雰囲気に目を見開くフェイ隊長さん。
「巻き込まれやすいの?」
「まぁ、ちょっとな」
言葉を濁すセイゼルクさんに、ミミー副隊長さんが気の毒そうな表情で見る。
彼ではないんだけどな。
「わかったわ。1時間よろしくね」
「わかった」
フェイ隊長さんが右手を出すと、セイゼルクさんも右手を出し握る。
1時間、ゴミの回収。
頑張ろう。




