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102話 頑張りました!

つ、疲れた……。

時間にして3時間。

ずっとソラに頑張ってもらっている。

その判断を伝える私も緊張が続き、そろそろ限界かも。

視線を建物の窓から外へ向ける。

まだ並んでいる人はいるが、その数は確実に減っている。

あと少し頑張ろう。


「アダリクリです」


目の前の男性が名前を伝えると鞄が揺れたので、ボロルダさんの服を1回引っ張る。


「捕まえろ」


「えっ! ちょっと待ってくれ。俺は組織とは関係ないぞ。本当だ」


ボロルダさんの言葉に、男性が焦った表情を見せる。

あれ?

少し不思議に思い首を傾げた。

此処までで捕まった人の数は22人。

3時間で22人……正直多すぎる。

それだけ組織が手を伸ばしていたって事なのだろう。

で、彼らの反応とこの男性の反応が少し違う。

22人の中には逃げ出そうとした人、平常を装ってやり過ごそうとした人。

ボロルダさんを怒鳴りつけて暴力に訴えた人、ヌーガさんの一発がお腹に決まって真っ青になっていた。

あの人大丈夫かな?

まぁ、自業自得だから仕方ないとして、目の前の人は真っ青な顔で何だかものすごく焦っている。

その様子が、今までの人と違うような気がするのだ。

ボロルダさんも気になったのか、少し様子を窺っている。


「本当だ、俺は組織とは関係ない。調べてくれたら……あっいやそうではなくて」


「何か後ろめたい事でもあるのか?」


「違う! ただ、そのあれはそういうのではないはずだ……だが、あいつも捕まったし……」


何だか、気の弱そうな人だな。

本当にこの人、組織の人なのかな?


「あの……」


「おい、やめろ!」


「でも、ちゃんと言って説明しないと……」


「ここで言わないと、組織の関係者として連行『うちの人は、預かっただけなんです!』……預かった? いったい何を?」


奥さんと思われる人が、男性が止めるのを振り切って声を上げる。


「うちの人には使っていない家があって、そこに荷物を置かせてほしいって。誰にも言わない事を条件にその家を貸しているんです」


「おい!」


「もういい加減にしてください! あの人はさっき捕まっていたではないですか!」


「それは……だが……借金が」


「こんな時に借金だなんて! 組織に加担したなんて噂になったら、この町を出て行く事になるんですよ!」


……そうなの?

そっとボロルダさんを窺うと、彼は肩をすくめて見せた。

どうやら本当らしい。

そうか、この町には組織の被害者が沢山いると言っていた。

その人達にとって、組織に手を貸した人達を許すのは難しいのだろう。


「その家は何処にありますか?」


「住んでいる家の5軒隣りの2階建ての家です。少し前に取り締まりがありましたよね。あの日の朝にいきなりこの人の幼馴染が訪ねて来て。なんだか怪しそうだったんですが、この人が借金が返済できるならって承諾してしまって……すみません」


取り締まりの日って……もしかしてその荷物って書類!

ボロルダさんを見ると、彼もかなり驚いた表情をしている。

同じ結論のようだ。

……そっか。

取り締まりの日に情報は掴めたが、あまりに急だったから安全な場所まで移動は出来なかったんだ。

だから拠点の近くに隠さざるを得なかった。

たしか自警団員を総動員して、町を巡回させたって団長さんが言っていたな。

その後も、拠点周辺の巡回を増やしたって聞いた。


「なるほどな。ところでお前名前は?」


「えっ、あ……ミレアです」


鞄からふるふると言う振動が伝わる。

……それに驚きながら、ボロルダさんの服をそっと引っ張る。

彼の動きが一瞬止まり、苦笑いした。


「なるほど、組織に見切りをつけたのか?」


ボロルダさんの言葉に女性が少し焦りだす。


「何を言っているのか、私には……」


「嘘を言うな。お前たちは全てを知って組織に加担していた。そうだろ?」


「なっ、違います! 本当に私は知りませんでした。……旦那は知っていたかも『何を言っているんだ! お前がやれって!』うっ。うるさい!」


「うるさいって、お前が全て決めたんだろうが! 俺は反対だったんだ!」


「あんたが借金なんか作らなければ、こんな事にはなっていないわよ!」


「なんだと! あの借金だってもとはと言えばお前が!」


すごい、修羅場だ。

自警団のロゼさんやボロルダさん達がいる前で、よく喧嘩なんて出来るな。

それにしても、騙されるところだった。

ソラはすごいな。

そっとバッグの上からソラを撫でる。

少しだけフルフルっとした振動が伝わる。

……癒される。


「はぁ~、なんだか疲れが倍増したな」


ボロルダさんが、顔を手で覆って大きなため息をつく。


「ロゼさん悪い、連れて行ってもらえるかな?」


「はい」


ロゼさんの指示で、自警団の見習いたちが夫婦を連行していく。

建物の外に出ても声が聞こえるので、喧嘩は続いているようだ。

本当に、すごい人達だな。


「お疲れさま」


ラットルアさんが、目の前の机に熱いお茶を置いて頭を軽くポンと撫でてくれる。


「驚いただろう? 大丈夫か?」


「はい。すごい人達でしたね」


お茶を飲むと、体の中からじんわりとした熱にホッとする。

どうやら、想像以上に疲れているようだ。

でもまだ、待っている人がいる。

ボロルダさんを見て1回頷く。


「よし、続けるか!」


「はい。次、入ってください」


扉の所に立つマールリークさんが、部屋の外で待つ人に声を掛ける。

あと少し、頑張ろう。

それから1時間弱……最後の1人が部屋から出て行くのを見送る。

まだ、冒険者の判断があるけど、とりあえず一番人数が予測できなかった拠点周辺の調査は終了だ。

椅子から立ち上がって背を伸ばす。

気持ちがいい。


「お疲れ様です。それにしても、なんて言うか」


ロゼさんが、建物の窓から少し離れた場所にある拠点を見つめて言葉を濁す。

拠点には今、捕まえた人達が一時的に集められている。

総勢34人。

男性23人、女性11人だ。


「多かったな。10人前後を予想していたんだが……まさかの30人超えとはな」


ボロルダさんも、さすがに30人を超えるとは思っていなかったのか。

そうだよね、ほんと多すぎる。


「嫌になりますよ。見習いからは5名も出てしまった」


ロゼさんの言葉には、やるせなさが出ている。

やはり仲間が捕まった事が堪えているようだ。


「ロゼさん」


「大丈夫です。アイビーもご苦労様です」


「いえ、ロゼさんもお疲れ様です。あっ、団長達が戻って来たみたいです」


窓の外に団長さんの姿が見えた。

団長さんは、討伐隊を再編して犯罪者集団の討伐に向かっていたのだ。

指名手配された人殺しが多数いたので心配したが、自警団員達も冒険者達も大丈夫だったようだ。

建物から出て、団長さん達のもとへ向かうと、私たちの姿を見て軽く手をあげてくれた。

そして次に拠点へ視線を向けて、固まった。

おそらく捕まった人達の多さに、驚いたのだろう。

団長さんの隣にいた副団長さんまで驚いた表情をしている。


「おい! これ本当か?」


団長さんが少し興奮気味に聞いてくる。


「すごいだろ。さすがに俺達も驚いたわ」


「いや、すごいって……まぁ、すごいが」


団長さんは少し混乱中だ。


「団長、落ち着いてください。ロゼ、ご苦労様でした。問題はありませんでしたか?」


「はい。問題は……あっ!」


ロゼさんが、何かを思い出したようにボロルダさんを見る。

ボロルダさんは彼の視線に首を傾げるが、すぐに何かに気が付き周りを見回した。

少し離れた場所にいたロークリークさんとリックベルトさんを見つけると、手招きする。


「確認してきたぞ。書類で間違いない」


書類……あっ、拠点から持ち出された書類だ。

あの夫婦の情報は本当だったのか。


「書類? 何のことだ?」


「この拠点から持ち出された書類が見つかったんだ」


「……本当か?」


団長さんがボロルダさんを見る。


「あぁ、情報をべらべらしゃべった奴らがいたからな」


ボロルダさんの言葉に団長さんも副団長さんも不思議そうだ。

ロゼさんは苦笑いだ。

でも、そうか書類はあったのか。

これで、組織を追い詰められる。

頑張ったかいがあったな。


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― 新着の感想 ―
[一言] 本当に審議判定をどうやってるのかが不明だけど。 アイビー(と前世)とソラの組み合わせって、大人の頭脳と不思議アイテムな組み合わせみたいで。 すごくつよい(_’
[気になる点] とても面白いです。何周か読み返しています。102話で震えていますが、前の話で逆にしたのでわ?と、読み返すたび思ったのでおもわず書き込んでしまいました。 暑さきびしいおりくれぐれもごじあ…
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