955話 光の森に到着
「ジナル」
セイゼルクさんが、死んだ男性を指差す。
「呪具を着けた者が、こんな状態になると聞いた事は?」
「いや、こんな化け物のようになるとは聞いていない。王都であった事件の加害者は死んでいるが、見た目の情報はない。それは気にする事がなかったからだと思う」
ジナルさんは話し終わると、「あっ」と小さく呟き死んだ男性から視線を移す。
それを追うと、この村を裏切った4人の男性がいた。
「あっ」
あまりに衝撃的な事が起こったせいで、彼等の事を忘れていた。
私の声に反応したお父さんやセイゼルクさん達も4人に視線を向け、ハッとした表情をした。
「すっかり忘れていたな。意識がないのか?」
ラットルアさんが首を傾げると、セイゼルクさんが4人の男性に近付く。
「全員、気を失っている様だ」
呪具を着けた男性の姿が衝撃的過ぎたんだろうな。
「お待たせしました」
自警団員さんの声がした方を見ると、彼女と他に男性2人。
1人は台車を引いて来た。
「もう1人も見つかりました。同じ様な状態だったみたいで、見つけた者が殺したそうです」
見つかったのか、良かった。
そういえば、呪具が近くにあるのにソルが静かだな。
まぁ、死んだ男性が着けている呪具を欲しがっても無理だけど。
ソル達の入っているバッグを見る。
まったく動かない。
台車に乗せられた死んだ男性の首元を見る。
間違いなく呪具はある。
「ソルが反応しないのか?」
「うん」
お父さんもソル達の入っているバッグを見る。
「呪具があると教えてくれたのはソルだから、気付いていない訳がないし」
最初に、呪具があると教えてくれたのはソル。
だから、今の無反応なソルにもの凄く違和感を覚える。
もしかして寝ているのかな?
そっとバッグを開けると、ソルと視線が合う。
もう一度蓋を閉めて、首を傾げる。
呪具の中にある魔力がなくなったとか?
「こいつ等も横に乗せていけば、いいか」
自警団員さんを見ると、意識を失っている男性を指で突いていた。
「意識がないし大丈夫だろう」
自警団員さん達が、意識がない4人を台車に乗せていく。
途中で目が覚めたら悲鳴を上げるだろうな。
「では、俺達は詰め所に戻ります。協力、ありがとうございます」
台車には、死んだ男性と4人の男性。
重そうだけど、マジックアイテムだから大丈夫なんだよね。
「ちょっと待ってくれ」
台車を動かそうとした自警団員さんに、ジナルさんが声を掛ける。
「はい?」
「ちょっと呪具を見てもいいか?」
「呪具を? えぇ、どうぞ?」
ジナルさんの行動に首を傾げる自警団員さん。
ジナルさんはそんな彼に小さく頭を下げると、死んだ男性の首に着いている呪具に触れた。
「ありがとう」
「いえ、では」
台車を引く自警団員さんは不思議そうにジナルさんを見たが、特に質問をする事もなく台車を動かした。
「あれ? 一緒に来ないのか?」
台車を後ろから押す自警団員さんが、動こうとしない自警団員さんを見る。
「あれと一緒は無理。別の道から詰め所に戻るから気にしないで」
「「ははははっ」」
彼女の言葉に、あとから来た自警団員さん達が笑う。
「分かった。村にはまだ協力者が潜んでいる。気を付けろよ」
「分かった」
死んだ男性を乗せた台車が見えなくなると、大きな溜め息を吐く自警団員さん。
「あ~、怖かった。もう二度と会いたくない」
それは私も思う。
自警団員さんがジナルさんを見る。
「私はやる事があるので、これで失礼します。仲間が言ったとおり、協力者がまだいます。中には強い者も……皆さん強いみたいだから大丈夫ですね」
「そうだな、でもお互い気を付けて」
ジナルさんが笑って言うと、自警団員さんも笑う。
「はい。では、失礼します」
私達に頭を下げると、彼女は少し考えたあと元研究所がある方に向かった。
「彼女、詰め所から離れられる場所を選んだな」
ジナルさんが面白そうに、彼女が向かった方を見る。
確かに。
自警団の詰め所は、村を守る門の近く。
元研究所は村の奥。
本当に嫌だったんだね。
「行こうか」
ジナルさんの言葉に、光の森に向かう。
「まさか呪具を着けた自警団と会うとは思わなかったな」
お父さんが言うと、セイゼルクさん達が頷く。
「あぁ、しかもあんな状態でな。怪我は別にして、雰囲気はクスリで飛んだ状態に近いか?」
セイゼルクさんが言うと、シファルさんが首を傾げる。
「どうだろう? 痛みは感じていない様だったけど……あっ、眼球が揺れていなかった?」
よく見ているな。
眼球が揺れているなんて、気付かなかった。
「そうだったか?」
ラットルアさんは気付かなかった様だ。
「あぁ、小刻みに揺れていたな」
ジナルさんの言葉にお父さんが頷く。
2人とも気付いていたんだ。
さすがだな。
「前スチューリス侯爵が目指していた呪具に、近付いているのかもしれないな」
ジナルさんが言うと、お父さんが嫌そうな表情になった。
「不滅の騎士団?」
それは、前スチューリス侯爵が作ろうとした物だよね。
「あぁ、痛みを感じなくさせれば、怪我をしても戦い続けられるだろう?」
セイゼルクさん達がジナルさんの言葉に頷く。
「でも、頭が狂っては意味がないな」
セイゼルクさんの言う通り、さっき見た状態になるなら駄目だよね。
「だが、改良されれば……」
ジナルさんが溜め息を吐く。
いずれは前スチューリス侯爵が作り出そうとした呪具が出来てしまう。
死を恐れなくなった騎士が当たり前になった世界は、きっと恐ろしいだろうな。
それに騎士だけが使うとは限らない。
教会みたいな組織が新たに出来て、彼等が使ったら?
「王都に向かった呪具を確実に回収しないとな」
ジナルさんを見ると、難しい表情をしていた。
呪具を探すは、大変だと思う。
運んでいる者達の情報が、少しでも分かればいいんだけど。
「着いたけど、さすがにこの時間だと何も見えないな」
シファルさんの言葉に、光の森へ視線を向ける。
「どうだ?」
お父さんがソルの入っているバッグを見る。
「反応ないみたい」
バッグはピクリとも動かない。
つまり、光の森に呪具はないという事になる。
フラフさんは見張っていると言ったけど、中にあったはずの呪具は移動した様だ。
「反応なしか」
ジナルさんを見ると、光の森を見て考え込んでいる。
「ジナル」
「なんだ?」
お父さんに視線を向けるジナルさん。
「さっき、呪具を調べただろう? 何か分かったのか?」
「呪具全体に細かいヒビが入っていた事だけだな」
呪具にヒビ?
そのせいでソルが反応しなくなったのかな?
でもどうして、ヒビが入ったんだろう?
「原因は?」
お父さんの質問にジナルさんが首を横に振る。
「分からない。ただ……印象が変わった」
印象?
「呪具を見ていると嫌なものを感じたんだが、ヒビの入った呪具にはそれを感じなかった」
嫌なもの?
私は、分からなかったな。
「ヒビだけど。思い当たる事が1つある」
全員がシファルさんを見る。
「マジックアイテムは、魔力がなくなったら動かなくなるだろう? でも、魔力を使い切らなくても動かなくなる事がある」
そうなんだ。
「それはマジックアイテム自体が壊れた時だ。特に限界を超えた使い方だと、マジックアイテムに細かいヒビが出来て動きを止める。こうなったら、魔力が残っていても動かない」
あっ、捨て場にもヒビの入ったマジックアイテムがあった。
ソルが気に入って、よく食べる物だ。
あれは残っていた魔力がたくさんあったからなのかも。




