934話 まずは右側
部屋から出ると、ラットルアさんと子供達も部屋から出てきた。
「行くのか?」
ラットルアさんの言葉にお父さんが頷く。
「あぁ、ラットルアは留守番か?」
子供達を連れて調べに行く事は出来ないからね。
「あぁ留守番だ」
「これから何をするんだ?」
「ん~、どうしようかな。宿の外は、ちょっと不安だしな」
呪具の事もあるからね。
「あの……」
アルースさんがラットルアさんの腕を掴む。
「どうした?」
「えっと、魔物の勉強がしたいです」
期待を込めた目でラットルアさんを見るアルースさん。
その隣でミルスさんも彼を見る。
「魔物の勉強?」
「はい。ラットルアさんは凄い冒険者だと聞きました。魔物の特徴とか倒し方を聞きたいです!」
2人から期待を込めた目で見られたラットルアさんは、少し恥ずかしそうな表情をする。
「分かった。食堂でお菓子を食べながら勉強しようか」
「「やった」」
嬉しそうに笑うミルスさんとアルースさん。
その表情につられる様にグーミさんも嬉しそうに笑っている。
「「「行ってらっしゃい」」」
元気な子供達の声に手を振り、宿を出る。
「お父さん、どこから行く?」
お父さんの隣を歩きながら彼を見る。
「門から大通りに向かって右側を最初に散策しようか」
「分かった」
町の門に着くと大通りの右側を、店を眺めながらゆっくりと歩く。
ソルには、呪具の魔力を感じたら揺れて欲しいとお願いしてある。
お店を1件、1件ゆっくりと眺めながら歩くと、ソルの入っているバッグが揺れた。
「お父さん」
「この辺り?」
「うん。そうみたい」
「あぁ、それだったら大丈夫」
大丈夫?
首を傾げてお父さんを見ると、ある建物を見ていた。
「地図に載っていた場所の1つだ」
あぁ、既に呪具に関係している場所だと分かっているところか。
「良かったね。分かっている場所で」
「そうだな。でも、物がここにあるという事だな」
あぁ、そうか。
ソルが反応したという事は、ここに呪具があるかもしれないんだ。
「後で、ジナル達に報告だな」
「うん」
ソルの反応した場所を通り過ぎると、チラッとセイゼルクさんの姿が見えた。
「彼がこの辺りを担当しているみたいだな」
「何か分かればいいけどね」
「そうだな。あっ!」
お父さんが急に立ち止まると、窓から店の中を覗き込む。
「何を売っているの?」
お父さんの隣で私も店を覗き込む。
どうやら髪留めを売っている店みたいだ。
「どうしたの?」
何か気になるんだろうか?
「あれが、可愛いなって思って」
お父さんが指したのは、ガラス玉が装飾されている髪留めの様だ。
「確かに可愛いね」
ガラスの色が沢山あって、好きな色を選べるみたい。
「近くで見てみよう」
お父さんがお店に入ると、見ていた髪留めを取る。
「アイビー」
手招きしているお父さんの傍によると、手に取った髪留めを私の髪に近付けた。
「こっちより、青い色の方がいいかな? いや、赤か?」
お父さんを見ると楽しそうに選んでいる。
「お父さん、ごめん。髪は切ろうかと思っているんだけど」
少し長くなった髪を触る。
今は必要かもしれないけど、短く切ったら必要ない。
「えっ? どうして?」
驚いた表情のお父さんに視線を向ける。
「旅をしていと邪魔になるし。これから暑くなるから」
なんだか凄く悲しい表情をされてしまった。
長い髪が好きなのかな?
「髪留めで纏めてしまえば、邪魔にはならないよ。絶対に」
お父さんの説得に、つい笑ってしまう。
「お父さんは、長い髪が好きなんだね」
「いや、髪の長さなんて気にした事はないな」
あれっ、違った。
「ただ、アイビーには長い髪が似合うから、切るのはもったいないと思ったんだ」
「似合う?」
お父さんの言葉に目を見開く。
似合うか、似合わないかなんて考えた事がないので不思議な気持ちになる。
「うん。短い時は可愛くて、長い時は綺麗かな」
「そう、かな?」
お父さんを見る。
揶揄っている様子はないので本心なのだろう。
もの凄く恥ずかしい。
「やっぱり買おう。髪は切っても、まだ伸びるからな」
お父さんはガラスが装飾された髪留めを真剣な表情で見比べると、2本を手に会計に向かった。
「はい」
お父さんから渡らされた青と緑のガラスが装飾された髪留めと赤と白のガラスが装飾された髪留めを見る。
ガラスがキラキラと光りを反射してとても綺麗だ。
「ありがとう、嬉しい」
宿に戻ったら使ってみよう。
「行こうか」
「うん」
お店に並ぶ商品をお父さんと見ながら、次々とお店を通り過ぎる。
「ここは」
お父さんが立ち止まった店の看板を見る。
「本屋さんだね。お店の中は、見えないか」
お店は通常、中が見える様に通りはガラス使った窓のところが多い。
でも目の前の本屋は、窓はなく葉っぱや枝が描かれた壁になっていた。
壁を見ていると、なんとなく違和感を覚える。
それに首を傾げる。
なんだろう?
この壁に描かれている絵を見ていると、変な感じがする。
「ここは、アイビーが来たがっていた本屋だ」
私が来たがっていた?
あっ、占い師さんが持っていた本と同じ本がある本屋!
「行きたいけどジナルさん達と来る約束しているし。それにお店は、閉まっているみたいだね」
定休日なのかな?
お店の扉にある小さな窓から、店内が真っ暗だと分かる。
「そうだな。まぁ、落ち着いてからの方がいいだろうしな」
確かに。
色々と心配事があると、ゆっくりと本を楽しめないからね。
「次はジナルさん達と来ようね」
「あぁ、そうだな」
本屋を通り過ぎ、振り返る。
やっぱり壁に描かれている絵が気になるな。
「どうした?」
どう言えばいいのだろう?
「本屋の壁に描かれていた絵」
「うん?」
「何となく見ていると変な感じがして」
上手く説明出来ないな。
「変?」
「うん」
お父さんが不思議そうに本屋の壁を見る。
そして首を傾げた。
「お父さんは感じない?」
「うん。特には何も」
それだったら私の気のせいなのかな?
「お父さん」
本屋から少し歩くと、ソラ達が入っているバッグに小さく揺れを感じた。
「反応したのか?」
お父さんの言葉に頷く。
「揺れはまだ小さいけど。この辺りは、地図に載っていたもう1つの場所なのかな?」
「違う」
という事は、まだ知られていない場所だ。
周りを警戒しながら歩いていると、バッグの中にいるソルが激しく揺れ始める。
「お父さん」
私の言葉にお父さんが頷く。
「この白い建物か?」
お父さんと目の前にある白い建物を見る。
「行ってみよう」
お父さんの続いて、白い建物に近付く。
「なんだか、甘い匂いがするね」
白い建物に近付くと、甘くて香ばしい匂いがした。
「甘味?」
まさか、呪具の魔力が反応している建物は甘味を売っているお店なの?




