953話 様子を見に光の森へ
「王都か……面倒な事なりそうだな」
ジナルさんが溜め息を吐く。
「王都に連絡を入れないと駄目よね。フォロンダ様に直接でいいかしら?」
「そうだな」
「ジナル。お願いね」
「……えっ?」
目を驚いた表情でフラフさんを見る。
「私は遠慮しておくわ」
「いや、この町の管理はフラフだろう?」
「そうね。でも、ジナルが報告するべきだと思うわ」
「ふふふっ」と笑っているフラフさんを見て首を傾げる。
なんだか、いつもの彼女と違う様な気がする。
「フラフ……お前、何かしたな」
「あら、嫌だ」
何かした?
ジナルさんとフラフさんを交互に見る。
「今日の報告で怒られる事は絶対にない。まぁ、ちょっと嫌味を言われるだろうけど」
ははっ、フォロンダ領主なら確かに言いそう。
「……」
笑顔で黙るフラフさんに、ジナルさんが溜め息を吐く。
「本気で怒られる様な事をしでかしたな?」
フラフさんの視線がジナルさんから逸れる。
「はぁ、まったく。分かった、報告は俺がする」
ホッとした表情になるフラフさん。
「ありがとう」
「でも怒られるなら早い方がいいぞ」
「ふふふっ」
フラフさんの表情を見て、諦めた様子を見せるジナルさん。
私達を見て肩を竦めると、タブロアさんを見た。
「運ぶのは面倒だから起こすか」
「ジナル。ソルが反応したもう1つの場所はどうなっているんだ?」
お父さんの言葉に、ジナルさんがフラフさんを見る。
「光の森には監視を付けているわ。動きがあればすぐに連絡が来るはずよ」
連絡がないという事は、光の森にある呪具はそのままなのか。
「少し変だな」
ジナルさんが首を傾げる。
「呪具を王都に持って行こうとしていたんだろう? それなら、光の森にある呪具はどうしてそのままなんだ?」
「もしかして、光の森にある呪具は失敗作とか?」
光の森に失敗作を捨てたという事?
「王都に運び込もうとしていた呪具もある意味失敗作だ。彼等が求めた物とは違う物だからな。だから光の森にある呪具だけ置いていくというのは変だ」
「そうだったわね。ん~ここで考えても分からないから、光の森に行ってみましょうか」
ジナルさんが、フラフさんの提案に頷くとセイゼルクさん達に視線を向けた。
「セイゼルク達はどうする?」
「俺達の役目は終わって暇だから、一緒に見に行こうかな。皆はどうする?」
セイゼルクさんがラットルアさん達を見ると、3人は顔を見合わせる。
「俺達も一緒に行くよ。気持ちを落ち着けたいし」
シファルさんが答えると、ラットルアさんとヌーガさんも頷く。
「セイゼルク達が行くなら、私は止めておくわ。やる事が沢山あるからね。特にタブロアから、情報を聞き出さないと」
「呪具が他にもあるのか、もしくは既に持ち出された呪具があるのか。あとは……今回運ぶ予定だった呪具の数を確認して欲しい」
ジナルさんがフラフさんを見る。
「えぇ、それらを重点的に聞くわ。あとは、タブロアに協力している町の人の情報よね。そうだ、王都からこの町に来ている貴族が、これに関係しているかも調べないと駄目よね」
うわぁ、大変そう。
私が手伝える事はないから、光の森に行ってソルの反応をしっかり見よう。
「手伝うよ」
バンガさんが言うと、ジックさんも頷く。
「ありがとう。協力は凄く嬉しいわ。バンガ達だったら、関わっても問題ないしね」
フラフさんの言葉に、ジナルさんが頷く。
関わっては駄目な人がいるんだ。
「フラフ。俺達は先に出るな。ここは、大丈夫か? 被害者も結構いるが」
「大丈夫よ。そろそろ掃除を済ませた自警団員達が……。あぁ、来たわね」
あっ、本当だ。
こっちに向かって複数の気配が来ている。
「俺は光の森の様子を見てから、フラフと合流するよ」
「分かったわ。光の森に異常があったら、中に入らずに知らせて。あそこは、少し危険だから」
危険な場所だったんだ。
前の時は、周囲を見る余裕がなかったから分からなかったな。
「分かった。あとで」
ジナルさんが、私達を見る。
「行こうか」
あっ、シエルとソルをバッグに入れないと。
2匹を探すと、足元にいた。
「ぺっ!」
あれ?
ソルが不満そうだけど、どうしてだろう。
ソルは私の視線に気付くと、ジナルさんの方を見る。
「あっ。呪具!」
私の声にジナルさんが、呪具の入った木箱を見る。
「悪い。食べていいぞ」
「ぺふ~」
待ってましたとばかりに、木箱に突っ込むソル。
しばらくすると、満足そうに木箱から出てきた。
「ソル、シエル。光の森に行くから、バッグに入ろうか」
「にゃうん」
「ぺふっ」
スライムになったシエルとソルをバッグに入れる。
「ソル。呪具の魔力に気付いたら、揺れてね」
「ぺふっ」
蓋を閉めジナルさんに視線を向けると、何故か楽しそうに笑っている。
彼の視線を追うと、フラフさんとバンガさん達が目を見開いてソル達が入ったバッグを見ていた。
「本当にスライムになったわ」
フラフさんの言葉に、シエルの事だと気付く。
「聞いていたけど、どうなっているんだ?」
バンガさんが興味津々の表情で近付くので、ちょっと体が引く。
「突然変異なのでは?」
いや、魔石の力だけど。
あっ、この変化も魔石の力だ。
「近付くな」
バンガさんとジックさんに詰め寄られそうになるのを、お父さんが止める。
「「あっ」」
無意識だったのか、バンガさんとジックさんが私を見て申し訳なさそうな表情になる。
「ごめん。怖かったよな」
バンガさんが私に頭を下げる。
「いえ。大丈夫です」
確かに2人の勢いにちょっと怖かったけどね。
「ドルイド、アイビー。行くぞ」
ジナルさんを見ると、既に扉のところにいた。
フラフさん達に小さく頭を下げると、ジナルさんの元に行く。
「気を付けてね。だいたいは片付いたと思うけど、こまごまとしたのが残っているから」
フラフさんの言い方に笑ってしまう。
人ではなく物扱いだ。
「はい。行ってきます」
建物を出ると、足が止まる。
「あぁ、まだ処理が終わっていなかったか」
ジナルさんが私を見る。
「大丈夫か?」
「うん」
建物周辺に転がる沢山の人。
気配を感じないので、既に亡くなっているんだろう。
お父さんが私の背を軽く押す。
「行こう」
歩きだすとお父さんがいる反対側にシファルさんが来る。
特に何も言わないけれど、亡くなった者を見ない様にしてくれたんだろう。
大丈夫なんだけどな。
確かに「あれ? 腕は?」「あれ? 首は?」と思う者もいるけどね。
元研究所の敷地を出ると、光の森がある方に向かって歩く。
「誰かいるな」
ジナルさんは立ち止まると、少し先にある曲がり角に視線を向けた。
数秒後、複数の気配を感じた。
あいかわらず、気配に鋭いな。
「随分と慌てている様子だな」
シファルさんが首を傾げる。
「こっちに来るな」
ラットルアさんが武器に手を伸ばす。
「そうだな」
ジナルさんも武器を持つ。
「うわっ」
「ひっ」
4人の男性が角を曲がって来ると、私達に気付き表情を強張らせた。
「こんな時間に何をしている?」
ジナルさんの質問に、男性達が顔を見合わせる。
「その、皆で飲んでいて帰りが遅くなっただけだ」
男性の1人が、引きつった表情のまま答える。
その反応でその答えは無理があるだろうな。
「それで誤魔化したつもりか?」
セイゼルクさんの問いに、男性達が息を呑む音が聞こえた。
まさか本当に誤魔化せると思ったの?
あっ。
男性達の後ろに自警団員さんの姿が見えた。
彼女は、私達に気付くと笑顔になる。
「こんばんは。協力を感謝します。さて、かくれんぼはお終いですか?」
「ひぃ」
自警団員さんの言葉に、私達の前にいる男性の1人が悲鳴をあげる。
「酷いな。そんなに怖がらないでよ」
「彼等は?」
ジナルさんの質問に、自警団員は楽しそうな表情になる。
「タブロアの協力者です。裏切り者達が自警団を制圧したと思って、わざわざ見に来たんです。実際は違うので、声を掛けたら慌てて逃げ出しました」
なるほど。
「さて、そろそろ諦めようか」
「くっそ~」
自警団員さんに向かって、ナイフを振り回す男性。
「はぁ、諦めが悪いな」
自警団員さんは小さく呟くと、ナイフを避け膝を男性の腹に叩きつけた。
声を上げる事なく倒れる男性。
よく見ると白目をむいていた。
「凄い」
あまりに一瞬の出来事だったので、感動してしまう。
「あっという間だったね」
お父さんを見ると、私の反応が面白いのか笑っていた。




