931話 パクン
「で、アイビーのテイムしているスライムが呪具を破壊出来るのか?」
えっ、話が戻った?
「はい。たぶんですが」
真剣な表情をしたバンガさんに頷くと、微かに安堵の表情が見えた。
「バンガは相変わらずだな」
「あ~、それは……」
お父さんの言葉に、困った表情をするバンガさん。
そんな2人を見て首を傾げる。
「悪い。相手をある程度観察してからじゃないと、微かな表情の変化は分からなくて」
あぁつまり、私が本当の事を言っているか表情から確かめたかったのか。
「いいですよ。気にしていないです」
バンガさんを見ると、申し訳なさそうな表情をしている。
「アイビー」
ジナルさんを見る。
「ソルを連れて来てもらえないか?」
「うん、分かった」
あっ今のソルは、丸いんだった。
あれ以上に食べさせて大丈夫かな?
「どうしたんだ?」
ジナルさんを見ると、心配そうな表情で私を見ている。
「今のソルは食べ過ぎで丸くなってて」
私の言葉にセイゼルクさん達が小さく笑う。
「食べ過ぎで丸く?」
ジナルさんは、不思議そうに首を傾げる。
「うん。今ソルは、沢山食べたせいでまん丸なんです」
両手で丸い形を作ってみせる。
「食べ過ぎは体に悪い……のか?」
私を見るジナルさんに首を傾げて見せる。
「それは、分からないけど」
どうしよう。
ソルに聞けば「絶対に食べる」と、言うだろうし。
「とりあえず、ソルに調子を聞いてから判断しようか。俺も一緒に行くよ」
お父さんの言葉に頷き、借りている部屋に戻る。
「「ただいま」」
「ぺっ……ポン」
んっ?
今の音は何?
「ぺっ……ポン。……ポン」
あっこの音は、フレムが魔石を生む時に似ている。
最初の声が違うけど。
「「まさか」」
お父さんと顔を見合わせ、ソルの姿を探す。
「うわ~」
「これは、凄いな」
部屋の一部に積まれた黒い魔石の山。
いったいいくつ生み出したのか。
「ぺふっ!」
私とお父さんの姿を見て、飛び跳ねるソル。
その姿は、丸くないくいつも通りの姿だ。
「魔石を生み出して体を元に戻したの?」
「ぺふっ」
自慢気に胸を張るソル。
その頭を撫で、近くに転がっている黒の魔石を手に取る。
「綺麗だね」
手の中で黒く光る魔石。
お父さんも1つを手に取り、頷いた。
「ぺふっ!」
ソルを見ると、期待を込めた目で私を見ている。
体が元に戻っている以上、心配事はない。
「そんなに気になる魔力なの?」
「ぺふっ!」
興奮気味に鳴くソルに笑ってしまう。
「ぷっぷ~?」
「てっりゅ~?」
ソルの様子に首を傾げる、ソラとフレム。
2匹は、ベッドの上から床に転がっている魔石を見て不思議そうな表情をした。
「ソルの魔石だよ。気になる魔力があって食べたいから、魔石を生み出して体型を元に戻したみたい」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
納得した様子のソラとフレムの頭を撫でる。
「師匠さんの孫でバンガさんと言う方がいるんだけど、ソルはこれから会いに行くの。皆はどうする? 一緒に行く?」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「にゃうん」
勢いよくベッドから下りるソラとフレム。
シエルはベッドから下りると、スライムに変化した。
ソラ達を専用のバッグに入れて、会議室に向かう。
コンコンコン。
「どうぞ」
フラフさんの声に扉を開ける。
「待たせたな」
お父さんの言葉に、バンガさんの視線が私に向く。
「あれ? いない?」
お父さんと私が何も抱えていないのを見て、残念そうな表情をするバンガさん。
そんな彼の様子にお父さんが笑う。
「アイビーが持っているバッグの中だ」
私が肩から提げるバッグを見て、身を乗り出すバンガさん。
そんな彼の態度に笑いつつ、ソラ達が入っているバッグを開ける。
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ!」
「にゃうん」
勢いよくバッグから飛び出す4匹。
ソラとフレムとシエルは、バンガさんとフラフさんを興味津々に見る。
ソルだけは、一直線にバンガさんの下に向かった。
「ぺふっ!」
「うわっ」
勢いよくバンガさんの胸に飛び込むソル。
「凄いな」
「うん」
ここまで興奮しているソルを見るのは初めてで驚く。
「ぺふっ! ぺふっ!」
バンガさんの腕に中で興奮状態のソル。
それを見て少し心配になる。
本当にバンガさんが持っている物に反応しているんだよね?
バンガさんではないよね?
「うわっ、ちょっと待てって。落ち着け」
腕の中で暴れるソルに、戸惑った表情になるバンガさん。
「ドル兄。何とかしてくれ!」
スライムの扱いが分からないのか、お父さんに向かって叫ぶバンガさん。
そんな彼の様子が面白かったのか、会議室に笑い声が響く。
「そんなに焦るなよ。別にソルはバンガを食べたりしないから」
パクン。
「「「「「……」」」」」
えっ?
ソルがバンガさんの頭を食べてる。
……うん、食べて。
「ソル! バンガさんではないって言ったのに!」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
焦った私の周りをソラとフレムが飛び回る。
そんな2匹を見て、焦った気持ちが少し落ち着く。
「あれは、大丈夫?」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
大丈夫なんだ。
ぴょん。
バンガさんから離れたソルは満足気にプルプルとテーブルの上で震える。
バンガさんを見ると、目を見開いて固まっていた。
そんな彼の肩をお父さんがポンと叩く。
「大丈夫か?」
「い、ま、俺……食べられたよな?」
バンガさんの言葉にお父さんが少し考えこむ。
「ソル。バンガに何か問題があったのか?」
「ぺふっ!」
問題があった。
「魔法陣の影響か?」
あっ、呪具に込められた魔力が溢れていたのなら、バンガさんに影響が出てもおかしくない。
「ぺふっ!」
正解か。
「呪具のせいなのか?」
お父さんが頷くとバンガさんが溜め息を吐いた。
「守り石で凌げなかったのか」
バンガさんがズボンのポケットから、大量の守り石を出す。
「あっ、割れてる」
バンガさんの唖然とした様子で割れた守り石を持つ。
「他の守り石も結構割れているぞ」
「えっ?」
シファルさんの指摘に、守り石を見るバンガさん。
「本当だ。小さなヒビが入っている物も多い。というか、ほとんど全部に問題が起こっているな」
だから、バンガさんを守り切れなかったのか。
「やばい。他の仲間に知らせないと」
ジナルさんが真剣な表情でバンガさんを見る。
「バンガだけではなく、他にも呪具を持ち歩いている者がいるのか?」
「あぁ、10本以上を纏めると溢れる魔力が増えるんだ。だから小分けしてこの町に持ってくる事になったんだ」
あれ?
どうしてわざわざこの町に持って来たんだろう?
「ぺふっ!」
ソルの鳴き声に視線を向けると、部屋の片隅に置かれた木箱の上に乗る姿が見えた。
「本当に呪具の魔力に反応しているんだな」
バンガさんの言葉に、木箱の中に呪具が入っている事に気付く。
「ぺふっ! ぺふっ!」
木箱の上で揺れるソル。
待ちきれないのか、ジッとバンガさんを見ている。
「ソルの反応している物は、間違いなく呪具だな。とりあえず、1つだけソルに与えてみてくれ」
ジナルさんの言葉にバンガさんは頷くと、木箱の上にいるソルを床に移動させる。
次に傍に置いてあったマジックバッグから小さな魔石がはまった手袋を取り出すと着けた。
「短時間だったら、呪具からの影響は受けないから」
バンガさんの言葉にジナルさん達が頷くと、木箱から呪具を1つ取り出した。




