961話 本の内容
皆で宿に戻り、会議室に行く。
ラットルアさんがなるべく早く読みたいと言ったので、会議室を借りる事になったのだ。
「飲み物を貰って来るよ。果実水でいいかな?」
ラットルアさんの言葉に全員が頷く。
外を歩くと、冷たい飲み物が欲しくなる季節だからね。
「どうぞ」
皆の前に果実水とカゴに盛った焼き菓子。
「この焼き菓子はどうしたんだ?」
シファルさんがラットルアさんを見る。
「この宿の店主から『楽しい仕事をありがとう』だって」
「げっ」
店主からの伝言を聞いて、嫌そうな表情をするジナルさん。
それにしても、楽しい仕事とはなんだろう?
昨日の事と関係しているのかな?
「ジナル、どうした?」
ラットルアさんが不思議そうにジナルさんを見る。
「いや、何でもない」
首を横に振るジナルさんに、シファルさんが小さく笑った。
「楽しく仕事が出来たならいいだろう」
「奴の楽しくって……あぁ、そうだな」
ジナルさんとシファルさんの会話を聞いていたラットルアさんが「あっ」と小さく声を出した。
私は2人の会話を聞いてもよく分からなかったけど、彼は分かったようだ。
ジナルさん達に聞いてみようかな?
あっ、視線を逸らされた。
これは聞いても、答えてくれないな。
「ジナルの本が魔法陣についてだと分かったけど、呪具に関係する魔法陣はあったのか? あっ、これうまいな」
セイゼルクさんが焼き菓子を食べながらジナルさんを見る。
「呪具に関係する魔法陣はなかった。ただ、安全に使える魔法陣があるみたいだ」
「安全に?」
ジナルさんがマジックバッグから出した本に視線を向けるお父さん。
「あぁ。この本には、魔石を使って魔法陣を発動させる方法や影響を受けない書き方が載っているようだ。あと、問題が起こってしまった魔法陣を無効化する方法も書かれている」
「魔法陣の無効化か。それは、かなり役に立ちそうだな」
セイゼルクさんの言葉に、笑うジナルさん。
「あぁ、その方法が分かれば抑える事しか出来なかった魔法陣を無効化出来る」
抑える事した出来なかった魔法陣?
「そんな物があるのか?」
お父さんを見て肩を竦めるジナルさん。
「今回の呪具ほど危険はないが、それなりに危険な魔法陣の刻まれた物が多数あるんだ。それが、研究所の地下に封印してある」
封印?
「まぁ封印と言っても、力を制御するマジックアイテムで抑え込んでいるだけなんだけどな」
「そうなのか」
「あぁ。数年に1度の頻度でマジックアイテムが壊れてしまうから研究者に被害が出ているよ」
魔法陣が無効化出来れば、研究者の被害がなくなるかもしれない。
ジナルさんの本は、凄く役立つみたい。
お父さんがマジックバッグから出した本を見る。
こっちの本は、何が書かれているんだろう?
「読むか?」
お父さんを見て頷く。
まずは、内容を確かめないと。
お父さんが本を開くと、隣にいる私にも読めるように少しこちらに寄せてくれた。
「ありがとう」
内容は……、
「戴冠式が終わり数年後。
捨てられた大地より木の魔物達とリュウ達が溢れ出て王都を襲う。
戦いは長く、そして多くの被害を出した。
数年続いた戦いにより、王都は崩壊寸前。
魔物の制圧が成功した1年後、冒険者達は捨てられた大地の奥に向かう。
原因となった物が、そこにあると占い師が告げた為。
捨てられた大地に向かった冒険者の多くは、帰ってこなかった。
捨てられた大地の奥。
黒く大きな物。
硬く壊す事が出来ず、火で焼く事も出来ず。
1人の女性とその仲間達が封印された大地の奥に辿り着く。
手に小さな石を持ち、女性は祈りを捧げる。
黒く大きな物は崩れ落ちた」
お父さんが次のページをめくると白紙だった。
「えっ、これだけか?」
お父さんの言葉に首を傾げる。
本の厚さは2㎝ほど。
そのほとんどが白紙だとは思わなかった。
「お父さん、捨てられた大地って何処にあるの?」
そんな大地があるなんて聞いた事はない。
お父さんを見ると首を横に振っている。
「分からない。初めて聞いた」
「読んでもいいか?」
ジナルさんがお父さんと私を見る。
「あぁ、良いぞ。読み終わったら、ラットルアに渡してくれ」
お父さんが本をジナルさんに渡すと、真剣な表情で読み始めた。
読み終わると、ラットルアさんに本を渡す。
「捨てらた大地……」
ジナルさんの呟きに、お父さんが視線を向ける。
「知っているのか?」
「ん~、ある極秘書類で見た」
極秘書類に載っていた。
つまり、私が知ったら駄目な情報なのでは?
「リュウって、あのリュウだよな?」
ラットルアさんが本を読み終わると、眉間に皺をよせお父さんとジナルさんを見る。
「上位魔物1位のリュウだろうな」
お父さんの言葉に、ラットルアさんが頭を抱える。
「え~、リュウが何処かから襲って来るのか?」
そいういう事だよね。
「でも、少しの変化で未来は変えられるんだ。本屋の店主が言っていただろう? 『たった1人の行動で大きく変貌する事もある』と」
「そうだけどさ。リュウと戦うのかと思うと、寒気がする」
シエルのアダンダラは上位魔物3位、1位のリュウはどれくらい強いんだろう?
しかも、それが複数襲って来るんだよね?
「知れて良かった」
ジナルさんを見る。
「何も知らなければ、無防備に襲われていたかもしれない。知った以上は、この未来を回避する為に動ける」
そうだ。
知ったんだから、皆で本に書かれた未来を変えればいい。
「この女性というのはアイビーだろうな」
「えっ?」
シファルさんの言葉に、驚いて小さな声が漏れる。
「そうだろうな」
「えっ?」
お父さんが当然というように返した返事に、また小さく声が漏れる。
お父さんの手元に戻って来た本を見る。
木の魔物とリュウが暴走した原因を祈りで崩れさせたのが私?
「まさか」
「いや、この女性はアイビーだと思うぞ」
私の否定の言葉に、お父さんが首を横に振る。
「本の中に、あの女性と仲間達しか出てこなかった。そしてこの本の持ち主に選ばれたのが俺とアイビーだ。『未来視達は未来で見た映像の中にいた人物。その中で、彼等になら託せると思った者を選ぶ』と店主が言っていただろう? わざわざ女性と書いたのは、その者に託すからじゃないか?」
確かに店主さんは言っていた。
つまり、出てきた女性が……私なの?
「黒く大きな物は何だと思う?」
セイゼルクさんの言葉に、呪いの森で見た黒くなってしまった木の魔物を思い出した。
でもそれだと変だよね。
「木の魔物だと思うが」
ジナルさんが私とお父さんを見る。
「それだとおかしくないか? 黒く変わってしまっても木の魔物は見れば分かった」
そうなんだよね。
木の魔物は黒くなっても姿が変わっていなかった。
だから、黒く大きな物と書かれるわけがない。
「そうだったな。という事は、木の魔物ではないか」
ジナルさんが首を傾げる。
「ここで考えてもこれ以上は分からないな。ジナル『捨てられた大地』について話せないか?」
お父さんを見て首を横に振るジナルさん。
「極秘書類だからな。フォロンダ様に許可を取ってみるよ。本に載っていた未来について相談してもいいか?」
フォロンダ領主なんだ。
「もちろん。アイビーもいいか?」
「うん」
皆で考えれば、本に載っていた未来を変えられると思うから。
というか、絶対に変えないと。




