936話 残骸と……
大通りを外れ民家が並ぶ通りを歩く。
「なんだろう?」
家を見て首を傾げる。
何か違和感があるんだけど……。
「あっ、どれも同じだ」
色は少しずつ違うけど、同じ形の家が並んでいる。
それに、この通りにある家はどれも新しい様だ。
「そうみたいだな」
「変だね」
家は必要な者が個々に建てる。
そのため、同じ形の家になる事はほとんどないのに。
「集団で移動したみたいだな」
集団で移動?
首を傾げながら、お父さんを見る。
「村や町の長が、住民を強制的に移動させる場合がある」
「どうして?」
「住んでいる場所に問題が出た場合や、その土地に重要な建物を作る場合だ」
「そうなんだ」
「あぁ。そんな時は、この通りみたいに同じ形の家が建ったりする。その方が早く家を建てられるし、出費も抑えられるから」
それって、住民は納得しているのかな?
問題が出た場合は仕方ないんだろうけど、重要な建物だったら別の場所に建ててって思いそう。
「この奥の通りも、ここと同じだな」
お父さんの視線を追って、奥の通りを見る。
確かに見える範囲の家は、この通りの家と同じ形だ。
「向こうも見ていい?」
「いいぞ」
お父さんと大通りから奥に向かって歩く。
次の通りにある民家もやはり同じ形の色違いの様だ。
「次もだね」
「あぁ、ちょっと多いな」
確かに通り3本に同じ形の家が建っている。
つまり、それだけの住民が移動した事になる。
「これだけの数だと、彼等の住んでいた場所に問題があったのかもしれないな」
「それなら仕方ないね。えっ?」
民家の間から見えた光景に足が止まる。
「どうした?」
「あれ……」
私が指した方を見たお父さんの眉間に皺が寄る。
「近付いて大丈夫かな?」
「ん~、遠くから見るだけだぞ」
お父さんの言葉に頷くと、今いる通りから奥に向かう。
「凄い」
民家のある通りから出ると、広場の様な場所に出る。
そしてその奥に大きな建物が並んでいた。
「崩れているな」
「うん」
大きな建物はどれも大きく破損していた。
まるで襲撃を受けた様に見える。
「あっ」
微かにした焦げた臭い。
そして何かが腐った臭いに鼻と口を押さえる。
「近付いたら駄目だよ」
近くから聞こえた声に、慌てて視線を向ける。
お父さんも少し慌てたのが分かった。
「どうして駄目なんですか?」
視線の先には、建物を見つめる70代ぐらいの女性。
その女性が、私とお父さんを見る。
「あれは教会が作った研究所だったのよ。あそこで……いえ、なんでもないわ。まだ何が起こるか分からないから、近付いたら危ないわ」
女性から1歩距離を取る。
この女性、目の前にいるのに気配を感じない。
見た目は弱そうだけど、違うのかな?
「そうなんですね。教えていただきありがとうございます」
お父さんが小さく頭を下げたので、私も頭を下げる。
「ふふっ。どういたしまして」
嬉しそうに笑う女性に、少しだけ体から力を抜く。
「ごほっ、ごほっ」
「大丈夫ですか?」
「えぇ、大丈夫よ」
あれ?
今、女性の手に血が見えたけど。
もしかして今の咳で?
「家はどこですか? 送ります」
お父さんの言葉に、女性は驚いた表情をする。
「心配してくれたのね、ありがとう。でも、大丈夫よ。この体には、もう慣れたわ」
女性が自分の手を見る。
そして悲しそうに笑った。
「アルアス!」
「あら、友達が迎えに来たわ。ふふっ、心配性なんだから。もう行くわね、さようなら」
「「さようなら」」
50代ぐらいの男性が、女性の下に駆け寄る。
そして、体を支える様に歩きだす。
「あの男性も足が悪いみたいだな」
「うん」
お父さんが大きな建物を見る。
そして、女性達が歩いて行った方を見る。
「彼女は、被害者なのかもしれないな」
お父さんを見る。
「研究所の?」
「うん」
そういえば、彼女は研究所の説明の時に言葉を途中で止めた。
あの続きは、何を言おうとしたんだろう?
きっと、良い言葉ではないんだろうな。
「戻ろうか」
「そうだね」
お父さんと大きな建物を見ながら歩きだす。
「この建物全部が研究所だったのかな?」
大きな建物は、全部で17個。
多過ぎると思う。
「どうかな? 教会の奴等は色々とやっていたから」
「そっか」
17個目の建物に近付いた時、バッグが揺れた。
「えっ?」
「どうした? もしかして揺れたのか?」
私の視線に気付いたお父さんが、ソル達の入っているバッグを見る。
「うん。揺れてる」
バッグに手をあて、お父さんを見る。
お父さんはバッグにそっと手を伸ばし、そして大きな建物を見る。
「この建物だろうな」
「たぶん」
17個目の大きな建物の前に立つ。
広場が間にある為、少し距離はあるけど揺れ方が大きくなった。
「ジナルに報告する事が多くなるな」
「そうだね」
仕事を多くしている様で、ちょっと罪悪感が湧く。
でも、仕方ないよね。
ソルが教えてくれたんだから。
「散策をすればするほど、調べる場所が多くなりそうだな」
「うん」
お父さんが私を見る。
「ジナルには諦めてもらうしかないな」
「そうだね」
ソルが反応した建物から離れる。
「ソル、ありがとう」
ソルの揺れが落ち着いた頃、バッグに手を添えてお礼を言う。
「あっ、ちょっと激しく揺れた。返事かな?」
「きっとそうだろう」
笑ってもう一度ソルにお礼を言うと、民家が並ぶ通りに出た。
「この辺りは普通だね」
家の形も色もばらばらで、他の町や村と変わらない。
「そうだな。あっ、奥に畑がある」
お父さんの視線を追うと、広大な畑が見えた。
そこでは多くの人が働いているのか、賑やかな声が聞こえてくる。
そういえば、さっきの通りは異様に人がいなかった。
そのせいか、凄く静かな通りだったな。
「そっちに行ったぞ」
「うわっ、ごめん。逃げられた!」
若い男性の声に首を傾げる。
何かを追いかけているみたい。
「あっ、もしかしてノースかな?」
「たぶんそうだな。ノースの根絶は無理だから、ある程度数が少なくなったら若い冒険者達の仕事になるんだ」
「そうなんだ」
だから聞こえてくる声が若いのか。
「うわっ、溝に嵌った」
「きゃぁ、こっち来たぁ」
若い女性もいるみたい。
「あれで大丈夫?」
「まぁ、経験だから」
経験かぁ。
「馬鹿か! 剣をノースに放り投げるな。だいたい、剣の使い方を間違ってんだろうが!」
「仕方ないだろう、飛び掛かってくるんだから」
経験?
なればいいね。
「あれ? さっきの壁と同じ物? あぁ、この奥に光の森があるのか」
光の森を囲う様に建てられた壁を見る。
「壁沿いに行けば、大通りに出られそうだね」
大通りの方を指すとお父さんが頷く。
あれ?
光の森が近いのにソルが反応していない。
大通りに向かいながら首を傾げる。
「お父さん、光の森にある教会にはここから遠いの?」
「あぁ、教会は入り口の近くにあるから」
そっか、だからソルは反応しないんだ。
そういえば私は、光の森にある教会にいたんだったな。
あの時は気付いたら教会の中にいて、逃げる為に木の魔物になって……どっちに向かったんだろう?
「私は木の魔物になってどこに逃げたの?」
「光の森の奥だな。さっき見た出入り口と反対側」
奥だったのか。
「あっ」
そうだ。
あの時に見た夢?
違う、あれは魔法陣を作った方達と木の魔物の過去だ。
なぜ、あんな悲しい過去を見たんだろう。
「アイビー、どうした?」
お父さんが心配そうに私を見る。
「お父さんには話したでしょ? 木の魔物になる前に見た過去の話し」
「うん」
「あの時は、色々な事があって思わなかったけど。どうして過去を見たのかな?」
お父さんの手が優しく私の頭を撫でる。
「お父さんは分かる?」
「いや、分からない。ただ、アイビーの近くには大きな魔石があった。もしかしたらその魔石が見せたのかもしれないな」
魔石?
あぁ、教会の中央にあった巨大な魔石の事か。
確か魔石に向かって願いを言えって、言われたんだっけ。
「消えちゃったんだよね、あの魔石」
「あれ? 言い忘れていたか?」
お父さんを見る。
「それが嘘だったんだ」
えっ、嘘?
「何所にあったの?」
「教会にあったんだよ」
「えっ?」
「まぁ、見つかったのは魔石の残骸だけどな、粉々だったそうだ。その後は、どうなったのか聞いていないな」
あれ?
魔石を目の前で見たはずなのに、大きな魔石だった事した覚えていない。
色は……どんな色だったっけ?
「セイゼルク達がいるぞ」
お父さんの言葉に視線を向けると、私達に気付いたのか彼等が手を上げた。
すみません、教会にあった魔石について修正しました。
教えていただきありがとうございます。
ほのぼのる500




