971話 原因?
「お昼にするか」
少し開けた場所に出ると、セイゼルクさんが立ち止まる。
「いいね」
ラットルアさんは賛成の声を上げると、すぐに近くの岩に座った。
その様子を見ながら、マジックバッグから複数のカゴを出す。
カゴにはお昼用にサンドイッチとおにぎりが入っている。
「アイビー、一緒に座ろう」
ラットルアさんの隣に座ると、皆にカゴを回してもらう。
「「「「「いただきます」」」」」
お昼を食べながら、ソラ達の様子を見る。
シエルもスライムに変化して、みんなでぶつかり合いをしていた。
「さすがシエル、強いね」
ソラ達が一気に襲いかかっても跳ね除けている。
スライムの姿でも、シエルは強いようだ。
「なぁ、さっきの魔物。少しおかしくないか?」
ラットルアさんを見ると、眉間に皺を寄せている。
「そうだな」
セイゼルクさんもおかしいと考えていたようだ。
2人の会話に首を傾げる。
何がおかしいんだろう?
春先に子供を産む魔物がいるので、初夏の今は子育て中の筈。
だから時期はおかしくない。
場所?
子供を隠しながら育てる種類の魔物なら、洞窟に隠れているのはおかしくない。
「何がおかしいの?」
ラットルアさんとセイゼルクさんを見る。
「場所だよ」
場所?
洞窟で子育てはしないのかな?
「あの洞窟の湖で採れる魔石は、かなり人気なんだ。それにあの周辺には、ポーション作りに必要な薬草が沢山ある。まぁ、少し森の奥にあるから採りに来る冒険者は限られているけどな。でも、結構人が行き来する場所なんだよ。そんな場所で、魔物は子育てをしない筈だ。始めたとしても、人がよく来ると分かれば移動するだろう」
「なるほど」
セイゼルクさんの説明に頷く。
「たまたま人が来なかったとか?」
お父さんの言う通り、それはあるのでは?
「それはないと思うぞ。王都の冒険者ギルドが、2カ月に1回か2回。湖の魔石採取を依頼で出すし、薬草採取は頻繁に依頼が出ているから」
「あの周辺でしか取れない薬草があるらしいからな」
シファルさんに続き、セイゼルクさんも否定する。
それだったら人の出入りはある程度あるのか。
それを考えると、子育て中の魔物がさっきの洞窟にいるのはおかしい。
「だったら、どうしてあの洞窟にいたんだろう?」
「安全な住処を見つけて子供を産んだ筈だ。それが移動したとなると、住処だった場所に強い魔物が現れて逃げてきたのかもな」
セイゼルクさんが、今から向かう森に視線を向ける。
「それが原因だった場合、森の奥に行く俺達は気を付けないと駄目だな」
お父さんの言葉に、セイゼルクさん達が頷く。
「まぁ、原因が強い魔物だった場合だけどな。たまたま住処が壊れたとか水浸しになったとか。原因は他にも考えられるから」
シファルさんが笑って、空になったカゴに蓋をする。
「ごちそうさま」
あれ?
私の下に戻って来る複数の空のカゴ。
いつの間に、食べ切ったんだろう?
「ちゃんと食べたか?」
お父さんの言葉に頷く。
最初にしっかり確保したからね。
だって気付いたら、なくなっているんだもん。
「大丈夫」
空になったカゴをマジックバッグに仕舞う。
マジックバッグを肩から下げて、ソラ達に視線を向けた。
「皆、行こうか」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
「にゃうん」
足下に集まって来る皆。
「いっぱい、遊んでいたね。楽しかった?」
ぷるぷる揺れるソラ達。
シエルはいつ、アダンダラに戻るんだろう?
「行こうか。シエル、道案内を頼む」
「にゃうん」
一瞬で元の姿に戻ったシエルは、セイゼルクさんの下に走り寄ると一緒に歩き始めた。
「アイビーも行こう」
笑顔で私を呼ぶラットルアさんに視線を向ける。
「うん」
歩き始めて1時間。
シエルの足が止まった。
「ここ?」
セイゼルクさんが周りに視線を向ける。
ラットルアさん達も不思議そうに周りを見る。
「シエル、この辺りに洞窟があるのか?」
「にゃうん」
セイゼルクさんを見たシエルは、少し離れた場所にある巨大な木を見た。
「あの木の近く?」
「にゃうん」
シエルが見た、巨大な木に近付く。
「穴だ」
ヌーガさんの視線の先は、木の根元に開いた穴。
「かなり広いな」
セイゼルクさんが穴の中を覗き込む。
お父さんが彼の隣に立つと、一緒に穴の中を覗く。
「そうだな」
「地面が滑りやすそうだ。靴を洞窟用に履き替えたほうがいいかもな」
セイゼルクさんの言葉にお父さんが頷く。
「2人とも、とっとと準備しないと」
ラットルアさんを見ると、マジックバッグから洞窟用の靴を出していた。
「早いな」
セイゼルクさんを見たラットルアさんは、笑って視線を横に逸らす。
「俺よりもっと早いのがいるぞ」
ラットルアさんの言葉に、彼の視線を追う。
「あっ」
シファルさんとヌーガさんは、既に洞窟用の靴に履き替えていた。
「2人は準備万端だな。アイビーも準備しようか」
「うん」
マジックバッグから洞窟用の靴を出すと、履き替える。
「手袋も洞窟用のほうがいいぞ。あと灯りも必要だ」
お父さんの言葉に、マジックバッグから洞窟用の手袋と灯りのマジックアイテムを出す。
「洞窟内は真っ暗だったの?」
「奥は真っ暗で何も見えなかったんだ」
それなら、灯りのマジックアイテムは絶対に必要だね。
準備を終えて、洞窟の前に行く。
「俺が最初に入るよ」
ラットルアさんが最初に洞窟の中に入ると、横からシエルがさっと入って行く。
「ソラ達はどうする? そのまま行く? バッグに入る?」
ソラ達を見ると、3匹で中を覗いている。
「ぷっぷ~?」
んっ?
何て言ったんだろう?
「てりゅ」
「ぺふっ」
3匹はそれぞれ頷くと、ピョンと洞窟に入って行った。
「今の3匹は、ソラは『入る?』で、フレムとソルは『入ろう』かな?」
お父さんのちょっと声を変えた言い方に笑いながら頷く。
「たぶん、そうだと思う。お父さん、私達も入ろう」
「そうだな。アイビー、先にどうぞ」
「ありがとう」
洞窟内に入ると、ヒンヤリとした空気を感じた。
初夏になって暖かくなってきたのに、洞窟内は少し寒い。
「涼しいというより、少し寒いな」
「うん」
お父さんがマジックバッグから上着を取り出し着る。
「アイビーは大丈夫か?」
「今日の服は少し厚みがあるから大丈夫」
「奥に行くと暗くなるから気を付けて」
セイゼルクさんの言葉に、灯りのマジックアイテムに付いているボタンを押す。
灯りが点くと、周りをふわっとやわらかい灯りが照らしだした。
歩き始めると、足元が少しぬかるんでいた。
「滑るな。気を付けて」
「分かった」
お父さんの言葉に、慎重に足を進める。
「道が二手に分かれている。右か左か、どっちに行きたい?」
ラットルアさんが私達に視線を向ける。
「シエルはどっちに行きたい?」
シファルさんがシエルを見る。
シエルは、右と左に分かれた道を交互に見て左に前脚を向けた。
「左か」
シエルの結果を見ていたラットルアさんが左の道を進む。
しばらく歩くと、広い場所に出た。
「灯りを点けているのに、かなり暗いな」
セイゼルクさんが、洞窟の隅により灯りのマジックアイテムで壁を照らす。
「ここ、壁が黒くないか?」
黒い壁?
セイゼルクさんの傍により、持っていた灯りのマジックアイテムで壁を照らす。
二つの灯りで、少し明るさが増す。
「本当だ、壁が黒い岩で出来ているみたい」




