表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/1143

99話 組織を追い詰めるため

-バークスビー団長-


町の門に近づくと、門番を務めている自警団員達が姿を見せた。

1時間もせずに戻って来た俺達に、驚いた表情を見せている。

さっき門を出ていく時は、討伐隊の多さに同じ顔をしていたな。

まぁ、55人の討伐隊なんて数十年に1度あるかないかだから仕方ないか。


「団長、どうしたんですか? それにあの、後ろの仲間はいったい……」


一番の年長者で自警団員達のまとめ役であるマルセが、俺達より少し後を歩く集団を見て戸惑った表情で尋ねてくる。

彼の視線に入ったのは、両手を後ろで縛られ、腰を縄で繋がれている裏切り者の自警団員達だ。

マルセ以外の自警団員達も気が付いたようだ。

仲間達の姿に衝撃を受けている様子。

何が起こっているのかと、繋がれた仲間達と俺を見比べている。


「奴らは俺たちを裏切り、この町で一番の問題となっている組織に加担していることが判明したので拘束した。奴らを檻に入れ、見張るように」


少し声を張り上げ、全員に状況を説明する。


「えっ…………。分かりました。人数が多いので門番棟にある檻と詰所にある檻を両方使ったとしても3人ずつとなりますが、構いませんか?」


俺の言葉に、何を言われたのか一瞬理解できないような表情を見せるマルセ。

だが、そこは自警団に長年勤めてきた経験がものを言うのだろう。

すぐに気持ちを切り替えたようだ。


「いや、檻には3人ではなく5人ずつにしておいてくれ」


俺の言葉に、すっと捕まっている者達に視線を走らせる。

数を確かめているようだ。

そして数を数えきったのか、首を傾げている。


「ここにいる奴ら以外にも、昨日作った拠点にまだ残りの裏切り者がいる」


マルセは俺の言葉に一瞬だけ動きが止まり、悲しみと怒りが混ざった複雑な表情を見せる。

だが、それも一瞬ですぐにいつもの顔へと戻った。


「分かりました。檻ですが、5人ずつにしておけば足りますか?」


足りるのか?

拠点にどれだけの人数が押し寄せているのか、まったく分からない。

それに、犯罪者集団の事もあるしな。


「いや、2ヶ所では足りない。冒険者ギルドと商業ギルドの全ての檻が借りられるように、話を通しておいてくれ。それで足りてくれればいいが……」


「そんなにですか? 分かりました」


両ギルドの全ての檻と言った瞬間、少し目を見開いたマルセに苦笑いが浮かぶ。

そんな俺の表情を見て、彼も悲しさを含ませた笑みを浮かべた。

長年自警団員として勤めてきたが、今回はつらい仕事だ。

彼は、軽く俺に頭を下げてから、まだ呆然と仲間達を見つめている自警団員達のもとへ足を向ける。


「おい! いつまで呆けている。仕事しろ! 裏切り者を門番棟の檻に放り込め。何を言われても耳を貸すな。相手はもう仲間ではない、俺達を裏切った犯罪者だ。気を引き締めろ!」


『はっ、はい』


「1つの檻に5人ずつ入れていけ。残りは詰所の檻だ。見張りに人手が足りない。非番の奴らに緊急集合をかけろ」


『はい!』


他の自警団に活を入れる姿に、ホッと力が抜ける。

元仲間だからと言って、いつまでも戸惑われていては困るのだ。

特に心に隙があると、話を聞いて同情し逃がしてしまうかもしれない。

そんな心配から見張りに付ける団員を討伐隊から選ぼうかと考えたが、マルセがいるなら大丈夫だな。

他の団員達も、彼の気迫に気持ちを切り替えられたようだ。

迷いを見せない動きで、犯罪者達を移動させている。


「アグロップ、見張りはマルセ達に任せても大丈夫だろう。捕まった奴らが暴れた時に、押さえつけられる数名だけを置いて、あとは拠点に向かわせてくれ」


「分かりました」


アグロップは見張り役を5名選んで指示を出している。


「団長、拠点へ戻る人数をもう少し増やせないかな?」


捕まえた冒険者たちを、自警団に引き渡したマールリークが聞いてくる。

それに首を傾げる。

拠点へ入り込んだ者達は、眠り薬で眠らされているはず。

そのため、それほど人数は必要ない。


「何か、あるのか? 人員はまだあるとは思うが……」


「自警団員を総動員すれば、人員は確保できますが。どうかしましたか?」


丁度、アグロップが戻って来たようだ。

人員に対しては俺よりアグロップの方が分かっているので助かった。


「あれ? 拠点周辺に潜んでいる組織の者をあぶり出す予定なんだけど、聞いてないのか?」


『はっ?』


おぉ~、アグロップと声が合うのは本日2回目だ。

って、そんな事はどうでもいいな。


「どうやるつもりなんだ? 難しいだろ?」


「ん? 拠点周辺にいる人を全員マジックアイテムで判定する予定だけど……」


顔が引きつるのが分かった。

確かに潜んでいる者を確実に捕まえるなら、その方法が一番いいだろう。

だが拠点周辺って、いったいどれだけの人間を調べるつもりなんだ?


「まさか、その作戦はあの子が?」


「そう。すごい事を考え付くよな」


「ぷっ、ククク。あの子とは、全てが終わったらゆっくり話がしてみたいですね」


アグロップが、小さく笑い声をあげる。

何と言うか、本当に何者なんだ? あのアイビーって子供は。


「既に、ギルマスと問題のない冒険者達が動いているはず」


「ん? 冒険者達は調べ終わったのか?」


「それはまだ。拠点周辺を調べ終わったら取り掛かるって聞いた。だから人手が足りないんだよ」


「そうか。しかし、ここまで一気に手を広げて捕まえていく理由でもあるのか?」


少し急ぎ過ぎているような気がする。

それとも、必要な事なのか?


「ん? 確か……自警団、冒険者、拠点周辺の組織関係者が一斉に捕まれば、組織は情報が洩れている事を疑うはずだって。そうなれば動きは鈍くなるだろうって、シファルが言っていたけど」


「一斉に捕まえると、組織が情報漏洩を?」


「えっと、シファルがアイビーに話していたのを、近くで聞いただけだから。詳しくは2人に聞いてくれ」


「ハハ、了解。しかしそれで問題ないのか?」


「……組織に打撃を与えられる事はわかっているから問題なし!」


……単純でいいな。

まぁしかし、よく思いついたな。

確かに、潜り込ませていた手の者達が一斉に捕まったとなれば、情報漏洩を疑うな。

マジックアイテムで調べているのだが、それも昨日急に出て来た代物だ。

組織はまだ、その情報の信憑性を確認していないはずだ。

いや、マジックアイテムの存在はまだ俺達側の数名が確認しただけだ。

存在そのものを、まだ知られていない可能性が高い。


だからこそ、今なのか?


マジックアイテムで調べていると分かってしまえば、情報漏洩の線は消える。

調べている方法が知られていない今だからこそ、組織を追い詰めるための準備の時間が作れるのか?

確かに作戦が上手くいけば、組織の連中が情報漏洩を一番に疑う環境を作ることが出来る。

それだけではない、内部に裏切り者がいる可能性まで考えるかもしれない。

今までなら、潜り込ませていた者達を使って調べていただろう。

だが、今回は既に捕まっているため使えない。

この状況でこちらの動きを調べるとしたら、かなり慎重なものとなる。

しかも、どこまで情報が漏れているのか不明な事が、その動きをもっと遅くするだろう。

そうか俺達の働きで、組織の動きを一時的に止める事が出来るのか。

奴らが動けない間に、俺達はあの見つけた書類の信用性を確かめて証拠を固めていく。

その為には、少し無茶な作戦だとしても組織の連中を捕まえる必要がある。


……これを9歳の子供が考えたのか?

アグロップではないが、全てが片付いたらゆっくり話がしたいな。


「そう言う事でしたら動ける人員を、全員集めて来ます。と言うか、総動員させます。どの辺りから拠点に向けて制圧していきますか?」


……制圧って違うだろうが。

しかし、アグロップも俺と同じ考えになったようだ。

心なしか声が上ずっている。

ずっと追い詰められる側だったのが、いきなり逆の立場になれる可能性が出てきたのだ。

興奮しない方がおかしいか。


「アグロップ、興奮して失敗するなよ」


「当たり前です。ここまであの子がお膳立てしてくれたのです。失敗など出来るはずがありません」


確かに。

失敗したらあの子に顔向けできないな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 特定案件に絞った善悪を判断出来る超優秀過ぎるソラの神様のような能力とアイビーちゃんの推理無双のおかげで、もう少しで討伐完了だね。この力があれば、かの村のザマーも出来るかな。 [気になる点]…
[一言] 貧乏な野宿をしながらゴミを漁って、小動物の肉を売っているのが面白くて読み始めたのですが、このところ町で姫プレーされながら、読み飽きられた才女ごっこの物語になってしまいましたね 小説全体が高…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ