966話 やっぱり
「私はガシュ。この町のテイマーです」
捨て場に戻りながら自己紹介をする。
「俺はドルイドです」
「娘のアイビーです。この子達は、ソラにフレムにソルです」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
私がソラ達を紹介すると、嬉しそうに鳴きながら飛び跳ねる3匹。
「元気な子達ですね。それに、かなり個性的だ」
ガシュさんの言葉に、お父さんと笑ってしまう。
「そうですね。かなり個性的です」
捨て場の傍に来ると、ソラ達の飛び跳ね方が勢いを増す。
それをガシュさんが不思議そうに見た。
「今日は食べ放題なんです」
「食べ放題ですか?」
私を見て首を傾げるガシュさん。
「ちょっと色々ありまして。今日はご褒美に、好きなだけ食べて良いと言ってあるんですよ」
お父さんの説明に、困惑した表情のガシュさん。
何かおかしな事でも言ったかな?
あっ「食べるところは見られない方がいい」と言っていたけど、どうするんだろう?
お父さんを見ると、大丈夫というように頷いた。
ガシュさんは問題ないと判断したのかな?
「ぷっぷ~!」
「てりゅ!」
捨て場に到着すると、ソラとフレムが私を見て鳴く。
「ふふっ。食べてきていいよ。ただし、まん丸になるまでは駄目だよ」
「「「……」」」
どうして返事がないんだろう?
「だ・め・だ・よ」
ソラ、フレム、ソルの順に目を見て駄目と伝える。
「ぷ~」
「てりゅ~」
「ぺ~」
全く納得していない様子だけど返事はした。
大丈夫かな?
凄く心配だけど……まぁ、返事は返って来たし。
「行ってらっしゃい。剣の先やとがった物に気を付けるんだよ」
嬉しそうに捨て場に飛び込むソラ達。
少しすると、3カ所からなんとも言えない音が聞こえて来た。
「みんなレアスライムだったんですね! 食べるのが、凄く早い。あれ? 瓶ごと食べてないか?」
ガシュさんが驚いた声を上げる。
「はい。3匹ともレアスライムです」
彼の反応が気になって視線を向ける。
ガシュさんは、ゴミの上で飛び跳ねるソラ達を心配そうに見ている。
そして転がりそうなソラやソルに、無意識に手が動いていた。
「あっ」
動いた手に気付いたのか、恥ずかしそうな表情をするガシュさん。
「ははっ。ここから手を伸ばしても意味はないんですが、つい手が動いてしまうんですよね」
彼はきっと、トトナにも同じような反応をしていたんだろうな。
そしてレアスライムという事は気にしていないみたい。
良かった。
「分かります。それって無意識ですよね」
ソラ達の様子を見ながら、ガシュさんからトトナの話を聞く。
トトナという子は、高いところが好きだったけどあまり運動神経が良くなかったみたい。
岩の上や枝に飛び乗ろうとして届かなかった事が何度もあったらしい。
そして、ガシュさんを揶揄って遊ぶ事が好きだったようだ。
「アイビー」
お父さんを見る。
「そろそろポーションを集めようか」
あっ、旅の準備で皆のポーションやマジックアイテムを集める必要があるんだった。
ガシュさんの事があってすっかり忘れていた。
「うん」
「何をするんですか?」
不思議そうなガシュさんに視線を向ける。
「ソラ達が食べるご飯を集めるんです」
「それなら私にも手伝えそうですね。何を拾えばいいですか?」
やる気を見せるガシュさんにお父さんが笑う。
「青のポーションと赤のポーションをお願いします」
「分かりました」
お父さんからマジックバッグを受け取ると、楽しそうに捨て場に入るガシュさん。
「手伝ってもらっていいのかな?」
少し前に出会った人なんだけど。
「いいだろう。本人がやる気だし」
確かにやる気だね。
それなら、良いのかな?
お父さんと捨て場に入り、剣とマジックアイテムを拾っていく。
王都までどれくらい距離があるのかな?
とりあえずマジックバッグ一杯に詰め込めばいいよね。
剣とマジックアイテムで一杯にしたマジックバッグがお父さんと合わせて4個。
ガシュさんもマジックバッグにポーションを一杯集めてくれた。
「ありがとうございます。凄く助かります」
ガシュさんからマジックバッグを受け取ると頭を下げる。
「役に立てたなら嬉しいです」
「アイビー、そろそろ皆を呼び戻そうか。もういいだろう」
「そうだね」
随分と食べ続けているから、もういいよね。
「ソラ、フレム、ソル。そろそろ戻ろうか」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
あぁ、やっぱり!
駄目って言ったのに!
「えっ? あれ? 丸い?」
ガシュさんを見ると、ソラ達を見て目を見開いている。
かなり驚かせてしまったみたいだ。
「みんな、丸くなるまでは駄目って言ったのに」
3匹がスッと視線を逸らす。
「ぷぅ?」
チラッと私を見るソラ。
「てりゅ?」
フレムもチラッと私を見る。
ソルはチラッと、傍にあるマジックアイテムを見た。
まだ食べるつもりなんだろうか?
「ソル、もう終わり」
残念そうな表情でマジックアイテムを見るソル。
それにお父さんとガシュさんが笑い出す。
「凄いですね。うん、凄い。スライムは丸くなるまで食べたりするんですね」
あれ?
他のスライムは、丸くなるまで食べないのかな?
「皆、食いしん坊なんです」
「あはははっ、確かに食いしん坊ですね」
楽しそうに、丸くなったソラを撫でるガシュさん。
「突いたら転がりそうですね」
彼の言葉にソラがちょっと離れる。
「えっ? しないよ。絶対に転がしたりしないから」
ソラの態度にガシュさんが慌てた様子を見せる。
そんな彼の態度に、笑ってしまう。
「そろそろ町に戻ろうか、暗くなってきたし」
お父さんの言葉に上空を見る。
暑くなる季節に近付いたので、暗くなるのは遅くなった。
それでも、そろそろ町に戻らないと真っ暗になってしまうだろう。
「うん、帰ろうか」
といっても、シエルがいないんだよね。
近くに気配を感じないから、まだ帰って来てないみたい。
お父さんも気になるのか、森の奥へ視線を向けた。
あれ?
今帰って来たらちょっと困るよね。
ガシュさんがいるし。
私がガシュさんに視線を向けると不思議そうな表情になった。
「どうしたんですか?」
シエルの事は言えないよね。
先に町に戻ってもらおう。
でも、どう言えばいいのかな?
「ぷっぷぷ~」
私の足元で飛び跳ね……転がるソラ。
どうやら、今は飛び跳ねようとすると転がるみたいだ。
「ソラ、彼にシエルの事がバレても大丈夫だと思うか?」
「えっ!」
慌ててお父さんを見ると、真剣な表情でソラを見ていた。
「ぷっぷぷ~」
ソラの反応にお父さんが笑う
あっ、シエルが帰って来た。
「仲間が帰って来た様です」
お父さんが帰って来たシエルを見ると、ガシュさんが息を呑んだ。
「シエル、おかえり」
私の傍に来たシエルの頭を撫でながら、ガシュさんを見る。
彼は私とシエルを交互に見て、止めていた息を吐き出した。
「今日は驚く事がいっぱいですね」
ガシュさんの様子から小さく息を吐き出す。
ちょっと緊張していたみたい。
シエルはそんな私に顔を寄せ、スリっと顔を擦りつけた。
「生きていると、凄い光景に出会えるんですね。うわっ」
私とシエルの様子を見て感心していたガシュさんは、スライムに変化したシエルに声を上げた。
「……凄い光景に……出会えるんですね」
呆然と呟くガシュさんに、お父さんが笑って頷いた。
「そうですよ」
町に戻る為、ソラ達をバッグに入れる。
その様子を見ているガシュさん。
「新しい子を探そうかな」
彼から聞こえた小さな呟きに笑顔になる。
「いい子が見つかるといいですね」
私を見たガシュさんは、穏やかに微笑むと頷いた。




