928話 不審者?
門が見える場所に近付いてきたため、ソラ達を呼ぶ。
「そろそろ門に着くから、バッグに入ってくれる?」
私の言葉に転がってくる4匹。
どうしてシエルまでスライムになって転がっているんだろう?
しかもその姿、ちょっと丸い様な気がする。
「あれっ?」
ソラをバッグに入れるため抱き上げると、いつもより重い?
いや、見た目に騙されている可能性もあるよね。
「どうした?」
「いつもより重い様な気がして」
私の言葉に、フレムを抱き上げるお父さん。
「あぁ、確かにちょっと重いかもしれないな」
やっぱり。
前の時も重かったのかな?
ん~。憶えていないな。
「ぷ~」
不服そうに鳴くソラに「ごめん」と謝りバッグに入れる。
お父さんからフレムを受け取りバッグに入れ、ソルも入れる。
最後にシエルを抱き上げて、目の高さまで持ち上げる。
「丸くないか?」
「お父さんもそう思う?」
まさか、転がりやすい様に変化したのかな?
「どうしたんだ?」
周辺を警戒していたラットルアさんが、私とお父さんの傍に来る。
「シエルがいつもとは違う変化をしているんだ」
「えっ? あっ、丸い」
ラットルアさんが驚いた表情でシエルを見る。
「凄いな。こんな変化も出来るのか」
「にゃうん」
ラットルアさんに、なぜか自慢げに答えるシエル。
それに笑ってしまう。
「アイビー、そろそろ行こうか」
お父さんの言葉に頷き、シエルをバッグに入れる。
「戻って来た」
ラットルアさんの視線を追うと、門の様子を見に言っていたセイゼルクさん達が戻って来た。
「どうだった?」
「大丈夫だ。人の流れも落ち着いているし、集まっていた人もいなくなっていた」
お父さんの質問にシファルさんが答える。
セイゼルクさんとヌーガさんも頷いている。
「帰ろうか」
セイゼルクさんが先頭に立って町へ向かう。
「おかえりなさい」
「ただいま」
門番さんと挨拶を交わしながら、門を通る。
チラッと、奥の部屋を見る。
「いないか」
当たり前だけど、行きに見た女性はいない。
「どうした?」
お父さんが私を見る。
「さっきここを通った時に、奥から女性が出て来たでしょ?」
「あぁ、かなり怒っていた様子だったな」
「うん。ちょっと気になって」
私の言葉に首を傾げるお父さん。
「何が気になるんだ?」
「何が……表情かな? 凄く怖い表情だったよね」
あの表情が気になるのかな?
いや、何か違う様な気がする。
でも、あの表情を見た瞬間に視線を逸らしたから、やっぱり表情が気になっているのかな?
「気になるなら、その女性について調べてみようか?」
えっ?
傍に来たシファルさんを見る。
「そこまではしなくていいよ。ちょっと気になった程度だから」
何かを考えこむシファルさんに視線を向ける
もしかして本当に調べるつもりなのかな?
「シファルさん?」
そっと声を掛けると、私を見て彼が笑う。
「俺も気になるから、少し調べてみるよ」
シファルさんも気になったの?
それなら、あの女性に何かあるのかな?
「任せてくれ」
「うん」
宿に戻る途中、町の様子を見る。
「昨日と違うね」
「そうだな。亡くなった人が出た事で、恐怖が増したんだろう」
町の人達はいつも通りに見えるけど、少し違う。
対面で話す時や、通りを歩く時、少し周りと距離を取るのだ。
これは問題を抱えている町でよく見かける。
「「「「「ただいま」」」」」
「おかえりなさい」
カウンターにいたフラフさんが、私達を見る。
「捨て場は、凄かったでしょ?」
彼女の言葉に、セイゼルクさんの表情が険しくなる。
「凄いではなく、最悪な状態だろう。あれはどうしたんだ?」
「この町の捨て場は、教会関係者に乗っ取られた状態だったのよ。自警団の中にいる奴等の手先が、捨て場の決まり事を勝手に決めてね。テイマー達も捕まっていて、手も足も出せなかったの。教会関係者が捕まって、ようやく捨て場の状態が分かったのよ。言っておくけど、あれでも少しずつ改善しているのよ」
あれで?
「捕まっていたテイマー達が頑張ってくれているんだけど……」
フラフさんの表情が陰る。
「どうしたんだ?」
「彼等のテイムしたスライム達は殺されてしまったの」
えっ!
「教会の化け物が殺されたと分かった時に、テイマー達を監視していた者達が証拠を消そうとしてね。テイマー達は何とか助け出せたんだけど、スライム達は駄目だった」
「そんな……」
ソラ達の入っているバッグに手を当てる。
「新しいスライム達をテイムして捨て場の管理を始めたんだけど、テイマー達は助けられなかった子達に申し訳ないと思っているみたいで」
肩を落とすフラフさん。
「この町のテイマーとテイムした魔物の関係は?」
「とても良かったと聞いているわ。監視していた奴等の目を盗んでは、なるべく一緒にいたそうよ」
それは別々にされていたという事だろうか?
「『いつか一緒に自由になろうね』と約束もしていたらしいの。はぁ……駄目だわ」
パチン。
フラフさんが急に自分の頬を叩く。
その行動に驚いていると、彼女が私達を見て笑う。
「過去には戻れないからね。私が出来る事は、二度と彼等を利用されない様に守る事よ!」
フラフさんは、何度こうやって自分を奮い立たせてきたんだろう?
強い人だな。
「そういえば捨て場には……いえ、何でもないわ。子供達はまだ眠っているわ。魘される事もなかったから、眠れていると思うわ」
「良かった。少し様子を見て来るよ」
ラットルアさんと別れ、部屋に戻る。
扉に鍵を掛け、ソラ達の入っているバッグの蓋を開ける。
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「にゃうん」
「げふっ」
んっ?
ソルを見る。
「今の鳴き声はおかしいだろう。大丈夫か?」
お父さんも気付き、ソルを抱き上げる。
「ぺふっ?」
「「……」」
大丈夫そうかな?
お父さんと顔を見合わせる。
「様子を見るか」
「うん」
今度からは食べ過ぎに注意しよう。
ソルを床に置くと、勢いよく窓の方に飛び跳ねる。
「ぺふっ! ぺふっ!」
「「えっ?」」
急に興奮した様に鳴くソルに首を傾げる。
「どうしたの?」
「ぺふっ! ぺふっ!」
窓に近付き、ソルの視線を追う様に外を見る。
何を見ているんだろう?
「ソルの反応した物が分かるか?」
お父さんも窓から外を見る。
「分からない。お父さんは?」
お父さんが首を横に振る。
「ぺふっ! ぺふっ!」
あれっ?
宿の前にある建物の影に誰かいる。
こっちを窺っているみたい。
「お父さん、不審者がいるよ」
「不審者?」
私が指した方を見るお父さん。
「えっ?」
驚いた声を上げるお父さんに、視線を向ける。
「もしかして知っている人?」
「バンガだと思う」
師匠さんの孫?
隠れているバンガさんを見る。
周りを見ながら、宿の様子を窺っているのが分かる。
「怪しい動きをしているのはどうして?」
「さぁ? 誰にも見られない様に気を付けているのか?」
あっ、こっちを見た。
「俺に気付いたな」
「そうだね」
「ちょっと行って来るよ。鍵を閉めてくれ」
お父さんは私の肩をポンと叩くと部屋を出た。
「大丈夫かな?」
「ぺふっ! ぺふっ!」
ソルを見る。
もしかしてソルはバンガさんに反応しているの?
彼の魔力がおいしそうって?
えっと、会わせない様にした方がいいのかな?




