962話 どうしたい?
「もう少し詳しく書いてほしかったよな」
ラットルアさんが不満そうに、本を手にする。
そうだよね。
戴冠式の数年後とあるけど、いつ頃なの?
1年後? 2年後?
魔物が暴走する原因の元まで行けるなら、その方法も教えてほしかった。
「いや、これでいいと思うぞ」
お父さんに視線を向ける。
「未来は変わるんだろう? もし戴冠式の3年後と書いてあったら、3年後に向けて準備をする。でも、未来が変わって魔物が2年後に溢れたら?」
あぁ、そうか。
未来は、変わるんだ。
数年後と書く事が正解なんだ。
「原因に辿り着く方法が書かれていないのも、変わる未来に対応するためだろうな」
お父さんに続きジナルさんが言う。
それにみんなが納得した様子で頷いた。
「アイビーは、どうしたい?」
ジナルさんの質問に首を傾げる。
「どうしたいとは?」
「本の内容を知って、アイビーはどう動きたい?」
私の動き?
「えっと、捨てられた大地にある原因の排除に行くんだよね?」
「別にアイビーが行かなくてもいいと思っている」
そうなの?
でも、本を託されたのは私とお父さん。
「あっ、お父さんだけでもいいという事?」
私は戦えないもんね。
ジナルさんを見ると首を横に振られた。
「違う。俺は、ドルイドだって行かなくていいと思っている。本を託されたのは、その情報を正しく利用出来る者だと判断されたからだと思うんだ」
正しく利用?
「今、ここに俺やセイゼルク達がいなくても、対応が出来る者達に伝えるだろう?」
「それは当たり前でしょう?」
私だけが知っていても対応出来ないんだから。
力があって、周りに影響を与えられる人に協力を求めるのは当然だと思う。
「それを『当たり前』だと考える者に本は託されているんだと思う」
そうなのかな?
だいたい数年後に王都が襲われる情報なんて、どう利用するの?
「情報は金を生む。リュウ達が襲って来るなら、大量に武器が必要となる。もし、大量の武器を作っておいて、襲われた時に高値で売りさばけば?」
「儲けられる」
私の答えに、神妙に頷くジナルさん。
「悲しい事だが、未来を守るために動くのではなく一儲けするために動く者は多い。だから未来視達は、渡す相手をかなり慎重に選んだと思う。戦える力がある者ではなく、情報を正しく利用出来る者が見つかるまで」
私が選ばれたのは、知った情報をジナルさん達に伝えると思ったから?
「お父さんは?」
ジナルさんを見て首を傾げる。
「ドルイドはアイビーの家族だからだろう」
そうなのかな?
「それを踏まえて、アイビーはどうしたい?」
原因を探しに行く必要はない。
私の役目は、ジナルさんやセイゼルクさん達に伝えた事で終わった。
私は……、
「捨てられた大地に行きたい。木の魔物達がどうして王都を襲ってしまうのか知りたい。木の魔物は優しい魔物だと知っているから。何故変わってしまうのか、それが知りたい。あっ、変わった原因が黒く大きな物なんだから……黒く大きな物がいる場所に行く事になるんだ」
私は、木の魔物達に変わって欲しくない。
だって、トロンは私を守るために命を……。
そんな優しい木の魔物が王都を襲うなんて、きっと原因を取り除けば大丈夫になる筈。
ジナルさんを見る。
「私は、黒く大きな物がある場所に行きたいです」
戦う力はない。
頑張って鍛えても、数年後にどれだけ戦えるようになっているのか分からない。
もしかしたら、全く戦えない状態かもしれない。
それでも、木の魔物が変わるのを止めたい。
「分かった。ドルイドは?」
ジナルさんがお父さんを見る。
「俺は内容を読んだ時から、原因の所に行くつもりだ」
お父さんを見ると、私を見て微笑んだ。
「一緒だな」
「うん。行くまでに頑張って鍛えるね」
嬉しそうに頷くお父さんに、頑張ろうと気合を入れる。
「ドルイドとアイビーが行く時に、俺も一緒に行く予定だから」
驚いてシファルさんを見る。
「俺もその予定だ」
ヌーガさんも?
「あぁ、俺もだから」
ラットルアさんも?
「まぁ、そうなるだろうな。分かった」
ジナルさんの言葉に、3人が笑う。
「とりあえず、お前達は誰がリーダーになるのか決めろ」
ジナルさんが嫌そうな表情をしたシファルさん達に視線を向ける。
「そんなにリーダーが嫌か? それほど大変ではないぞ?」
「切れたシファルを止められないから、俺には無理だ」
ラットルアさんの言葉にヌーガさんが頷く。
それを見たジナルさんが、ちょっと視線を逸らす。
「お前達のチームには、その問題があったな」
ジナルさんの呟きに、お父さんが苦笑する。
「2人が嫌なら、俺がリーダーか?」
シファルさんが首を傾げると、ラットルアさんが複雑な表情になった。
私は、シファルさんがリーダーでもいいと思うけどな。
性格はちょっと黒いけど、気配りが上手だし優しいから。
「シファルはリーダーという性格ではないだろう」
セイゼルクさんが呆れた様子で、シファルさんを見る。
そうかな?
「知っているけど、2人はやりたがらないから。セイゼルクは誰が良いと思う?」
リーダーだったセイゼルクさんから見て、誰が良いんだろう?
「ヌーガだな」
「だったらヌーガで決定だな」
ラットルアさんが嬉しそうに、ヌーガさんの肩を叩く。
眉間に深い皺を作ったヌーガさんが、セイゼルクさんを見る。
「シファルの暴走をヌーガは止めないが、ある程度制御はできるだろう?」
制御って、セイゼルクさんはシファルさんを何だと思っているんだろう?
あれ?
シファルさん、セイゼルクさんの言葉に納得してる?
「まぁ、そうだな」
ヌーガさんが認めた!
という事は、次のリーダーはヌーガさんかな。
「はぁ、分かった」
もの凄く嫌そうだけどね。
「俺が次のリーダーを連れて来る」
えっ?
ヌーガさんの言葉に、セイゼルクさんが笑う。
「あっ」
ヌーガさんがお父さんを見る。
それに嫌そうな表情をするお父さん。
「アイビー」
私?
ヌーガさんを見ると、真剣な表情をしている。
「俺達のチームに入らないか?」
「えっと?」
「アイビーとドルイドが『炎の剣』に入ってくれたら、リーダーはドルイドだ」
お父さんがリーダー?
チラッとお父さんを見ると、首を横に振っている。
「俺は冒険者に戻るつもりはない」
「駄目か」
ヌーガさんを見ると、不服そうな表情をしている。
「今は決めなくてもいい。ただ、先の事を考えて話し合っておけよ。王都に行ったら、セイゼルクは抜けるんだから」
「「「分かった」」」
シファルさん達の返事に満足そうに頷くジナルさん。
誰がリーダーになるのか、楽しみだな。
ちょっとだけ、お父さんがリーダーになるのもいいかもしれないと思ったけど、黙っていよう。
コンコンコン。
「悪い、アイビーはいるか?」
バンガさんの焦った表情に、椅子から立ち上がる。
「ここです。どうしたんですか?」
「悪い。仲間が到着したんだけど、様子が変なんだ。ソルに見てもらえないかな?」
それは呪具の影響を受けたという事かな?
「ここに連れてきたのか?」
お父さんの言葉に、バンガさんが首を横に振る。
「門の近くにある、隠れ家にいる。暴れているから、ジックとニャーシが押さえている」
「暴れる? 呪具のせいか?」
2人の会話を聞きながら、肩から下げたバッグの蓋を開ける。
「ソル」
「ぺふ~」
眠そうなソルの様子に少し首を傾げる。
午前中は元気だったのに、本屋から戻って来たら眠そうだったんだよね。
ソルだけではなく、ソラもフレムも。
「呪具の魔力があるんだけど」
「ぺふっ」
呪具という言葉に反応して元気になるソルに笑ってしまう。
「行こうか」
私とソルの様子を見ていたお父さんが笑って言う。
「うん」




