表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1037/1156

952話 本

「あの本屋にある本と同じだな。まさか木の板が本になるなんて」


ジナルさんが本の表紙を撫でる。


「触った時に、違和感を覚えなかったの?」


フラフさんの質問にジナルさんは頷く。


「あぁ、違和感はなかった。だから普通の木の板だと思ったんだけど……」


「本の内容は? 木箱にあったという事は、呪具に関連している事だとは思うが」


お父さんがジナルさんを見ると、彼は頷いて本を開いた。


「えっ?」


本を開いたジナルさんが驚いた表情になる。

そして、本を開いた状態で私達に見せた。


「白紙だ」


ジナルさんの言う通り、本には何も書かれていない。

お父さんはジナルさんから本を受け取ると、パラパラと違うページを確かめる。


「本当に、何も書かれていないな」


フラフさんが首を傾げて本が入っていた木箱を見る。


「フラフ?」


ジナルさんの声に、フラフさんが彼を見る。


「木箱に魔法陣でもあるのかと思ったけど、なかったわ。それにしても、どうして白紙の本なんて入っていたのかしら。しかも木の板に偽装して。偽装でいいのよね?」


「たぶん。そんな事が出来る魔法は知らない。あっ」


ジナルさんが私を見る。

それに首を傾げる。


「魔石で変化する事は出来るな」


魔石?

あっ、そうだ。

魔石を使って、木の魔物になった事がある。


「魔石ってさっきジナルが木の板に付けた物か?」


バンガさんの言葉に、全員の視線がジナルさんの持つ魔石に向く。

ジナルさんが魔石を目の高さまで持ち上げると、ジッと見る。


魔石は先ほどと変わらず、白く濁って……んっ?


「濁りがさっきより酷くないか?」


お父さんの言葉に、ジナルさんが無言で頷く。

そしてお父さんが持つ本を受け取ると、魔石に近付けた。


「おっと」


ピシッ。


本は木の板になり、ジナルさんが持っていた魔石にはヒビが入った。


「「「「「……」」」」」


全員で割れた魔石を見つめる。


「ちょっとジナル、魔石が割れちゃったんだけど。この状態で、木の板を本に戻せるの?」


焦った様子でジナルさんに詰め寄るフラフさん。


「あ~、どうかな?」


そっと木の板と割れた魔石を近付けるジナルさん。


「ごめん、無理だ」


分かっていたけど、駄目だった。


「でも、本には何も書かれていなかったし」


ジナルさんの言う通り、本は白紙だった。

だから本に戻っても役に立つ事はない。


「そうだけど、本を調べる事は出来たわ。まぁ、止めなかった私も同罪ね」


フラフさんから視線を逸らすジナルさん。

珍しく本当に困った表情になっている。

それにしても、本を木の板に変える魔石か。

そんな魔石がある事に驚いたな。


そもそも、白紙の本がどうして木箱に入っていたんだろう?

書類や首飾りは、呪具に関連する物だった。

という事は、本も呪具に関連する物だと思うんだけどな。


「本の正当な持ち主ではないから読めなかったのでは?」


お父さんの言葉に、ジナルさんの表情が変わった。


「そうだ! あの本屋の店主に『置いてある本の内容を知る事が出来るのは、本の正当な持ち主だけだ』と言われたんだった」


本屋さんの話が出た時にジナルさんが言っていたっけ。

すっかり忘れてた。


「もしあの言葉が当てはまるなら、この本はまだ必要とされているという事だな。店主は『この本たちは必要が無くなれば消える』とも言っていたから」


ジナルさんが木の板を見る。

そして魔石と一緒に、布に包むと彼が持っているマジックバッグに入れた。


「この町には、この本に詳しい本屋がある。これを見せて相談してみるよ」


「あぁ、あの本屋ね。店主が頑固で有名よね」


ジナルさんを見てフラフさんが笑う。


「でも相談にのってくれるかしら? 怒らせると、攻撃されるわよ」


フラフさんの言葉に、ジナルさんが首を傾げる。


「攻撃? 前に会った時は、攻撃なんてしなかったぞ。頑固で不思議な人だったけど、話も出来たし」


「店主と話した事があるの?」


「あるよ。相手にされなかった貴族が雇った、ならず者や下位冒険者を排除する依頼があったから。その仕事のあとに少しな」


「はぁ、貴族ってどいつもこいつも。店主が攻撃する様になったのは1年ほど前からよ。貴族が『僕に売ってくれない店なんて燃えてしまえばいいんだ』と叫んで火を放った」


うわ、最悪だ。

フラフさんの話し方から、貴族と言っても子供かな?


「店主に怪我は?」


「大丈夫、無傷よ。というか、不思議な事に火はすぐに消えたの。目撃者から聞いた話では、火を放った瞬間ポンと小さな破裂音がして消えたみたいなの。それも何度も」


火がすぐに消えたから、何度も挑戦したんだ。


「すぐに消えた? 不思議だな。それで貴族は? 話し方から子供か?」


「いいえ、30歳だったわ」


えっ?


「フラフの言い方が間違ったのか?」


あぁ、そうか。


「いいえ。30歳の貴族子息が言った通りに話したわ」


フラフさんの話に、ジナルさんの顔が歪んだ。

確かにその気持ちは分かる。


「それと目撃者が多くて犯罪を揉み消す事が出来なかったから、貴族子息は奴隷落ちしたわ。放火は重犯罪だから当然ね」


そもそも30歳にもなって、相手にされないから火を放つなんてありえない。


「そうか。本は、相談をしてみるよ。それに、この町に来た目的の1つだしな」


ジナルさんがお父さんと私を見る。


「問題が解決したら行く約束だな」


「うん」


私達の返事に、ジナルさんが嬉しそうに笑う。


あっ、セイゼルクさん達の気配が近づいて来る。

なんだろう。

少し焦っているみたい。


「何かあったのか?」


お父さんが部屋の出入り口に視線を向ける。


「ここか? いた。良かった」


私達を見えて安堵した表情をしたセイゼルクさん達。

なぜかソルが彼等の周りで飛び跳ねだした。


「アイビー、ここに来るのに階段を3回も探したよ」


ラットルアさんの言葉に首を傾げる。


爆発玉の煙を見つければ。

あっ、もう煙は消えてしまっているか。


この建物の階段は、一気に地下3階まで下りられなかった。

地下1階に下りたら、別の場所にある階段に移動して地下2階に下り、そしてまた別の場所にある階段に移動して地下3階に下りた。

爆発玉の煙の誘導がなければ、ここ見つけるのは時間が掛かるだろうな。


「そんな事より、アイビーにお願いがあるんだけど」


シファルさんがマジックバッグから木箱を取り出す。

その木箱には見覚えがある。


「ぺふぃ~」


だから、セイゼルクさん達の周りにいたんだね。


「ソルにあげても?」


シファルさんの言葉に、笑って頷く。


「あっ、でもその前にジナルさんに確認を取って欲しい」


先ほどとは違う呪具があるかもしれないから。


「あぁ、そうか」


シファルさんがジナルさんを見ると、彼は頷き木箱の箱を開けた。


「ぺふっ!」


ソルが勢いよく飛び跳ねると、ジナルさんの頭に載る。

そして楽し気に揺れ始めた。


「おかしいな。呪具があるのに緊張感がない」


セイゼルクさんの言葉に、フラフさんが笑い出す。

バンガさんとジックさんも楽しそうに笑っている。


「ジナルさん、ごめんね」


ソルを見て謝ると、彼は私を見る。


「重くないし大丈夫」


「ぺふっ? ぺふっ?」


呪具を確認するジナルさん。

その頭の上では、「まだ? まだ?」という様に体を傾けているソル。


「癒されるな」


セイゼルクさんの言葉に、ラットルアさん達が頷く。


「そっちはどうだった?」


お父さんがセイゼルクさんを見る。


「裏切者の自警団員5人と王都から来たならず者が25人。ならず者は呪具を持ち出すために雇われていた」


「合計30人いたのは驚いたけど、そのお陰でスッキリだ」


ラットルアさんの説明に笑ってしまう。

思いっきり暴れてきたのかな?


「ならず者の1人と話したんだが、呪具が入った木箱を2個運ぶ予定だったそうだ」


2個?

目の前にあるのは1個。


セイゼルクさんの話に、ジナルさんが視線を向ける。


「俺達の場所にあった木箱だけど、2個あった。1個目は呪具が入っていた。2個目は空。空の木箱を運ぶはずがないから、木箱のあった周辺を調べた。どこかに呪具があるのかと。でもなかった。見つけたのは、木箱がもう1個あった痕跡だ。俺達が行く前に、誰かが呪具の入った木箱を持ち出した可能性がある」


「王都に持って行ったのか?」


話を聞いたジナルさんが嫌そうにつぶやくと、セイゼルクさんが神妙に頷いた。


「その可能性が高いだろうな」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
敵の中に本を読める人がいたのかな? 呪具に関係する物が入った箱に入っていたってことは呪具に関係する本だってことが読めないと分からないだろうから 正当な持ち主が敵側だったら何か悲しいね
ぺふぺふっ!!(続きをはやく~) やっぱりスライムたちはかわいいです。 ジナルさん、早く中身を確認してあげてください。 寒くなりました。更新を楽しみにしておりますが、無理なさらぬよう・・・ご自愛くだ…
アイビーが持ったら、とか全員で回して試してみるのがよかったですねw 変化の魔石といえば、フレムの魔石ですが、フレムの魔石では役目が違うのかな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ