940話 生きてる!
「ソラ、フレム、ソル、シエル。食堂に、初めての人達がいるんだけど一緒に来てくれる? ソラは、その人達が安全な人達なのか確認して欲しいの。お願い出来る?」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「にゃうん」
「ぺふぅ……」
ソラ達は楽しそうに鳴くが、ソルが少し不満そうに鳴く。
呪具の魔力が気になるんだろうか?
「ソル、大丈夫よ。確認が終わったら、呪具を借りるから」
「ぺふっ! ぺふっ!」
自分の欲望に素直だな。
「ソルは、真っすぐだな」
シファルさんの言葉に、体を傾けるソル。
その姿が可愛くて笑顔になる。
「ソルは、欲望に一直線という事だよ」
シファルさんの言葉に、楽し気に揺れるソル。
そしてなぜか胸を張っている。
「いや、褒めては……うん。褒めてるよ」
ソルの態度に笑って、言い直すシファルさん。
ソルの期待を込めた目に負けたらしい。
お父さんを見ると、簡単に荷物を片付けていた。
「ごめん、手伝うね」
あっ、洗濯物を取り込んだまま整理していなかったな。
こうなるなら、片付けておくんだった。
「それはマジックバッグに放り込んでおこう。時間が出来た時に整理したらいい」
お父さんが笑って洗濯物の山を見る。
それに笑って頷く。
「そうだね」
時間のかかりそうなのは、洗った洗濯物だけだからね。
「まだどうなるか分からないけどな」
「うん。でも準備はしておいた方がいいと思ったんでしょう?」
「ジナル達が襲われたからな」
マジックバッグに洗濯物を放り込んで、部屋を見渡す。
私の私物は、お父さんが片付けてくれたみたい。
「これで移動はすぐに出来るな」
「うん」
何もないといいけれど。
「行こうか」
お父さんが私の肩をポンと優しく叩く。
ソラ達をバッグに入れると、シファルさんと部屋を出て1階に向かう。
食堂に入るとジナルさんが片手を上げた。
「皆の事は、俺を助けてくれた子達だと説明した。あとこれから必要になる子達だとも」
ジナルさんにお礼を言って、皆が入っているバッグの蓋を開ける。
「うん、ありがとう。皆、出てくれる?」
バッグから勢いよく飛び出すソラ達に、初めて会うオグート副隊長さんから驚いた声が上がる。
「綺麗な子達だな。あっ、個性的な子もいる」
彼の感想に頬が緩む。
「あっ! 待った」
バッグからソルが出た瞬間、ガシッと捕まえる。
「ぺふ~!」
不満そうに鳴くソルをギュッと抱きしめる。
「駄目。ソラの判断が終わってから」
一目散に、呪具を持っているジックさんの下に行こうとしたの分かっているんだからね。
「ぺっ」
私の腕の中で、不満そうに鳴くソル。
それを呆然と見るラリス団長さん達と笑って見ているセイゼルクさん達に苦笑する。
「騒がしくてすみません。えっとジナルさん?」
私は、どうしたらいいんだろう?
「あぁ。えっと、さっき話したアイビーがテイムしているスライム達だ。ラリス団長から自己紹介してくれ」
「スライムに自己紹介するなんて不思議な感じね。私は自警団で団長をしているラリスよ。宜しくね」
ソラを見ていたジナルさんが、揺れない事が分かると安堵した表情を見せた。
「俺は自警団で討伐隊副隊長のオグートだ。これから宜しく頼むな」
「次は俺だな、バンガの仲間でジックだ。冒険者をしている。宜しくな」
3人の自己紹介が終わると、静まる食堂。
ジナルさん達の視線が、ソラに注がれる。
そして、全員が安堵の表情を見せた。
「揺れないか、良かった」
「ジナル、何が良かったなの? 自己紹介中、皆おかしかったわよ?」
ジナルさん達の様子にラリス団長さんが声を上げる。
「それは……」
ジナルさんは、言葉を切ると思案する様に口を閉じた。
何を話そうか迷っているのだろうか?
「お父さん、良い?」
「いいぞ。アイビーの判断を尊重する」
ソラはここにいる皆に揺れなかった。
私はソラの判断を信じる。
「ソラは。人を判断出来るんです。私の味方か敵か」
私の言葉を聞いたラリス団長さんが目を見開く。
そしてソラを見て、私を見て、最後にジナルさんに視線を向けた。
「本当だ。そして、その判断を俺は信用する」
「そう。分かった。凄いのね、えっとソラというのは……」
「ぷっぷぷ~」
「あなたなの? ありがとう」
ラリス団長さんがソラに頭を下げる。
「あぁ、こんな子が私の下にもいたら、自警団の中にいた裏切り者を次々ぶっ殺していったのに!」
あれ?
今「ぶっ殺して」と言った?
見つけるではなく?
「ぺふっ!」
「あっ!」
ソルが私の腕から勢いよく飛び出す。
そして真っすぐジックさんの下に飛び跳ねた。
「えっ? 何だ?」
慌てた様子のジックさん。
その隣にいたバンガさんが、ソルを払おう振り上げたジックさんの腕を押さえつけた?
「はっ? バンガ?」
「大丈夫。治療だ」
「なんのだ? うわぁ……」
暴れるジックさんを、抑え込むバンガさん。
ラリス団長さんが、慌てて立ち上がろうとするのをフラフさんとジナルさんが止める。
「大丈夫だ」
「いや、大丈夫ではないわよね? 食べられているわよ」
ジナルさんの言葉に、眉間に皺を寄せるラリス団長さん。
「まぁ、食べられている様にしか見えないわよね。でも、大丈夫なのよ」
楽しそうに笑って言うフラフさんにラリス団長さんは力を抜くと、ジックさんを見た。
「ぺふっ!」
楽し気にジックさんから離れるソル。
そしてそのまま、彼の周りで飛び跳ねる。
「次は呪具を出せっと催促だな」
「そうだろうな」
ソルの行動に笑うセイゼルクさんとヌーガさん。
そんな2人とソルを見ながら、ジックさんが自分の顔を確かめる。
「何だったんだ?」
「だから治療だって」
バンガさんの言葉に首を傾げるジックさん。
「ところで、何をしているんだ?」
「呪具の入っている木箱を……あった」
ジックさんの疑問に、マジックバックから木箱を取り出しながら答えるバンガさん。
そのまま木箱を開けようとしてジックさんに止められる。
「何を考えているんだ。こんな場所でこれを開封するなんて!」
「大丈夫。ソルが解決してくれる」
「えっ?」
ジックさんが首を傾げ、足元で飛び跳ねているソルを見る。
「この子?」
「そう。呪具の中にある魔力を食べてくれるんだ」
「はっ?」
意味が分からないという表情をするジックさんに、バンガさんが笑う。
「まぁ、そうなるだろうな。見てろ」
木箱の蓋を開け、ソルの前に置くバンガさん。
「どうぞ」
「ぺふっ! ぺふっ!」
ソルは嬉しそうに鳴くとそのまま木箱に突っ込んだ。
木箱を覗き込むバンガさんとジックさん。
しばらくするとジックさんが「ははっ、本当だ」と小さく呟いた。
あれ?
ジックさんが苦しそうな表情をしている?
いや、悲しそう?
……見なかった事にした方がいいのかな。
そっと視線を逸らすと、ジナルさん達が険しい表情で窓から外を見ていた。
どうしたんだろう?
バターン。
全員が武器を手にするのが見えた。
「フラフさん! 大変です! ジナルさんとオグート副隊長、それにラリス団長が襲われました! 今、仲間が彼等を探しています」
食堂に、微かに焦げ臭いにおいをさせた男性が駆け込んで来た。
お父さんとシファルさんがソラ達を回収して、私が持つバッグにそっと入れる。
あっ、ソルは木箱の中だ!
良かった、バンガさんが木箱の蓋を閉めてくれた。
「落ち着いて ジナル達なら――」
「目撃した者の話では、致命傷だから助からないだろうって。でも、探しても遺体もなくて。もしかしたら敵が彼等を連れて行ったのかもしれないと、仲間が慌てています」
「おい、落ち着け!」
ジナルさんの声に男性が視線を向ける。
これで大丈夫だね。
「あっ、ジナルさん。今、探していますからもう少し待ってくださいね」
んっ?
男性の言葉に全員が首を傾げる。
「フラフさん。奴等が、ジナルさん達を連れて行くとしたら何処だと思いますか?」
「あなたが、もの凄く混乱している事が分かったわ」
あぁ、凄く混乱しているのか。
「大丈夫です。これでもさっきよりは落ち着いていますから!」
さっきはどんな感じだったんだろう?
「お・ち・つ・い・て!」
フラフさんに大音量で怒鳴られる男性。
「な、なんですか!」
「深呼吸しなさい」
「はいっ」
男性が深呼吸をすると、フラフさんがジナルさん達の方を見る。
男性が彼女の視線を追って、目を見開く。
「生きてる?」
「あぁ、生きてる。だから安心しろ」
ジナルさんが呆れた様子で言うと、男性がその場に座り込んだ。
「良かったぁ」
うん、分かってくれて本当に良かった。




