930話 ソルの反応した物?
「そろそろ、問題について話そうか」
ジナルさんの言葉に、全員の表情が引き締まる。
「まずバンガ、王都で起こった問題について話してくれ」
ジナルさんがバンガさんを見る。
「分かった。4ヵ月前に、ある殺人事件が起こった。被害者と加害者の関係は夫婦で、殺されたのは奥さん。犯人は旦那。ただ、この旦那の方も奥さんを殺してすぐに死んでいる。この事件は自警団が調査をして、犯人が死んでいるため加害者死亡として片付けられた。ただ調べた自警団員の1人が、犯人の首に残された跡が気になると上に報告した。そしてその殺人事件から1週間後。恋人関係にある男女が死んだ。犯人は女性で、殺されたのは男性。そしてこの女性の首にも跡があった。そしてその3日後に起こった殺人事件の犯人にも首に跡があった。それで自警団が3つの事件について再調査を始めた」
殺人事件の犯人の首に跡?
「どんな形の跡なんだ?」
セイゼルクさんの言葉に、バンガさんがマジックバッグから紙を取り出しテーブルに広げた。
紙に描かれていたのは首飾り。
首に嵌る作りで、2本の細い線の間に透明の石が1つはめ込まれている。
派手さはないが、綺麗な作りだと思う。
あれ?
これ……どこかで見た様な気がするんだけど。
「これの燃えた跡が、首に残っていたんだ」
「燃えた?」
お父さんがバンガさんを見て首を傾げる。
「あぁ。これは魔法陣で作られた呪具なんだ」
魔法陣!
「この呪具を付けた者は、少しずつ狂っていくそうだ。そして誰かを殺すと呪具は燃えて消える。関係者が死ぬせいで誰から買ったのか、もしくは譲り受けたのか今のところ分かっていない」
そんな怖い呪具なら、見たと思ったのは気のせいなのかな?
でも、何か気になる。
最近かな?
うん、最近だと思う。
となると、捨て場に言った時か洗濯場に言った時だと思うんだけど。
「あとこの呪具は、かなり強い力を内包しているせいで魔力を防ぐ道具に入れても、力が溢れ出してしまうんだ。そして、その溢れた力に長期間晒されると付けていなくてもおかしくなってくる。これは呪具を調べていた調査員が次々と狂ったため分かった事だ」
「呪具の調査を詳しくは出来ないという事か?」
シファルさんの言葉に、バンガさんが頷く。
「この呪具のせいで、調査員6人と警備をしていた12人が死んだ。これ以上の被害は出せないと調査は中断された」
調べる事も出来ない呪具か。
「破壊は?」
「破壊しようとすると一気に力が解放される。そのせいで3人が死んだ。今は、封印する方法を探している」
まさか、破壊も出来ないなんて。
んっ?
バンガさんを見る。
彼の持ち物に反応しているソル。
ソルは魔法陣に籠められている力が、結構好きなんだよね。
その魔法陣で作られた道具。
ソルが反応しているのはもしかして……。
「バンガさん」
呪具が描かれた紙から私に視線を向けるバンガさん。
「今、その呪具を持っていますか?」
「えっ? そうなのか?」
私の言葉に、驚いた表情をするセイゼルクさん。
お父さんとジナルさんは、驚いた様子はない。
「あぁ。今、説明しようと思っていたんだが。数本、持っている。どうして、分かったんだ? ドル兄に言われて、新しい魔力を封じる箱に入れたばかりなのに」
バンガさんの話を聞いて、お父さんを見る。
「んっ? あっ、もしかして?」
お父さんもソルが反応していた事を知っているため気付いた様だ。
「うん」
「あぁ、そうだな。その可能性はあるな」
ジナルさんが、お父さんと私を見る。
「何を話しているんだ?」
「ソルが呪具に反応したかもしれない」
えっ、言って大丈夫なのかな?
バンガさんを見ると、不思議そうにお父さんを見ている。
「その反応というのは?」
「『気に入った魔力を食べたい』だな」
「あぁ、なるほど」
ジナルさんが納得した様子で頷くと、セイゼルクさん達も分かったのか頷いた。
「呪具に反応とか、魔力を食べたいってどういう事だ?」
バンガさんを見てジナルさんが笑う。
「もしかしたら、その呪具を破壊出来るかもしれないぞ」
「えっ! 本当に?」
ジナルさんが私を見る。
「アイビー、バンガにソラ達の事を話していいか?」
「うん」
「アイビーってテイマーなのか?」
バンガさんを見て頷く。
「へぇ、そうだ。最近珍しいスライムが目撃されている事を知っているか?」
珍しいスライム?
「今、それを話すのか? 後で話すつもりだったのに」
呆れた様子のジナルさんが、バンガさんを見る。
それにしても珍しいスライムってなんだろう?
「アイビーも気になるみたいだから、スライムの事から話すな。アイビーも無関係ではないし」
えっ?
「なんと、各地で黒いスライムと半透明のスライムが目撃されているんだ」
「えっ?」
ソラ達やソルと同じスライム?
「黒いスライムは、元オカンノ村周辺で多く目撃されている」
オカンノ村。
教会のせいで滅んでしまった村だ。
「原因を調査したところ、元オカンノ村の近くで黒くなり動けなくなった木の魔物が見つかった」
魔法陣を無効化すると、木の魔物は黒くなる。
おそらく崩れる事はなかったけれど、頑張り過ぎて動けなくなってしまったんだろう。
「その黒くなった木の魔物の近くに、黒いスライムが沢山いたそうだ」
「つまり黒くなった木の魔物が、黒いスライムを誕生させたという事?」
ジナルさんを見ると、首を横に振る。
「その辺りは不明だ。ただ、黒くなった木の魔物と黒いスライムには何らかの関係があると思う」
なるほど。
あれっ?
「ソルはフレムから誕生したけど」
ジナルさんには話したよね?
「アイビーがテイムしているスライム達は、別枠だな」
別枠か。
「半透明のスライムは、あちこちで目撃されていて纏まりはない」
ソラやフレムみたいなスライムか。
ちょっと見てみたいな。
「あと、半透明のスライムをテイムしたテイマーの話だが、他のスライムより自我が強いそうだ」
自我が強い?
そうなんだ。
「それと」
まだあるの?
「テイマーとテイムしたスライムの関係が改善されると、スライムの性格に変化が起こるらしい」
「性格に変化って?」
お父さんの言葉に、ジナルさんが笑う。
「性格が凶暴になったり」
えっ!
「まぁ、これについては今までの鬱憤を晴らしているという意見があるな」
力で無理矢理押さえつけていたからかな?
「それと細かい事にうるさくなったとか、凄く面倒くさい性格だとか」
なんだろう?
悪い方に性格が変わっているという事かな?
「それは、個性が出てきただけなのでは?」
シファルさんの意見に、セイゼルクさん達が頷く。
確かに、そういう考えもあるか。
「俺もその可能性があると思っている」
ジナルさんも、同じ意見なんだ。
「あと、色が鮮やかになった子と体に柄が浮かび上がった子もいるそうだ」
それは性格とは別の変化だ。
「性格が変化して問題になっているの?」
「それは大丈夫。今、捨て場を管理するテイマー達は両ギルドで見守っているんだけど、性格が変わったスライム達と楽しそうに過ごしていると報告が来ているから」
それは良かった。
せっかく関係が改善されたのに、元に戻ってしまったら可哀想だ。
テイマーもスライムも。
「と、いう事でソラ達についても隠す必要が無くなってくると思う。まぁソラとフレムの能力については、今まで通りになるだろうけど」
「そっか」
ソラ達を見られても、他にもいるから大丈夫になるんだ。
誰かに、ソラ達を自慢出来るかもしれない。
楽しみだな。




