945話 呪具と貴族
「不滅の騎士というのは何だ?」
セイゼルクさんの言葉に、ジナルさんが嫌そうな表情になる。
「死を恐れなず、致命傷を負ってもすぐには死なない騎士だ」
致命傷を負ってもすぐに死なないなんて、どうやって?
そんな事は不可能だよね?
「あいつは既に、化け物を作るための研究を始めていた。しかも実験で、平民の騎士を使うとまで言ったらしい」
ジナルさんが溜め息を吐く。
「あいつに賛同する者は少なかったと聞いた。当然だ。騎士を化け物に変えるなんて。だがあいつは『平民など、どう使おうが問題ない』と言い切ったそうだ」
うわぁ、最低な人だ。
「騎士団長は、あいつの言葉を聞いて激怒。その場で副団長から解任された。そうとう暴れたそうだけど、そのまま牢獄行き。今の副団長は、あいつの弟だ。問題を起こした弟だからと騎士団を辞めようとしたんだが、騎士団員達の『副団長に就いて欲しい』という強い希望で、その地位に就いた事は有名な話だ」
今の副団長さんは、もの凄く人望があるんだね。
でもその娘さんのフォリアさんが、呪具に関わっている可能性が出てきてしまった。
「その前副団長が行っていた実験はどうなったんだ?」
セイゼルクさんがジナルさんを見る。
「実験場所はすぐに特定されて封鎖。書類などは内密に処理された。そして関わった者達も全て捕まったと聞いたが、漏れがあったみたいだな」
ジナルさんが頭を抱える。
「貴族が関わった以上、色々とややこしくなりそうだな」
お父さんの言葉にセイゼルクさん達が顔を歪める。
そういえば、セイゼルクさなん達はもの凄く貴族を苦手としているよね。
何かあったのかな?
「貴族が関係していたとしても、呪具に手を出したなら処理したいが……はぁ、面倒くさい事になったな」
ジナルさんの言葉に、お父さんもセイゼルクさんも深く頷く。
コンコンコン。
「あぁ、来れたのか」
ジナルさんが会議室の扉を開けると、バンガさんとジックさんが入って来た。
あっ、彼等の事をすっかり忘れていた。
いつも一緒にいるジナルさん達がいたから、いなくても違和感を覚えなかったのかな?
「あれ? もしかして忘れられていた?」
バンガさんが私を見る。
それに笑って誤魔化す。
全く誤魔化せていないけど。
「ははっ。そうだ……言っていいのか?」
お父さんを見るバンガさん。
「そういえば、また言っていなかったな」
お父さんが私を見る。
どうしたんだろう?
「バンガとジックが眠そうだっただろう?」
「うん」
敵から隠れている時に、眠そうな状態だったよね。
「仕事中というか、隠れている時にあの状態になるのはおかしいと思ったんだ」
そう言われれば、そうだよね。
あの状態で寝ようとするなんて。
「だから、ソラとフレムのポーションを渡したんだ」
「そうなの?」
バンガさんとジックさんを見る。
そういえば、さっきまでの表情と違うみたい。
顔がすっきりしている様に見える。
「ありがとう。ポーションのお陰で、異様な眠気がなくなったよ」
「それは良かったです」
「どっちの方が効いた?」
「赤のポーションです」
お父さんの質問にジックさんが答える。
「赤という事は、病気に効く方だな」
不思議そうな表情をするお父さんに視線を向ける。
「どうしたの?」
「睡魔は、バンガの話から呪具による後遺症だと思ったんだ。だから、効くのは青のポーションだと思ったのに赤のポーションだったから不思議で。不安に思って2つとも渡したのは正解だったけど、病気?」
病気を治す赤のポーションが効いたので不思議なのか。
「それより、何かあったのか? 雰囲気が暗いけど」
バンガさんがお父さんやジナルさんを見る。
「呪具に貴族が関わっていると分かった」
「えっ……」
ジナルさんの言葉に、バンガさんとジックさんが顔を見合わせる。
「フォリア・スチューリス侯爵令嬢が呪具に関わっている建物に入っていくのを目撃した者がいる」
「そうか。という事は……」
バンガさんが喉を押さえて少し考え込む。
そして、
「前スチューリス侯爵……言えるな」
満足そうに問題を起こした前侯爵の名前を呟く彼に首を傾げる。
「バンガ達は、関わった貴族達の処理か?」
ジナルさんが、バンガさんとジックさんを見る。
それに2人は、苦笑いで頷いた。
「名前は伏せるが、王都である貴族令嬢が死んだ。加害者も貴族だから極秘扱いされ情報は流れていない。令嬢の父親が次の王を支える1人だから、それも影響しているだろう」
その事件も呪具が関係しているという事だよね。
「そして、その貴族令嬢を調査するとある人物に辿りついた。それがフォリア・スチューリス侯爵令嬢だ。どうもその令嬢が、加害者の貴族をそそのかした可能性が出てきた。とはいえ、侯爵令嬢。しかも王族騎士団の副団長の娘だ。まぁ、フォロンダ様に相談したら、すぐに父親が呼ばれ話し合い。結果、呪具に関わっている証拠が出たら、過去にさかのぼって貴族籍から除籍。その後はご自由に、という事で話が付いた」
副団長さんは知っていたのか。
いや、娘は関わっていないと信じたのかもしれないな。
バンガさんがマジックバッグから数枚の紙をジナルさんに渡す。
「フォロンダ様と副団長が交わした契約の写しか。あぁ、確かに証拠が出たら除籍とあるな」
「それで、証拠は出たという事でいいのか?」
どうだろう?
呪具に関わった建物に入っただけだから、証拠になるかな?
「ん~、今は微妙なところだな」
ジナルさんがセイゼルクさん達を見ると頷いた。
「フォリア・スチューリス侯爵令嬢を見たと言ったのは、平民の子供だ。父親が自警団で働いているが、証人にはなれないだろう」
シファルさんの言葉に、バンガさんが肩を落とす。
「そうか。建物に入った理由を問い詰めても、『興味があっただけ』と、言い逃れされるだろうしな」
バンガさんの言葉に頷くジナルさん。
「今の段階では、手は出さない方がいいだろうな」
お父さんの話から、フォリアさんという侯爵令嬢は放置みたい。
「とりあえず、ソルが反応した場所の調べるか。そこで、証拠が見つかるかもしれない。あっ、貴族の話が出たんだったらこちらもいいな」
ジナルさんの言葉に、お父さんやセイゼルクさんだけでなくバンガさんも嫌そうな表情を見せた。
「この町の領主。ジンクー伯爵が呪具に関わっている可能性がある。今まで姿を見せなかったが、指示書に名前があった。処分される前にアゼラが盗んでくれて良かったよ」
「ジンクー伯爵がカシメ町の領主だったのか。最悪だ」
セイゼルクさんが嫌そうに表情を歪めるので、首を傾げる。
彼はこの町の領主、ジンクー伯爵を知っているのだろうか?
「ジンクー伯爵を知っているのか?」
「あぁ、依頼を受けた事があるんだ。それより、この町はずっと奴が領主だったのか? そんな事は言っていなかったが」
「変わったんだ。前の領主は、教会が送り込んだ者だったからな。まぁ、変わっても問題ありだったわけだが」
「奴のここでの評価は?」
セイゼルクさんの言葉にジナルさんが首を傾げる。
「特に問題はない。まぁ、ラリスの話では胡散臭そうだったけどな。そして『奴は絶対に何かしている』と言っていたな」
それが当たったのか。
ラリス団長さんは、人を見る目があるんだな。




