101話 あの子達の安全が一番
-ボロルダ-
団長が動き出したのを見て、拠点からすぐに離れる。
一部の貴族連中は、冒険者を馬鹿にしている。
関わらない方が身のためだ。
「早いな、もう戻って来ていたのか?」
声に視線を向けると、セイゼルク達だ。
ギルマスの姿が無い事に首を傾げてしまう。
呼びに行ったはずなのだが、何かあったのか?
「ギルマスは?」
「何チームか連れてここに来る事になっている」
「そうか。団長は、拠点の中だ。俺達は関わらない方がいいぞ」
「馬鹿な貴族がいたって事か。団長は大変だな。副団長は?」
「詰所で人手を集めている。あぁ、見習い達をここに連れて来る予定だ」
セイゼルクが少し考えてから頷いた。
「とりあえず、何処か借りれる場所を探すか」
周りを見渡して、空き家などを探す。
これから大量の人が、此処に押し寄せる。
それらすべての人を判断する事になる為、少しでも環境を整えてあげたい。
俺がやるのなら別に外でもいいが、アイビーはまだ子供だ。
ソラが判断するにしたって、それを伝える仕事がある。
かなり疲れるだろう。
座って出来る場所が良いな。
それに、組織の者がいきなり襲いかかってくるという事も考えられる。
確実にあの子達を守れるような場所でないと駄目だ。
「あの角の建物って何に使っているんだ?」
拠点のすぐ近くにある曲がり角に、小さな建物が見える。
住処とは少し違う雰囲気だ。
見た感じでは、倉庫か?
いや、それより立派な印象だな。
近付くと、建物の入り口に集会所と書かれた看板が置かれている。
「集会所らしいけど」
「集会所にしては少し小さくないか?」
セイゼルクの言葉にシファルとヌーガが頷いている。
マールリークとロークリークは周りを確認に行ったようだ。
リックベルトが建物の玄関に手をかける。
ガチャリと言う音を立てて扉が開く。
どうやら鍵はかかっていなかったらしい。
不用心だな。
「周りは問題なし」
「こちらもだ」
マールリークとロークリークが戻ってくる。
「勝手口があるんだな。あれを使えば入る場所と出る場所を分けられるので、人を誘導しやすそうだ」
「扉もそれほど大きくないから、アイビー達を守りやすいな」
シファルとセイゼルクが、出入り口を入念に確かめている。
奇襲を受けた時に、中に居る者達を守り切れるかどうか。
集団で来られた時にはどのように対処が出来るかなど、次々と話し合っている。
2人の話を聞きながら、俺も独自に調べて行く。
仲間達の話を聞いていると、アイビー達の安全面が一番に考えられているようだ。
「しかし、本当に集会所か? どう考えても小さすぎる。倉庫と言いたいが調理場があるからな」
外の外見はシンプルだったのだが、中はこの建物には不似合いな華やかさがある。
建物の中は、玄関を開けると調理するための部屋があり、その奥にもう1つ部屋がある造りだ。
シファルが、奥の部屋の扉を開け中を確かめる。
隣にいたセイゼルクも中を見て、なぜか大きなため息をついた。
不思議に思っていると、中を見るように仕草で伝えてくる。
部屋の中を見ると、やたらに豪華な椅子がありその上に装飾の施されたバッグが数個。
「……団長に伝えて来る」
セイゼルクの呆れた声が聞こえる。
それに軽く手をあげて応える仲間達、その顔はどれも苦笑いだ。
しばらくすると、呆れた表情の団長が来た。
そして荷物を見て大きなため息を1つ。
「ご苦労様。向こうはどうだ?」
「貴族が5人も居やがった。その内の1人は王族にも顔が利く有名な人物だ」
かなりの大物が釣れてしまったようだ。
大丈夫なのか?
「心配するな。これでも団長としてそれなりに長いんだ。貴族に知り合いがいるから手を回してもらう。あっ、フォロンダ領主を呼んでくれていたんだな。感謝するわ。あの人は王族関係者に知り合いがいるらしいから、そっちにも手を回してもらう事になった」
「そうなのか? それは知らなかったな」
フォロンダ領主って、少し謎な人だよな。
「荷物は持っていくわ。触っていないか?」
「あぁ、見ただけだ」
セイゼルクがものすごく嫌そうな顔をしている。
「この場所を使いたいんだが。どうすればいい?」
「自警団から許可を出した事にしておくよ。書類を作っておくから署名だけ頼むわ」
「了解」
団長が荷物を持って拠点へ向かう。
外を見ると、顔をこわばらせた町の人達が集まりだしていた。
「急ごう。椅子と机があるな。あれを使おう。俺の横にアイビーが座れるようにしておいてくれ」
俺の指示にセイゼルク達が部屋の中を整えだす。
アイビー達はまだかな?
何かあったのだろうか?
「すみません。副団長にボロルダさんを探すように言われたのですが?」
建物の外から声がかかる。
マールリークが対応するために向かう姿を横目に、甘味の店がある方向へ視線を向ける。
「あっ、何だ。もうすぐそこじゃないか」
アイビーとラットルア、それにカルアとマカシャ?
なぜマカシャがいるのか分からないが、拠点の中を覗いている。
それにあれはギルマスか?
あっ、捕まった貴族を見たな。
ご愁傷様。
アイビーが俺を確認してホッとした表情を見せた。
近付く4人に軽く手をあげる。
と、なぜかカルアに思いっきり睨まれたので驚いた。
ラットルアは苦笑を浮かべて、アイビーに視線を向ける。
何だ?
もしかして子供を参加させているからか?
あ~、普通に考えればそうだよな。
「悪いなカルア。感謝する」
子供を参加させて悪かったな。
でも、この作戦はアイビーの発案だからって……余計に怒らせそうだ。
ただ、アイビーの事を考えてくれるのはうれしいものだ。
丁度、拠点にフォロンダ領主の馬車が止まる姿が目に入る。
すぐに自警団に支えられた5人が乗せられ、フォロンダ領主と共に馬車は走り去った。
その様子を心配そうに見ているアイビーに。
「貴族は彼に任せれば大丈夫だ」
「よかった」
アイビーの言葉に、笑みがこぼれる。
この子の言葉が無ければ、フォロンダ領主が此処に来る事はなかっただろう。
貴族がこんな馬鹿げたことに参加するとは思わないからな。
頭を撫でると、不思議そうな表情で見上げるアイビー。
分かっているのか、いないのか、ほんと不思議な子供だ。
俺達の様子に納得したのか、カルアは犯罪者集団の討伐に参加するため拠点に向かった。
用意した部屋へアイビーと向かいながら、ソラの反応で気になる事を聞いてみる。
「ソラの反応を、反対にする事は出来ないか?」
「えっ? どう言う事ですか?」
「結構な人数を調べる事になる。問題がない者の時にいちいち震えていたら、ソラが疲れないか?」
「あっ、そうですね!」
アイビーは慌てて鞄の中を見て、判断する時の反応を逆にするように言っている。
「ソラ、問題の無い人の時は震えないでね。駄目って思う人の時にプルプルしてね」
それで伝わるのか?
ちょっと試しておくか。
「ラットルアで試してみるか?」
「はい」
話を聞いていたラットルアが名前を言うが、鞄の中のソラは震えずじっとしているみたいだ。
「大丈夫です」
えっと、本当に大丈夫なのかな?
「悪い。そろそろいいか? かなり長い列になって来た」
マールリークの言葉にアイビーは頷いている。
……ソラを信じるしかないな。
「アイビー、ソラ。疲れたら途中で休憩をはさんでも大丈夫だからな」
アイビーが鞄の中を確認して頷く。
「大丈夫です。頑張ります!」
「よし、順番に部屋に入って名前を言え。問題がなければすぐに終わる。列からそれたらすぐにわかるからな」
マールリークの声が響き、少しすると部屋に人が入ってくる。
最初は自警団の見習いみたいだな。
部屋の入り口に副団長の姿が見えた。
机の下で、マジックアイテムを握り込む。
「タバリダです」
クイッと引っ張られる服の感触。
「えっ!!」
驚いて、声が出てしまった。
確か引っ張るのって駄目って事だよな。
早すぎないか?
……信じよう。
「裏切り者だ」
俺の言葉にタバリダが青い顔をして、逃げ出そうとするが副団長がすぐに捕まえた。
「まさか、君が組織に加担しているとはね。連れていきます。すぐに……ロゼが来たみたいですね。ご苦労様です。あとは頼みます」
見習いを引きずって建物から出ていく副団長。
「あの、ボロルダさん。もう見つけたんですか?」
「ん? あぁ、まぁな。さすがに驚いたわ、まさか一発目とは」
隣に座るアイビーの頭を撫でる。
癒されるわ~。