100話 貴族が奇襲?
-バークスビー団長-
アグロップの質問に、マールリークは簡単に3ブロックぐらいだと言うが……。
3ブロックと言えば、120軒ぐらいの建物が入るぞ。
そこに居る全ての人を拠点に誘導するとなると、かなり面倒くさいだろうな。
「マジックアイテムでの判断だからすぐすむが、協力しない奴が現れそうだな」
時間が無いとかいろいろ言って、逃げ出そうとするやつが絶対にいるよな。
そういう奴らを説得するのが嫌なんだよ。
何かいい方法があったらいいが……。
「本当の事を言えばいいのではないですか? 犯罪組織に加担している者が潜り込んでいる、拒否すれば仲間と見なし取り調べを行うと」
「それで協力するか?」
「そうですね~。あぁ、だったら人さらいの組織だって言ってしまいましょう。あの組織の仲間だと噂にでもなったら、この町ではかなりきついでしょうからね。普通に石でも投げられる感じでしょ? 相当な馬鹿でない限り、協力は惜しまないと思いますよ?」
「確かにそうだが……まぁ、いいか。今回は特別にその方法でいくか」
アグロップの方法は、確実に町の人達の協力を受けられるだろう。
あの組織を恨んでいる者達は、とても多い。
もし組織に加担したと噂にでもなれば、最悪な結果も考えられるぐらいに。
その為いつも慎重に対応してきたが、今回は動かす人数も多いし1人も逃すつもりはない。
「アグロップ、見習い連中も判断してもらえるように並ばせろ」
俺の言葉にマールリークが驚いた表情を見せるが、言われたアグロップのほうはニンマリと怖い笑みを見せる。
判断が終われば、動かせる人間が増えると思ったのだろう。
まぁ、そういう事なんだがな。
見習いだろうが、自警団員の者に間違いはない。
しっかり働いてもらおうか。
「分かりました。見習い連中も確実に全員を並ばせます」
裏切り者が出たら、奴らには辛い経験になるな。
まぁ、乗り越えてもらわないと自警団員としては続かないか。
「あっそうだ。団長は拠点の対応に向かってほしいんだった」
「どうせ寝ているのだから、誰でもいいだろ?」
「いや、もしかしたらやばい人間が紛れ込んでいるかもってアイビーが心配してた」
「やばい人間? 何だそれ?」
「ん~、貴族とか?」
「あ゛~そう言えば、書類に名前が挙がっていた貴族がいたな。いや、でも……拠点に奇襲をかけるような馬鹿な貴族がいるか?」
「さぁ、それは知らないけど」
「その事は団長にお任せします。私は詰所で人手をかき集めて、3ブロック周辺から人を誘導しながら拠点に向かいます。あっ見習いたちは先にボロルダ達の方へ向かわせますので。では失礼」
我関せずと、アグロップが颯爽と自警団の詰所に向かう姿を見つめる。
アグロップのヤツ逃げやがった。
あいつは、貴族が大嫌いだからな。
大きなため息をつく俺に、マールリークがポンと肩に手を置く。
「冒険者もそっち関係は弱いから。頑張れ! 貴族なんて、いないかも知れないし」
「はぁ、本気で思ってないだろう。と言うか、アグロップのヤツ残っている自警団員に指示を出し忘れてないか?」
「いや、団長がすればいいのでは?」
そうだけど。
俺、説明が苦手なんだよな~。
「随分とお疲れだな~。頑張れ、あと少しだ!」
マールリークの軽い応援に手をあげて、残っている自警団員のもとへ向かう。
捕まえた者達は、全て檻に放り込まれたようだ。
俺の姿に、自警団員達が緊張するのが分かった。
この雰囲気が苦手だ。
仲間を捕まえると、どうしても流れる空気がある。
沈み込みそうになる気持ちを、何とか抑え込む。
「団長、お疲れ!」
ボロルダ達が、軽く手をあげる姿が目に入る。
それにスッと空気が軽くなる。
おそらくボロルダの軽い声の調子に驚き、自警団員達の緊張感が切れたのだ。
少し苦笑いを浮かべてしまう。
あいつ等は、ほんと周りの状況をよく読んでいる。
「ご苦労、そっちはもう準備が調ったのか?」
「あぁ、問題ない。ここに残っている自警団員達はどうするんだ?」
ボロルダの言葉に、俺に視線が集まるが先ほどのような異様な空気は生まれない。
本当に感謝だな。
マルセと視線が合うと小さく笑われた。
「アグロップが戻ってくるまでは待機だ。それから拠点に向かってもらう。マルセ、仕事を頼みたい」
「はい」
「自警団員を3人ずつの隊に分けてくれ。拠点から3ブロック周辺にいる人間すべてを、拠点に向かわせるように誘導する」
「……ん? えっと全ての人をですか? かなりの人数になりますが」
「そうだ、マルセ。誰1人逃がすことなく全員だ。詳しくはアグロップが戻ってから聞いてくれ」
「分かりました」
大まかな説明はしたから、あとはアグロップに任せよう。
拠点の問題を俺1人に押し付けたのだから、こちらは任せた。
「さて、行くか。あっそうだ。ロゼ、クリダロ、2人は俺と一緒に来てくれ。あと……マルセ、貴族相手にでも引かない奴を3人ほど選んでくれ」
「分かりました」
マルセが選んだ3人と俺が選んだ2人、彼らは拠点にいるかもしれない貴族に対応できる人物達だ。
拠点に向かいながら、ボロルダにこれからの予定を聞いておく。
「拠点に行ってからの様子で少し変わるな。とりあえず冒険者達は拠点には入らない。それはもしものことを考えてだ。なのでそっちは頼む」
「分かっている」
貴族連中は自警団の指示には渋々ながらも従うが、冒険者にはかなり強気に出るからな。
権力を振りかざして、逃れようとする馬鹿も多いしな。
「俺達はセイゼルクと合流して、準備が調い次第確認作業に入る」
「人手は足りるのか?」
「ギルマスが少しは集めてくれているはずだ。まずはそいつらから調べる事になるが」
「そうか。ロゼ、ボロルダに付いてくれ」
俺の言葉にボロルダとロゼの2人が不思議そうに俺を見る。
ロゼは何と言うか、普通にしていても表情が怖い。
俺が言うのもなんだが怖い。
なのでボロルダの隣に居るだけで、効果はある筈だ。
「騒ぐ奴がいたら睨みつけろ。それでも効果が無かったら力で抑え込んでいい」
この作戦では、ボロルダの持っているマジックアイテムがかなり重要になる。
順調に事を進めるには、脅しの人材が必要だろう。
「あ~、なるほど。ロゼさんでしたっけ、よろしく!」
「はい。こちらこそ」
拠点に着いたのだが、静かだ。
玄関から少し中を覗くと、想像していた以上の人数が倒れている。
……いったい何人いるんだ?
ボロルダが隣で、苦笑している。
その視線を追うと、どう見ても周りとは身なりの違う男性がいる。
顔は下を向いているので確認できないが、あれは貴族が好むデザインだ。
……それも1人ではない。
玄関先から覗いただけで3人。
「はぁ~、馬鹿なのか?」
「まさか、拠点となった場所に眠り薬が仕込まれているとは思わないだろう。だから安心して参加したんじゃないか?」
ボロルダの言葉に笑みがこぼれる。
そうだ、奴らの裏をかけた結果がこれなのだ。
……貴族がかかったが。
「団長、あのこれは?」
「拠点にある証拠を持ち出そうとした、組織の手の者達だ。数名味方も混ざっているが気にするな」
俺の言葉に、一緒に来た5人の自警団員達が驚く。
「さて、ここからは冒険者には無理だ。俺達だけで対応する。ロゼはボロルダの準備が調うまでこちらを頼む」
「はい」
「とりあえず、空気の入れ替えだな。入った瞬間に意識がなくなるとか遠慮したいからな」
口に布を当てて、とりあえず玄関の扉を全開にする。
さて、どれだけの組織の者が釣れたのか楽しみだ。
貴族の問題は、後回しだ。