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960話 本

「3段目?」


私とお父さんの会話が聞こえたのか、ジナルさんが首を傾げる。


「あぁ、アイビーと俺は上から3段目の真ん中あたりにある本だ。ジナルは?」


「上から2段目、奥のほうにある本だ」


「それぞれ違う本みたいだな」


セイゼルクさんが私達を見て、店主さんに言う。


「上から1段目と2段目は過去視達の本です。3段目と4段目は未来視達の本ですね」


ジナルさんは本棚に向かい、2段目から本を取る。


「少し、質問をいいか?」


シファルさんが店主さんを見る。


「はい。何でしょうか?」


「未来視達は、教会の化け物が勝った未来を見たんだよな? 実際は負けたのに、なぜだ?」


「未来は変わるそうです。例えば、たった1人の行動で大きく変貌する事もあると言っていました」


1人で未来を変えるなんて凄いな。

でも良い方に変わればいいけど、悪い方に変わる事もあるんだよね?

それは少し、怖いな。


「魔法陣についての本みたいだ」


ジナルさんは戻って来ると本をめくった。


「あれ? 話が途中で途切れているけど、なぜだ?」


「本の内容は、未来視達や過去視達が見た映像を忠実に書いています。途中で途切れているのは、そこまでしか見なかったからでしょう」


店主さんの言葉に、光っている本を見る。

あそこにあるのは未来視達が見た映像を、書きだしたもの。


気になるけど、怖いな。

それに、どうして私とお父さんが選ばれたんだろう?


「本の持ち主は魔法陣で見つけるみたいだが、選ぶのも魔法陣なのか?」


「いいえ、違います。未来視達は、未来で見た映像の中にいた人物。その中で、彼等になら託せると思った者を選ぶそうです。過去視達も、見えた過去の出来事の中から選ぶそうですよ」


託せる?

話を聞いたら、もっと怖くなってしまった。


「未来視達は、見たい未来を見れるのか?」


ジナルさんの質問に首を横に振る店主さん。


「出来ません。ですが、続きを見る事が出来る場合もあるそうです」


光っている本を見る。

未来視の見た未来に、私とお父さんがいた。

そして、私達に何かを託した。

これまでの事を考えると、問題にまた巻き込まれるのかな?


「怖いな」


「どうする?」


「えっ?」


お父さんを見る。


「光っている本を、取らないという未来もある」


そうなの?


「もちろんです」


店主さんを見る。


「未来は、自分で考え選ぶ取るものです。避けられない未来もありますが、ここでは選べますよ」


自分で選ぶ。


「本に近寄ってもいいですか?」


店主さんを見ると頷いてくれたので、お父さんと本棚に向かう。


「一緒の本だと思っているけど、違う本だったら笑うよな」


お父さんの言葉に、小さく笑って頷く。


「そうだね」


光っている本の前まで来る。

お父さんと顔を見合わせて頷くと、光っている本を指す。


「一緒だったね」


「あぁ、ホッとした」


お父さんの言葉に頷く。

違う本だったら、凄く困惑すると思う。


「どうする?」


お父さんが私を見る。


「お父さんはどうするの?」


「俺は取ろうと思っている。未来に何が起こるのか、知っておいた方がいいだろうから。でもアイビーは俺の意見に合わせる必要はないぞ。自分の気持ちに素直に従ったらいい」


「分かった」


知っておいた方がいい、か。

うん、そうだね。

巻き込まれるにしても、分かっていれば対処も出来る。


「お父さん、一緒に見よう」


「分かった」


お父さんが本棚に手を伸ばし、本を取る。

背表紙には、さまざまな魔物とある。

でもきっと、中身は違うんだろうな。


お父さんと、店主さんの下に戻る。


「これは、買えばいいのか?」


「いえ、本は無料ですよ」


お父さんの質問に、驚いた様子で首を横に振る店主さん。


「酷い奴等だな」


ジナルさんを見ると、険しい表情で本を読んでいる。


「魔法陣がどうして生まれたのか、この本に載っていたよ。まったく、権力者というのはいつの時代も屑が多いな」


本を閉じると、少し悲し気な表情をジナルさんはした。


「この本を持って行っていいか? 魔法陣に使われている文字や絵についても説明があって、凄く役立ちそうなんだ」


ジナルさんが店主を見る。


「はい、どうぞ。返して頂かなくてもいいですよ。役目を終えたら、その本も封印されるでしょうから。あぁそうだ。この本屋は、そろそろ閉めます」


「えっ? どうして?」


かなり驚いた様子のジナルさん。

そんな彼を見て、楽しそうに笑う店主さん。


「未来視や過去視、占い師の力を無理矢理に手に入れようとする組織はなくなりました。そのお陰で、彼等は自由です。この本屋の役目も終わりです」


店主さんの表情は晴れやかで、ジナルさんも彼の様子に頷いた。


「役目が終わるのか。お疲れ様でいいのか?」


「はい」


本棚にはまだ本が残っているけど、どうするんだろう?

これは、聞いていいのかな?


「あっ、消えた」


ラットルアさんに視線を向けると、本棚を見て驚いている。


「どうしたんだ?」


セイゼルクさんが不思議そうに本棚を見る。

私も本棚に視線を向けるが、何が消えたのか分からない。


「今、本が1冊消えたんだ」


ラットルさんが本棚を指す。

方向は4段目?

本を順番に見て行くと、木の板が見えた。


「封印?」


「はい、そのようですね。未来が変わったのでしょう」


私の呟きに答えてくれる店主さん。

セイゼルクさんは本棚から木の板を取ると、店主にわたす。


「アイビー、ゆっくり確認したいから宿に戻ってから読んでいいか?」


お父さんが私を見る。


「うん、いいよ。私もゆっくり読みたい」


「ドルイド、アイビー。俺にも見せて貰えないか?」


お父さんがラットルアさんを見て笑う。

彼を見ると、興味津々の表情で本を見ている。


「ラットルアにも見せていいか?」


お父さんが店主を見ると、彼は頷く。


「その本は既にあなた達の物ですから、俺に聞く必要はないですよ」


「そうか。だったら、ラットルア……だけではないな」


んっ?

あぁ、シファルさんもヌーガさんも興味津々だ。

セイゼルクさんは少し迷っている感じだな。

王都に行ったら、冒険者を辞めるからかな?


「俺達が読み終わったら、貸すよ」


「「「ありがとう」」」


「店主。店を閉めたら、どうするんだ?」


ジナルさんが店主を見ると、彼は少し考える。


「ここで別の店を始めます」


「はっ?」


首を傾げるジナルさん。


「ずっと違う店をしたかったんですよ。でも、役目があって出来なかった。ようやく自分の夢を追えます」


本屋を閉めると言った時に晴れやかだったのは、自分の夢を追えるからだったのか。


「そうか。良かったな」


「はい。次に来る時は、人気の食事処になっている予定なのでよろしくお願いしますね」


次にカシメ町に来た時は、食べに来たいな。


「楽しみにしているよ」


ジナルさんの言葉に、セイゼルクさん達が頷く。


「ありがとうございます」


店主さんに挨拶をして本屋を出る。


そういえば、本屋の壁に描かれていた葉っぱや枝が気になるんだった。


振り返り本屋の壁に描かれている絵を見る。

壁一面に広がった葉っぱと枝。

どうしてこの絵だけ気なるんだろう?

壁に絵を描く店は他にもあるのに。


「あれ?」


右上の細い枝が重なっている部分。

魔法陣で見た文字に似ているかも。

あっ、その下の部分にある葉っぱで見えにくいけどあれも魔法陣で見た文字に似てる。


「壁一面に描かれた魔法陣だ。俺達が知っている丸ではなく、四角の」


ジナルさんが本を開いて、私にあるページを見せた。

そこに載っていたのは、正方形や長方形の魔法陣。


「文字の意味は、勉強しないとな」


ジナルさんは本を閉じると、ポンと私の肩を叩く。


「宿に戻ろう」


「うん」


宿に戻って本を確認しよう。

それで……ん~。

書いてある内容によって、これからの行動が変わるかな。


お父さんを見る。

その視線に気付いたのか、微笑むお父さん。


まぁ、それもいいか。

お父さんと一緒だし。


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― 新着の感想 ―
そうですね!お父さんもソラ達も一緒!! これほど心強い事は無い! ジナルも呪具は残念だったけど魔法陣の知識をゲット。過去視の方が視た過去の出来事から、守る為に活かせると思って託されたのだと思うとジナル…
この店主の口調だと一人称は私の方が合ってると思います
「『楽しい』にしているよ」 ジナルさんの言葉に、セイゼルクさん達が頷く。 →『楽しみ』ではなくて?
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