968話 カシメ町を出発
冒険者ギルドに向かうセイゼルクさんを見て、笑ってしまう。
それに気付いた彼が私を見る。
「そんなに変かな?」
「ごめん。いつもと違うから、ちょっと面白くて」
セイゼルクさんは今、スノーが入っている繭をカゴに入れ背負っている。
繭は少し成長し直径が45㎝ほど。
そのため繭を入れているカゴも、少し大きくなっている。
そのせいなのか、違和感を覚えるセイゼルクさんの後姿。
見ているとやっぱり笑ってしまう。
冒険者ギルドに着くと、フラフさんを呼んで貰えるようにお願いする。
待っている間に商業ギルドに行き、お金を口座に入金する。
セイゼルクさん達は冒険者なので、冒険者ギルドの口座があるらしいので別行動だ。
「おはよう。伝言をありがとう」
商業ギルドに、フラフさんが来る。
用事を終わらせたセイゼルクさん達も一緒だ。
「フラフさん、おはようございます」
セイゼルクさんが昨日、フラフさんに「今日、カシメ町を出発する」と宿の人に伝言を頼んだ。
そして今日の朝、「冒険者ギルドにいるので呼び出して欲しい」との伝言が届いた。
「忙しそうだな」
お父さんを見て溜め息を吐くフラフさん。
「馬鹿共が色々とやらかしてくれていたからね。それを正すのに必死なの。まぁ、覚悟をしていた事だから問題ないわ。あぁ、そうだ。これを渡したくて伝言を頼んだのよ」
フラフさんが1枚の紙をお父さんに渡す。
お父さんは紙の内容を確認して、私を見た。
「アイビーも確認してくれ」
「うん」
紙の内容を見てフラフさんを見る。
「えっ!」
「しっかり受け取ってね。そのお陰で死者が出なかったんだから」
紙には「提供して頂いた魔石の代金」と記載され、「金板6枚、60ラダルを支払う」とあった。
金板なんてそうそう見る物ではない。
なんだか、2日前と今日でお金の感覚がおかしくなりそう。
「口座のカードを貸してくれる? あれの出所が分からなくするのに必要なんだけど」
あれって魔石の事だよね。
私達が提供した事を隠してくれるのか。
フラフさんの言葉にお父さんが家族口座のカードを渡す。
彼女は商業ギルドの奥に入ると手続きをして戻って来た。
「口座を確認しておいてね」
「ありがとう」
お父さんは口座カードを受け取るとフラフさんに小さく頭を下げた。
私もフラフさんに小さく頭を下げる。
「ありがとうございます」
「お礼を言うのは私の方よ。アイビー達がこの町に来てくれて良かった。本当にありがとう」
フラフさんの言葉に笑顔になる。
フラフさんは本当に忙しいみたいで、彼女を呼びながら商業ギルドに自警団員達が飛び込んで来る。
そんな彼等の姿に、彼女は小さく溜め息を吐く。
「はぁ、また問題かしら? 私は行くわ。王都まで気を付けてね。また、会いましょうね」
小走りで去って行くフラフさん。
「フラフさん、体に気を付けて下さいね」
フラフさんの目元には少し隈があった。
ゆっくり休めていないのかもしれない。
私の言葉にチラッと振り返る彼女は、笑顔で手を振った。
「行こうか」
セイゼルクさんの言葉に、商業ギルドを出る。
大通りを歩きながら、町の人の様子を見る。
昨日の朝、カシメ町の人達に自警団と両ギルド連名で発表があった。
呪具の事、行方不明になっていた人達の事。
そして、その問題を起こした者達が既に捕まっている事も合わせて。
昨日は、その話で町全体が凄かったらしい。
旅で必要な物を買い出しに行っていたラットルアさんとヌーガさんが教えてくれた。
「あっ」
私の声が聞こえたのか、お父さんが私の視線の先を見る。
「ぷっくくく」
お父さんの笑い声に、皆の視線が反応した物に向く。
「うっわ~」
ラットルアさんが感心した様子で声を上げると、セイゼルクさんとヌーガさんが笑い出す。
シファルさんは少し驚いた表情を見せた後、楽しそうに笑った。
私達の視線の先には、大きな布。
その布には「元副団長マッタス、祝逮捕」とある。
彼はどうやら嫌われ者だったようだ。
わざわざ、そんな物を作るほど。
カシメ町の門を出る。
少し歩くと振り返りカシメ町を見る。
「どうした?」
お父さんが私を見る。
「なんでもない。行こう」
本屋の店主に、占い師さんの事を聞こうと思っていた。
彼女は味方だったのか、違うのか知りたかったから。
でも、止めた。
占い師さんは、本を木の板にするのではなく譲渡してくれた。
私のこれからに必要だろうと。
私の知っている占い師さんは優しい。
だから彼女の言う「王都の隣町」とは、本屋を指していたんだと思う。
私は、そう思う事にした。
「今度カシメ町に来た時は、知り合いの食事処に行こうな」
「そうだね」
店主は夢を叶えているかな?
カシメ町から歩いて20分。
そろそろ大丈夫かな?
周りの気配を探りながら、ソラ達の入っているバッグを開ける。
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「にゃうん」
「ぺふっ」
飛び出してきた4匹は、体をほぐすためか縦運動を始める。
「シエル、その運動は必要ないよね?」
私を見て、元の姿に戻り背を伸ばすシエル。
やっぱり必要ないんだよね?
「にゃうん」
体がほぐれたのか、ソラ達が元気に私達の周りを跳びはねる。
「行こう」
セイゼルクさんが言うと、シエルが周りを見る。
そして、セイゼルクさんを見た。
「さっそく道を外れるのか?」
セイゼルクさんが問うと、「にゃうん」と鳴くシエル。
「分かった。任せるよ」
シエルを先頭に村道から外れる。
当たり前になったけど、今度は何を見せてくれるんだろう?
王都か。
あぁ、行くなら戴冠式は見たいな。
「お父さん、戴冠式の日程は決まったのかな?」
お父さんを見ると首を横に振った。
「まだみたいだ。セイゼルクはいつ頃になるか知っているか?」
「決まらないそうだ。なんだか王都も色々あるみたいだぞ。巻き込まれないといいな」
「「「「「……」」」」」
「あっ、いや……」
無言になる私やお父さん達。
それに気付いたセイゼルクさんが、困った表情をする。
「ぷっぷ~?」
「てりゅ?」
私達の雰囲気に不思議そうに鳴くソラとフレム。
ソルとシエルも、私達を気にしている。
「『なるようになる』だな」
シファルさんの言葉に、皆が笑って頷く。
確かにその通りだよね。
巻き込まれないようにしたって、巻き込まれる時は巻き込まれるし。
もう諦めた。
でも、なるべく巻き込まれないようにはしたいけどね。
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ほのぼのる500




