103話 すごい人達だった
団長さんとギルマスさんが、捕まえた人達をどうするか話し合っている。
想像を超える人数が捕まったため、檻が全く足りていないそうだ。
犯罪者集団に組織に加担した自警団員達と町の人達、これだけでも既に溢れているのに。
これに、冒険者達が加わる予定になっている。
最終的にどれだけの人数になっているのか、考えるだけで恐ろしい。
そう言えば、拠点周辺にどうして34人も集まっていたのだろう?
何か意味があるのかな?
ん~、私には分からないな。
そう言えば、貴族の人達もいたな。
フォロンダ領主が連れて行ったけれど、何処へ行ったのだろう?
あの方にも迷惑を掛けてしまったな。
後でお礼を言わなければ……会えるかな?
ゆっくりとお茶を飲みながら、忙しそうに仕事をしている自警団員達や冒険者達を眺める。
団長さん達が、疲れただろうと休憩を勧めてくれたのだ。
それにしても、何だろう?
もう一度、自警団員達や冒険者達を見る。
彼らも疲れているはずなのに、なぜか表情が明るいような気がする。
何かあるのかな?
「お疲れ様」
ボーっと自警団員達の動きを見ていると、セイゼルクさんが近くに立っていた。
やばい、注意力が散漫になっている。
まだ、全てが終わったわけではないのだから気を付けないとな。
「お疲れ様です。大丈夫ですか?」
彼も朝から動き回っているので、かなり疲れているだろう。
「大丈夫だ。組織を出し抜けたんだ、うれしくて疲れなんてまったく感じないな」
あぁ、そういう事か。
皆の表情が何処となく明るいのは、ずっと苦しめられてきた組織にひと泡吹かせる事が出来たからか。
「アイビー達こそ大丈夫か? 人数が多かったから大変だっただろう?」
確かに、想像より大変だった。
でも私はソラの判断を伝えていただけだし、ずっと座っていた。
「思ったより大変でしたけど、私は座れていたので楽でした。ソラも元気なので大丈夫です」
「そうか。でも、無理はするなよ?」
「はい」
私の言葉に、嬉しそうに頭を撫でるセイゼルクさん。
でも彼を呼ぶ声に、面白くなさそうな顔を見せた。
「はぁ。無理はするなよって言ったすぐで悪いけど、もう少し頑張ってほしい」
「どうかしましたか?」
「あと少ししたら冒険者達が集まって来るんだ。判断を頼めるかな?」
膝の上に乗せた、ソラ専用のバッグの中を確認する。
少し前に、ソラの食事用にと持ってきておいたポーションを入れておいたのだ。
そのため、ソラは食後で少し眠そうだ。
「ごめんね。もう少し頑張れる?」
私の言葉にソラは、ぷるるっと揺れた。
それから体を伸ばしている。
……準備運動なのだろうか?
ただ、バッグから出ないように気を付けているようで、伸び方が少し変だ。
すべてが終わったら、森の中で思いっきり体を伸ばしてもらおう。
ポーションもいっぱいあげよう。
「大丈夫です」
「そうか、よかった」
「あの、捕まえた人達ってどうするのですか?」
拠点となった建物の庭に集められている人達を見る。
全員が手を後ろに回して縛られている。
逃げ出さないように腰にも紐が括り付けられて、全員とつながっている。
「拠点にした元商家には手ごろな大きさの部屋があるから、そこを改造する事になったみたいだ。元自警団員や犯罪者はしっかりした檻が必要だが、住民なら簡易な檻でも問題ないだろうって事でな」
確かに、元自警団員達や指名手配されていた犯罪者達が部屋を改造した簡単な檻だと不安だが、住民達なら見張りをしっかりしておけば問題ないだろう。
ここから見ていると、誰もが皆疲れた表情を見せている。
最初は関係ないと騒いでいた人達も、ボロルダさんが見つけたマジックアイテムを使用したと分かった途端諦めたみたいだ。
今では、誰も騒ぐことなく沈んでいる。
ボロルダさん達もセイゼルクさん達も、この町の上位冒険者チーム。
彼らの調べた結果は、量刑にも反映されるほど信用があるらしい。
そのおかげで、ボロルダさんが使うマジックアイテムを疑問に思う者はいない。
上位冒険者が全員そういう立場なのかと思ったら違うそうだ。
町や村で条件が異なるが、この町では町専属の上位冒険者でギルマスさんが認めたチームが当てはまるらしい。
上位冒険者だとは聞いていたが、ボロルダさん達がそんなすごい人達だとは思わなかった。
何気にギルマスさんも、すごい人だった。
紹介した冒険者の人が駄目だと知った時の表情や、貴族を見た時の項垂れる姿がちらついてどうもそう思えないのだが。
顔と行動が一致しないため、情けない方の印象が強いのだろう。
それにしても、なんだか知らない間にすごい人達に囲まれていたな。
それに一番驚いた。
「あっ、来たみたいだ。冒険者達は拠点周辺の見張り役として集まってもらった。団長に各自名前を言ってもらう事になっているから、その時に判断してもらっていいか?」
「分かりました。ソラ、頑張ろうね」
バッグの中のソラに小声でささやく。
すると小さく振動が伝わってきた。
それにほっこりしながら、セイゼルクさんと冒険者達のもとへ向かう。
ギルマスさんが集合をかけた冒険者達は、それほど多くなかった。
それに少しだけ安堵する。
あまり時間をかけずに、全員を判断出来そうだ。
「おっ、来たな」
ボロルダさんとセイゼルクさんの間に立つと、冒険者からちらちらと視線を感じた。
……冒険者達からは憧れの人なのだろうな。
2人を見る……うん、シャキッとしていたらかっこいい。
団長さんが組織に加担した者達の見張りの話をすると、冒険者達が騒ぎ出す。
それにギルマスさんが「黙れ」と言うと、冒険者達が一斉に静まった。
特に声を荒げたわけでもなかったのだが、なるほど、ギルマスさんはすごい人なのか。
次々と紹介されて行く冒険者達をソラに調べてもらう。
冒険者の数は全員で41人、12チームだ。
ソラが震えるたびに、ボロルダさんの服を軽く引っ張る。
その回数3回。
41人で3人が駄目だった。
この3人、それぞれ違うチームに所属していた。
そこに組織の悪質さを感じる。
ボロルダさんがギルマスさんの近くに移動して、話をしている。
次の瞬間見せたギルマスさんの表情にやっぱりなんだかな~と思う。
通常が怖い顔なので、情けない表情に強い印象を持ってしまうのだろう。
目じりが下がるだけで、あれ程印象が変わる人も珍しい。
「ギルマスは情の深い人だからな。裏切り者が出て悲しいんだろう」
セイゼルクさんが、ギルマスさんをじっと見ている私に説明してくれた。
まさか、顔の印象があまりにも変わるのが面白くて見てましたとは言えない。
絶対に言えない。
どうやら私は疲れがたまっているようだ。
「そうなんですね」
バッグがプルプルと震えたような気がした。
ソラには私を見透かす魔法でもあるのだろうか?
「これで、作戦は終わりましたね」
私の言葉にセイゼルクさんが面白そうな顔をした。
「朝からここまで、すごい1日だったよな」
そう思います。
私の思いついた作戦は、とにかく早さが求められた。
そう考えると、自警団員達も冒険者達もすごいな。
急な事にもすぐに対応できるのだから。
冒険者達の中から、誰かが走り去る姿が目に入る。
「あっ」
次の瞬間、ものすごい速さでギルマスさんの走る後ろ姿が見え……とび蹴りが決まった。
「痛そうです」
後ろから前に飛んで行った冒険者の人は気を失ったようだ。
まぁ、ものすごい勢いで飛んで行ったからな。
「ハハハ、ギルマスを本気で怒らせると怖いからな~」
そうなのか。
私も態度を気を付けよう。