980話 グースは凄い
周りの明るさに目が覚める。
「ぷっ?」
「ソラ、おはよう」
「ぷっぷ~」
「てりゅっ」
これはご飯の催促かな?
「すぐに用意するまで待ってね」
起き上がって体の軽さを感じる。
「やっぱりグースは凄いな」
旅は楽しいけど、長くなると少しずつ疲労が溜まる。
その溜まっていたはずの疲労を、今日は感じない。
「アイビー、おはよう。まだ、皆は寝ているよ」
着替えてテントから出ると、シファルさんがいた。
「おはよう。朝食の準備? 早くない?」
「暇だったから、あとはスープが温まれば食べられるよ」
本当だ。
パンに肉がちょっと多めの野菜炒めが、既に準備されている。
夜の見張り役の後半は、シファルさんとラットルアさんだったよね。
「疲れていない? 大丈夫?」
「問題ない。昨日は夕飯の後にすぐ寝たし、グースのお陰で疲れも取れたしな」
それならいいんだけど。
「おはよう」
ラットルアさんを見ると、運動をしてきたのか少し息が上がっている。
「やっぱりグースは凄いよな。体が軽いから、動きやすい」
「私も起きて実感した。目覚めも良かったし」
「にゃうん」
「シエル、おはよう」
昨日はシエルもグースの肉を食べたんだよね。
量的には足りないだろうけど、嬉しそうに食べていたな。
「シエルも、昨日より今日のほうが元気?」
「にゃうん」
「それは、良かった」
シエルの頭を撫でるとゴロゴロと喉が鳴る。
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
あっ、皆のご飯だ。
「ごめん、すぐに用意するね」
ソラ達のご飯を用意していると、お父さん達が起きて来て昨日との違いを話している。
皆、グースの肉の効果に満足そうだ。
「ソラ、フレム、ソル。どうぞ」
勢いよく食べ始める皆を見る。
「アイビー、おはよう」
「おはよう」
お父さんが傍に来てソラ達を見る。
「今日も問題なしだな」
「うん」
マジックバッグの中身を確認する。
「お父さん、王都にはあとどれくらいかかる?」
「ソラ達のご飯がなくなりそうか?」
お父さんの言葉に、ソラ達がパッとこちらを見る。
「大丈夫。まだあるから」
ソラ達の反応に笑っているお父さんを見る。
「悪い。反応が可愛くて」
確かに心配そうに私達を見るソラ達は可愛いよね。
「まだ大丈夫だけど、余裕があるわけではないから」
「そうだな。魔物の事があるから、ここからは王都に真っすぐ向かうと思う」
それなら、ソラ達のご飯は大丈夫かな。
「皆、ご飯にしようか」
シファルさんの言葉で、皆が椅子に座る。
「「「「「いただきます」」」」」
昨日の夜から煮込んでいたグースのスープは、シファルさんの希望通り肉がトロトロでおいしい。
野菜炒めは、肉がちょっと多いけどおいしい。
シファルさんは、やっぱり料理が上手だな。
「「「「「ごちそうさまです」」」」」
皆で使った物を片付けて、もう一度椅子に座る。
「それで、今日の予定は?」
シファルさんがセイゼルクさんを見る。
「王都に向かう。というか、ここからは真っすぐに王都を目指す予定だ。魔物の事もあるし、それにあの洞窟も気になってな」
突然変異した魔物の近くにあった、人が作ったみたいな洞窟。
確かに、あの洞窟は気になるよね。
「村道に出るつもりはないが、村道に沿って歩くつもりだ」
セイゼルクさんは地図を出し、歩く予定の場所を指でなぞる。
「昨日も言ったが、問題の魔物がいないとは言えないから、周りには気を付けてくれ」
「分かった。ここからだと王都までは……7日ぐらいで着くな」
お父さんの言葉に、セイゼルクさんが頷く。
「何も起こらなければな」
そうなんだよね。
どうしてこう、色々と起こるんだろう。
「まぁ、大丈夫だろう。王都の近くになれば冒険者も多くなる。彼等が解決してくれているさ」
「問題の冒険者も多くなるけどな」
ラットルアさんの言葉に、ヌーガさんが首を横に振る。
問題の冒険者?
「あぁ、そういう屑もいたな。アイビー」
シファルさんが私を見る。
「はい」
「王都に近付くと、冒険者が多くなる。ほとんどの冒険者は問題ない。でも中には、楽して金を稼ごうとする馬鹿な冒険者もいる」
冒険者にも色々な人がいるからね。
「もし、そんな冒険者にソラ達が見られたら狙われる」
間違いなく狙うだろうな。
「だから王都に近付いたら、バッグの中にソラ達を入れて欲しい。シエルもなるべくスライムになって一緒に。出すのはテントの中だけ。大丈夫か?」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
「にゃうん」
私の代わりに皆が返事をする。
「ありがとう。それとアイビーも絶対に、俺達から離れない事」
「私も?」
つまり、私も狙われるの?
「そうだ。アイビーは、確実に狙われるから」
確実なんだ。
「分かった。皆と絶対に一緒にいる」
問題のある冒険者に、狙われた事がある。
彼等は本当に怖かった。
だからシファルさんの言う通り、絶対に皆から離れないようにしよう。
「よしっ。話も終わったし、今日の訓練をしようか」
あっ、弓の訓練だ。
「お願いします」
「準備をしておくから、弓を持っておいで」
「はい」
寝る前に調整した弓を持って、シファルさんの下へ向かう。
あれ?
お父さんはいないみたい。
「ドルイドはセイゼルクと話し中だ。弓の状態は大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
「構えて」
「はい」
シファルさんが用意した的に向かって弓を構える。
「アイビー」
「はい?」
「今は殺気がない状態だけど、ある状態の時との違いは分かるか?」
「うん、分かる」
本当に少しの違いだけど。
「その違いを詳しく説明できるかな?」
詳しく?
「えっと……弦を引いているほうの、腕の感覚が違うかな?」
力が入り過ぎているような感じだ。
「それを修正してみようか」
「はい」
弦を引くのは力がいる。
でも、殺気を受けた時はこんなに力が籠っていなかったと思う。
といっても、力を抜くとしっかり矢を打てなくなる。
「……難しい」
「俺の殺気を向けてみるから驚かないように」
「はい」
シファルさんから重い殺気が向けられる。
あっ、感覚が変わった。
この感覚は、魔物に向かって矢を放った時に似ている。
「殺気を無くすぞ」
「はい」
また、感覚が変わった。
「どうだ?」
「殺気がないと、弦を引いている腕が動かしづらい? ん~、硬くなったような?」
言葉にするのは難しいな。
「なるほど。修正できそうか?」
硬くなった腕を柔らかく?
「……難しいみたい」
「分かった。殺気を向けるから、正しい感覚を覚えていこう」
「はい」
「悪い。待たせた」
お父さんの声に視線を向ける。
「アイビー、少し休憩しよう」
「はい」
シファルさんがお父さんに私の状態を説明する。
「なるほど。それで俺は、アイビーに殺気を向ければいいのか?」
「頼む」
「お父さん、お願いします」
お父さんが殺気を向けている状態で、矢の訓練をする。
やっぱり、魔物と戦った時の感覚に近い。
「終わろうか」
「ありがとうございます」
シファルさんが取って来てくれた的を見る
「25本、全て的に当たったな」
お父さんが嬉しそうに私を見る。
「殺気がないと当たらないけどね」
条件が揃っていないと当たらないなんて。
「焦らなくていいぞ。ゆっくり成長していけば」
「ありがとう」
シファルさんにお礼を言うと、お父さんが優しく私の頭を撫でた。
「少し休憩したら、出発だな」
的から引き抜いた矢を、私に渡すお父さん。
「うん」
あと少しで王都か。
ジナルさん達は、もう王都に着いたかな?




