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946話 一緒に

「ジンクー伯爵とはどんな人物なんだ? セイゼルクは嫌いみたいだが」


ジナルさんの言葉に、セイゼルクさんがヌーガさん達を見る。


「俺だけではなく、俺達全員が奴を嫌いだ。奴は卑怯な性格だ」


卑怯?

誰かを陥れようとしたとか?


「奴から、俺達が住んでいる町に本店がある商家を調べて欲しいという依頼が来た。取引したいから、相手に問題がないか調べてくれと」


シファルさんの言葉に、ジナルさんが頷く。


「商家と取引する場合、本店について調べる事はよくあるな」


「あぁ。冒険者ギルドからの指名依頼だったから、商家を調べて報告書を出した。しばらくすると取引が始まったと噂を聞いたんだが、別の噂も流れてきた。商家に問題があって、その問題をジンクー伯爵が解決したと。俺達が調べた時に、商家には問題がなかった」


セイゼルクさんの言葉に、シファルさん達が頷く。


「もしかしたら漏れがあったのかと気になったから、もう一度商家を調べ直したんだ。そうしたら奴は、取引を思い通りにするために次期店主と決まっている娘の婿を罠に嵌めた事が分かった。家族関係も詳しくと依頼されたから、店主一家や婿についても調べ上げて報告した。おそらく嵌めやすい人物を見つけるためだったのだろう」


嫌そうな表情をするセイゼルクさん。

自分達が調べた物を利用して罠に嵌めるなんて、許せないよね。


「それでどうしたんだ?」


「もちろん冒険者ギルドに報告して、商家の方にも連絡を入れた。婿の問題には、裏で手を引いた奴がいる事を調べあげてな」


さすが、セイゼルクさん達だね。


「変だよな。あの時、奴は捕まったと聞いたけど」


ラットルアさんが首を傾げる。


「ジンクー伯爵を助ける者がいたという事か? もしくは代替わりしているとか?」


あぁ、貴族だからその可能性があるよね


「パシュラ・ジンクー伯爵だ」


ジナルさんの言葉に、セイゼルクさんが眉間に皺を寄せる。


「代替わりはしていないようだ」


「つまり地位と金のある者が、手を貸したという事だな」


ジナルさんの言葉に、セイゼルクさんが溜め息を吐く。


「そうみたいだな。そういえば、この町の領主にはどうやってなったんだ? 誰かからの推薦か? それなら推薦した者が怪しいが」


「そこまで詳しくは聞いていない。フラフがいたら分かったかもしれないが」


そうだ。

フラフさんは無事かな?


コンコンコン。


「はい」


ジナルさんが扉を開けると、気になっていたフラフさんが笑顔で入って来た。


「みんな、無事ね。良かったわ」


元気な姿を見てホッとする。

皆の態度から、彼女が強いという事は分かったけど心配だった。


「フラフも無事でなによりだ。宿は?」


ジナルさんの言葉に、フラフさんが笑う。


「ふふふっ。面白いぐらいにこっちの思惑通りに動いてくれたわ」


楽しそうに話すフラフさんから、血の匂いがした。

本当に、無事で良かった。


「それで、私達はどう動く事になったの?」


フラフさんが、ジナルさんやセイゼルクさん達を見る。


「自警団の裏切り者は組織の仲間に任せて、俺達はソルが反応した場所を調べる予定だ。その前にフラフに聞きたい事がある」


「何?」


首を傾げるフラフさん。


「ジンクー伯爵をこの町の領主に押したのは誰だ?」


「あぁジンクー伯爵? グーバス伯爵よ。なんでも幼馴染で、とても信頼出来る者らしいわ。グーバス伯爵が『彼は人が良い。それを利用されて商家と冒険者に嵌められその地位を奪われそうになった。だが、彼の機転で逆に商家と冒険者の罪を暴いた。彼はそれほど優秀なのだ。だから領主として、きっとカシメ町のためになるだろう』と断言したと聞いたわ」


その商家と冒険者ってもしかして、罠に嵌めた商家とセイゼルクさん達の事かな?


「それが本当なのか調べたのか?」


「ジナルがそう言うなら、嘘だったのね。調べたのは自警団員よ、裏切り者が沢山いるね。ラリス団長は調べた結果を信じていなかったわ。そのせいで、ジンクー伯爵は領主としてあまり権力を行使出来なかったの。ラリス団長が見張っていたからね」


やっぱりラリス団長は凄いんだな。


「それで彼女を殺そうとしたのか?」


あっ、そうなのかな?


「その可能性が高いでしょうね。彼女が団長でいる限り、ジンクー伯爵は自由に動けないから」


「バンガ、ジック。グーバス伯爵について何か知っているか?」


ジナルさんが2人を見ると、ジックさんが頷く。


「前スチューリス侯爵の取り巻きの1人です」


うわぁ、そうなんだ。


「奴の処理も?」


バンガさんがジナルさんの言葉に首を横に振る。


「誰を処理するかは決まっていないんだ」


話を聞いた時から気になっているんだけど、処理って……捕まえるのではなく……。

いや、これ以上は考えない。


「決まっていない?」


ジナルさんが首を傾げる。


「うん、呪具に関わった貴族の対応は俺達に一任されているから」


「一任? それは凄い信頼だな」


お父さんが驚いた表情をする。

もしかして珍しい事なんだろうか


「まぁ、それなりに仕事をこなしてきたからな」


バンガさんが嬉しそうな表情をすると、なぜかジックさんに肘で突かれている。


どうしたんだろう?


「それなら貴族については、2人に任せるな」


ジナルさんが頷く2人を見て笑う。


「アイビー、ドルイド。俺達は今から呪具の反応があった場所に侵入する。2人はどうする?」


ジナルさんの言葉にお父さんを見る。


「俺は、手伝うよ。人数はいた方がいいだろうから。アイビーは宿で待っていて欲しい」


お父さんが私を見る。


「この宿は、しっかり守られているから安心していい」


お父さんの言う通り、私は宿で待っていた方がいいんだろう。

満足に戦う事も出来ないし。


でもなんでだろう。

いつもなら「分かった。待っているね」といえるのに……。


「アイビー?」


無言の私を心配そうにお父さんが見る。


「お父さん」


心配させる事が分かっているし、足手まといになる事も分かっている。

でも、


「一緒に行きたい」


「えっ?」


予想した返事ではないからだろう、お父さんが目を見開いた。

それに申し訳ないと思うのだけど、言った事は後悔していない。


「アイビーがそう言うなら、一緒に行ったらどうだ?」


ジナルさんの言葉に、お父さんが眉間に皺を刻む。


「ごめんね、お父さん」


一緒に行ったら、間違いなくお父さんに迷惑を掛ける。

でも、一緒に行きたいという思いが強い。


「分かった。ただし俺から離れない事」


不安げなお父さんを見てしっかり頷く。


「うん。シエルやソラ達も一緒にいい?」


私の言葉に小さく笑って頷くお父さん。

良かった、いつもの表情だ。


「話もまとまったし、行こうか」


ジナルさんが立ち上がると、お父さんが慌てて止めた。


「待ってくれ。皆に渡したい物がある」


お父さんがマジックボックスから、ソルが作った大量の魔石を取り出す。


「また、凄い量だな。何個あるんだ?」


セイゼルクさんが魔石を1つ手に取る。


「37個だ。ソルが作った物だ。彼等はいつも必要な魔石をくれる。これもそうかもしれないから、持って行ってくれ。ただし、使い方などは分かっていない」


お父さんの説明にジナルさんが笑う。


「確かに使い方がいつも分からないよな。だいたいは、魔法陣に放り込んだり触れさせたりか?」


「そうだな。魔法陣を見つけたら、放り込んでみるのもいいかもな」


「えっ、ドル兄は本気で言っているのか? これ、透明度が高いからSSとかSSSだろう? こんなの気軽には使えないって」


「「……」」


バンガさんの言葉に、お父さんとジナルさんが黙り込む。

そしてジナルさんが、魔石を1つ手に取ると小さく笑う。


「あぁ、そんな価値があったな」


「えっ?」


バンガさんとジックさんが、不思議そうにジナルさんを見る。


「『そんな価値』なんて、忘れていたの? こんな透明度の高い魔石を目にしておきながら?」


フラフさんもジナルさんの言葉に、首を傾げる。


「この魔石はソルが作ったんだ、ポンポンと気軽に大量に」


お父さんの言葉に、3人が驚いた表情をする。


「さっきもそう言っていましたよね? あれは、聞き間違いではなかったのか」


ジックさんが呆然と魔石を見る。

そして、お父さんとジナルさんを見る。


「さっきの話から、必要になりそうなんですか?」


彼の言葉に2人が頷くと、バンガさんとジックさんは顔を見合わせる。


「使わせてもらえばいいよ。というか、ないと困った事になる可能性がある」


ラットルアさんが魔石を4個ずつに分ける。

シファルさんは分けられた魔石を手に取ると、すぐ取り出せるにポケットに入れた。


次々魔石を取るセイゼルクさん達に、バンガさんとジックさんも戸惑いながら魔石に手を伸ばす。


「必要と感じたら使えよ。迷っている時間がない可能性もあるからな」


お父さんの言葉に、神妙に頷く2人。


大丈夫かな?


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― 新着の感想 ―
人数より多いってことは投げるのかな? 持ってるだけなら人数分だもんね。
アイビーがついに処理の意味に気付いてしまった バンガさんは本当にドルイドのことが好きなんだろうなぁ〜 凄い信頼だなって驚かれた時に嬉しそうにドヤッてて、きっとバンガさんの気持ちを知ってるジックさんに肘…
アイビーが自分の意見を通している!! 何でしょうね、虫の知らせ?シエル姐さんとソラ達が居れば大丈夫だと思いたいですが一体何が待ち受けているのか楽しみです! しかし敵中に行くので、もしかしたら血生臭い事…
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