959話 本屋に到着
ジナルさん、セイゼルクさん達と一緒に本屋に向かっていると、走っている自警団員達を見かけた。
「忙しそうだな」
走り去った自警団員達を見てセイゼルクさんが呟く。
それにジナルさんが肩を竦めた。
「裏切っていた者達が、想像より多かったみたいだ。そのせいで人手が足りないんだ」
それは、足りなくなるだろうな。
「ギルドから人員を借りられないのか? 自警団に何かあると、大きな問題に繋がるから緊急処置として借りられるだろう?」
ラットルアさんがジナルさんを見る。
「冒険者ギルドの中にも、商業ギルドの中にも裏切り者がいた。何処も人手不足だからな。今は無理だろう」
それは、人手を借りたいとお願いも出来ないだろうな。
本屋が見えてくると、なんとなく落ち着かない気持ちになる。
占い師さんがくれた本と同じ本があるお店だからかな?
「邪魔するぞ……えっ?」
お店に入ったジナルさんが、少し驚いた声を上げた。
彼の視線を追って、首を傾げる。
「何を驚いているんだ?」
セイゼルクさんがジナルさんの肩をポンと叩く。
「本がない。あれ? 本が光っていないか?」
えっ?
本棚に本はある。
ただ、空の本棚の方が多いけど。
それに、本が光っている?
あっ、確かに1冊だけ本が光っているように見える。
なんだろう、あれ。
「いらっしゃいませ。おぉ、久しぶりですね」
店の奥から店主が出て来ると、ジナルさんを見て少し目を見開いた。
「店主、本が少なくないか? いや、その前に相談したい事があるんだ」
あっ、木の板になった本の事かな?
ジナルさんを見ると、マジックバッグから木の板と魔石を出していた。
そしてそれをカウンターに置く。
「これは木の板に見えるが本なんだ」
「そうですね」
「えっ? 信じるのか?」
「はい、もちろん」
店主さんを驚いた表情で見るジナルさん。
「これを本に戻す事は出来るだろうか? この魔石を使って本に戻すみたいなんだが」
ジナルさんの質問に首を横に振る店主さん。
「無理ですね」
「方法はないか? どうしても必要な本なんだ」
「無理です。木の板になったのは、本の持ち主が死んだため封印されたんです。この封印を解くには、持ち主の魔力が必要になります。おそらく魔石に持ち主の魔力が少しだけ残っていて、その少しの魔力を使って本に戻ったのでしょう。ですが、その魔石はもう空みたいなので木の板を本に戻す事は不可能です」
店主さんの説明に、ジナルさんが木の板と魔石を見る。
「そうか。それにしても、詳しいな」
「もちろん。その本は、ここで作られた物ですから」
「やはりそうか。もしかしたらそうかもしれないと思っていたが」
ジナルさんが溜め息を吐く。
「そういえば、沢山あった本は売れたのか?」
ジナルさんが空の本棚を見る。
「本は必要がなくなったため、封印されました」
店主の言葉に、全員が首を傾げる。
「必要がなくなった? それはどういう意味だ?」
セイゼルクさんの質問に、店主は足元から大きなカゴをカウンターに置く。
そしてカゴの蓋を開け、中身を見せた。
「木の板……もしかして、本棚にあった本か?」
ジナルさんが、木の板を手に取り店主を見る。
「はい、そうです。これは、来なかった未来に必要だった本ですよ」
来なかった未来?
んっ?
「どういう事だ?」
シファルさんが、木の板を手にすると首を傾げる。
「教会にいた死ねない王子が、この世から去った」
死ねない王子?
あっ、教会の化け物と呼ばれていた者の事かな?
「その彼が死に、教会に住みついていた組織が瓦解した。そのお陰で、本に書かれていた未来は来なくなった。だから悪用されないように封印されたんです」
つまり、教会の組織が……ジナルさんのいる組織に勝った未来?
その世界に必要だった本?
あれ?
「この本には未来視が関わっているのか? でも未来視は消えたスキルだろう?」
うん、そうだよね?
戸惑った表情をするジナルさんに、店主が小さく笑う。
「スキルは人が手だし出来ないものです。この世界から消えたスキルなど、1つもありませんよ」
「でも教会や、俺の属する組織がどんなに探しても見つけられなくて」
「当たり前です。未来視達は、新たに生まれた未来視達を生まれた瞬間から保護して隠してきたのですから。そこから零れてしまう者もいましたが」
そうだったんだ。
「彼等に会えないだろうか?」
ジナルさんを見て少し考えこむ店主。
「運が良ければ」
「運?」
「はい。彼等は生きる術を学んだら、あちこちに旅立ち二度と会う事はありません。だから、運があれば会えますよ。俺に居場所を聞いても無駄ですよ。知りませんから」
「でも、彼等に本を作っているんだろう?」
「えぇ、そうです。でも、知りません」
「教会によく目を付けられなかったな」
店主がヌーガさんを見る。
「教会に住みついていた組織の者達は、何度も来ましたよ。でも、彼等が手に取る本はどれも白紙。彼等はここを調べるだけ無駄だと判断したみたいで、ここ数年は来なかったですね」
「白紙か」
ジナルさんが小さく笑う。
「俺もほとんど白紙の本を一度借りたな。けっこう衝撃を受けるぞ」
確かに、期待して本を開いて真っ白だと衝撃かも。
「どうやって本の持ち主を見つけるんだ?」
シファルさんが本棚を見る。
「それに書いてある内容を白紙に見せるなんて」
「魔法陣ですよ」
店主の言葉に、全員が息を呑む。
「大丈夫です。本に使われている魔法陣は、恐ろしい物ではありません。知っていますか? 魔法陣は、誰かを守るために考えられた物なんです。それが権力者のせいで、恐ろしい存在に変えられた」
光の森にある教会で見た過去にあった。
大切な者を守るために作ったのにって。
「守るため、か」
複雑な表情のジナルさん。
魔法陣で色々と大変だったから、複雑な心境なんだろうな。
「この店で、未来視達が鉢合わせする事はなかったのか?」
シファルさんの質問に店主は首を横に振る。
「ありません。未来視がこの店に来る時は、他の未来視達に伝えて会わないよにしていましたから。本の準備があるので、俺には占い師から連絡が届きますけどね」
占い師さんもこの本にやっぱり関わっているんだ。
「んっ、伝えて? 二度と会わないようにしていたのに、交流はあったのか?」
ジナルさんが首を傾げると、店主がカウンターの下から1冊の本を出した。
「えぇ、これで」
「本?」
店主は本を開くと、最初のページを見せた。
『きょうくるきゃくに、すべてをはなしてもだいじょうぶ』
書かれていた言葉に、目を見張る。
「この言葉があったから、話してくれているのですか?」
私を見て店主がにこやかに頷く。
「はい。教会に住みついた組織も、なくなりましたしね」
「あっ、消えた」
シファルさんの言葉に慌てて本を見るが、ページは白紙になっていた。
「もしかして占い師達の交流にも本が使われているのか?」
ジナルさんが白紙になったページに指を這わす。
「そうです」
占い師さんがくれた本。
あれが、他の占い師さん達と交流するための物だった?
あっ、違うか。
だって、占い師さんがなくなっても本は木の板にならなかった。
「持ち主がなくなったら、本は絶対に木の板になるのか?」
お父さんの質問に、店主は首を横に振る。
「いえ、持ち主が譲渡した場合は本のまま残ります」
占い師さんがくれたという事は、譲渡されたという事でいいのかな?
だから私の持っている本は、木の板にならなかった。
「本は、全て白紙なのか?」
「ここにある本は、持ち主以外には白紙です。ですが、未来視、過去視、占い師が持っている本には、彼等に必要な内容が載っています。白紙の本を大事に持っていたらおかしいですから」
それは、そうだね。
んっ?
過去視の方も本を持っているの?
「あのさ」
ジナルさんが店主を見る。
「はい。どうしました?」
「本を使って、占い師か未来視に呪具に関する事を聞けないか?」
「すみません。俺が持っている本は、受け取るのみで伝える事は出来ないんです」
「そうか」
「そういえば、本が光っていると言っていましたね」
「あぁ、2段目にある本だ」
2段目?
3段目にある本ではなくて?
「選ばれた者にしか、その光は見えないんですよ」
「えっ?」
ジナルさんが店主さんの言葉に、驚いた表情を見せる。
えっ、選ばれた?
本棚に視線を向け、3段目にある本を見る。
「光っているよね?」
「3段目の本の事か?」
お父さんも見えている?
「うん。お父さんも光って見える?」
「あぁ」




