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973話 襲撃

「討伐完了」


セイゼルクさんが、倒した魔物を確認して私達に手を振った。


「怪我はしていないか?」


お父さんを見て笑う。


「木の上にいたから怪我なんてするわけないよ」


木の上から下り、お父さんの前に立つ。


「矢を放つ時に怪我をする事があるだろう?」


「それはあるけど。私は大丈夫だったよ。ほらっ」


掌をお父さんに向ける。


「良かった」


お父さんの手が、私の頭を優しく撫でる。


「ぷっぷ~」


「てりゅ~」


「ぺふっ」


木の上で一緒にいたソラ達も下りてくると、私達の周りで跳びはねた。


「皆も無事で良かった」


「ぷっぷぷ~」


「てっりゅりゅ~」


「ぺふっ」


この子達、私が矢を構えると静かに傍にいたんだよね。

練習の時だけかと思ったけど、今もだった。

不思議だな。


「それにしても、おかしいよな。3種類の魔物が同時に襲って来るなんて」


倒した魔物を見て、お父さんの眉間に皺が寄る。


「そうだね」


群れで行動している魔物なら、多数で襲って来る事はある。

でも今回のように、違う種が一緒に襲って来る事は通常ではありえない。


「こっちに来てくれ」


セイゼルクさんに視線を向けると、見つけた洞窟の前にいた。

傍に寄ると、巨大な木の一部を指した。


「これ、爪痕に見えないか?」


爪痕?


視線を向けると、巨大な木に2本の太い線。

確かに「爪痕だ」と言われると、そう見える。

ただ、魔物の爪にしては太いと思う。


「もしこれが爪痕だとしたら、その魔物の大きさはどれくらいだ?」


「「「「「……」」」」」


ラットルアさんの問いに全員が黙り込む。


「8mぐらいはあるかもな。そんなに大きな魔物は、リュウ以外に聞いた事はないが。これは、リュウの爪痕ではなさそうだな」


シファルさんが爪痕に触れ、首を横に振る。


「でも、気になる。ここだけではなくて、他にもあるんだ」


セイゼルクさんが指した方を見ると、倒れた木にも似たような2本の大きな線が付いていた。


「足跡は?」


「それは見つからなかった」


お父さんがセイゼルクさんを見ると首を横に振る。


「これだけだと判断が……」


お父さんが言葉を切り、倒した魔物達が来た方へ視線を向けた。


「また来たな」


ヌーガさんが剣に手を掛ける。


「それも、また複数だ」


ラットルアさんも剣に手を掛ける。


「この短時間で複数の魔物が襲って来るのはおかしい。少し様子を見よう」


セイゼルクさんの言葉に、全員が木の上に避難する。

そして魔物に気付かれないように気配を抑え、隠れた。


ドドドドッと聞こえる複数の足音。


こんなに足音をさせるなんて、凄く慌てているのかな?


「来たぞ」


お父さんの視線の先には、穏やかな性格で人を襲う事は少ないと本に載っていた魔物と、森の奥から出てくる事はないと載っていた魔物がいた。


一直線にこちらに向かって来る魔物達。

気付かれると襲ってくる可能性がある為、緊張感が漂う。


ドドドドッ。


足音が近くまで来る。


ドドドドッ。


「はぁ」


止まる事なく通り過ぎた魔物達の姿に大きな溜め息が出る。


「良かった」


「そうだな。でも、あの魔物達の様子から、この森に何かが起こっているみたいだな」


お父さんが、険しい表情で森を見た。


「すぐに王都に向かって報告が必要か?」


ラットルアさんがセイゼルクさんに視線を向ける。


「あぁ、そうだ――」


ドンッ。


「うわっ」


バキバキバキッ。


セイゼルクさんの登っていた木が、急に倒れる。


「セイゼルク!」


シファルさんがすぐに手を伸ばすが、彼は倒れた木の傍に転がった。


「危ない!」


えっ?


お父さんが叫び声と同時に木から飛び下り、セイゼルクさんに襲いかかろうとしていた巨大な何かに切りかかった。


「グワァァァ」


森に響く重低音。


巨大な何かだと思ったものが、お父さんに視線を向ける。


「魔物?」


あまりに大き過ぎて分からなかった。

しかも目の前にいるのに気配を感じない。

でも、見た事のある魔物に似ている。

ただ、その大きさも持っている爪も牙も私が知っている魔物とは違う。


「嘘だろ」


ラットルアさんも魔物を見て呆然としている。


「ラットルア! ドルイドを」


シファルさんの声に、ラットルアさんはすぐに反応してお父さんの手助けに入る。


「駄目だ、皮が硬い」


セイゼルクさんの声が聞こえ、少しホッとする。


良かった、無事だった。

まぁ、安心する事は出来ない状態だけど。


ヒュッと音がすると、魔物の鼻に矢が刺さった。


「くそっ。浅い!」


シファルさんの矢は、深く刺さらなかったようで魔物が動くと抜け落ちた。


「ギャァァアアアアアアア」


魔物が上を向くと、大きな声で鳴いた。

その瞬間、それまで感じていなかった魔物の気配を強く感じ、体がふらつく。


「これ、凄い殺気だ」


今まで感じた事がないほどの強い殺気に、全身が震え上がる。


「アイビー、木の上に」


お父さんが魔物と戦いながら私を見る。


「分かった」


すぐに木に登り、矢を構える。


「あっ、駄目だ」


殺気に手が震えてしまっている。

これでは、矢を放てない。

何度か深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。


「ギャァァアアアアアアア」


「あぁ、もう!」


また殺気が上がった!


「くそっ。攻撃が効かない!」


苛立ったセイゼルクさんの声。


「うわっ」


魔物に攻撃をされ、傷を負った様子のラットルアさん。


「下がれ!」


そんなラットルアさんの前に出たヌーガさん。


皆から完全に余裕が消えている。


「武器に魔力を込めろ! 攻撃が効く!」


シファルさんの言葉に、全員の動きが少し変わる。

何故かお父さんとヌーガさんが前に出て戦いだした。


「魔力」


矢を構えている状態で溜め息が出る。

私の魔力はとても少ない。

だから、矢に魔力を込めるなんて出来ない。


「ぷっ」


肩に重みを感じた。

見ると、弓を引いている方の肩にソラが乗っていた。


「ソラ、今は」


「ぷっ」


ソラが矢の一部を口に含む。


「えっ?」


しばらくすると矢から微かに魔力を感じた。


「……もしかして、魔力を込めてくれたの?」


「ぷっぷぷ~」


今は疑問に思っている時間はない。

これで私も加勢出来る。


「ありがとう」


巨大な魔物に向かって矢を構え放つ。

的が大きく近くにある為、矢は刺さった。

ただ、力が弱過ぎたのだろう。

すぐに抜けてしまった。


「力が弱過ぎる」


次の矢を構えると、すぐにソラが魔力を込めてくれた。


「ありがとう」


でも、どこを狙えばいいんだろう?

皮膚は硬いから、私の力では攻撃にならない。

首元?


あっ、お父さんの攻撃で魔物の腕が落ちた。


「ギャァァアアアアアアア」


次の瞬間、魔物が大きな声で鳴きながらお父さんに向かっていく。


「ドルイド、危ない!」


ラットルアさんの声に、指が微かに震える。


「大丈夫。大丈夫」


魔物がお父さんに向かって腕を振り上げる。


「ギャァァアアアアアアア」


あっ、目だ!

そうだ、目なら私の攻撃でも効くかも。


矢を構え、魔物の目を狙い放つ。


「お願い」


グサッ。

グサッ。


「ぐぁぎゃぁぁあああ」


頭を振り回す魔物。

見ると両目に矢が刺さっている。


シファルさんの攻撃だ!


「あっ」


私が登っていた木に大きな衝撃がきた。

暴れた魔物が、木にぶつかったようだ。


「アイビー!」


大きく揺れた木から飛び下りると、ソラ達の無事を確かめる。


「私達は大丈夫」


お父さんに向かって叫ぶと、暴れている魔物から急いで離れる。


「ドルイド、首を狙え」


セイゼルクさんの声に視線を向けるが、魔物で姿が見えない。


「分かった。シファル、気を逸らしてくれ」


「分かった」


しばらくすると、巨大な魔物の動きが止まり、そのまま横に倒れた。


死んだのかな?

いや、まだ確認が終わっていないから分からないか。

それより、皆は無事かな?


「にゃうん」


「シエル」


シエルもお父さん達と一緒に攻撃をしていた。

途中で姿が見えなくなったから不安だったけど、怪我はしていないみたい。


「無事で良かった」


「討伐完了。終わったぁ」


セイゼルクさんの声に、全身から力が抜けその場に座り込む。


「疲れた」


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― 新着の感想 ―
リュウじゃないのか? なんなんだろう。 楽しみです。 新刊読みました。小説側は懐かしいメンバーばかり。 コミックのほうもラットルアさんたちとの大詰めですね。
流石にケツ穴に攻撃する業の者は居なかったか(棒
このメンバーであわてるほどの強敵とはな いったいなんだったのだろう
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