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98話 作戦決行

-バークスビー団長-


「おぉ、既に討伐隊が組まれてる。さすが団長」


拠点の外からリックベルトの声が聞こえた。

その声に視線を向けると玄関先にボロルダとセイゼルク、リックベルト、ロークリークの姿が確認できた。


「よぉ、討伐隊の準備はほぼ終わっている。問題はあるか?」


「おはよう。討伐隊は副団長の人選だろう? だったら大丈夫だろう」


いつにもまして爽やかなボロルダの表情。

コイツがこの顔をしている時が一番要注意なんだよな。


「そうか。で、どんな奴らの集まりなんだ? 場所は?」


「人殺しの集団で、森の真ん中にある洞窟に潜伏中だ」


「森の真ん中って、確か以前魔物の住処になっていたところか?」


「そうだ」


「人殺し集団について、もう少し詳しく頼むわ」


「全員で少なくとも21人。人殺しで指名手配されているのが10人。調査対象が5人、こっちも人殺し関係だ」


「……ちょっと多すぎないか?」


「まぁな。だがこれは確認が出来た人数なんだ。実際には、これ以上の可能性もある」


「そうか、了解した。気を引きしめないとな」


「あぁ、やばい相手だからな。だが、誰も死なせないようにな」


なるほど、最初に裏切り者を捕まえるのはその為か。

犯罪者達を殺すよう指示されている可能性があるからな。


「分かった」


「団長。拠点から出すのが10人。拠点の守りに残すのが10人です。確認を」


「悪いな、ガボジュラ」


見事だな。

拠点には裏切り者だらけだ。

味方のこの3人は、確か金に困っているという噂があったな。

取り込めると考えたか。


「問題なしだ。大丈夫だと思うが不審者が近づいたら要注意だ」


「分かりました。で、団長はいつ出発を?」


あっ、既に準備は終わっているがいつ行くんだ?

聞いておくのを忘れたな。


「動かれて分散されても困るからな。問題がないなら直ぐに行こう」


ボロルダが、準備を完了させた自警団に視線を向ける。

その時、シファルがヌーガの隣に並ぶのが目に入った。

そして、俺を見てニヤリと笑った。

……怖ろしい。


「準備は完了しているな」


「あぁ、完璧だ」


俺の言葉にアグロップが答える。


「よし、全員よく聞け。相手は人殺しで指名手配されている者も含まれている。気を引き締めて行くぞ!」


俺の声が拠点に響くと、自警団員から少し緊張感が伝わってくる。

だが、これぐらいの緊張感ならちょうどいい。

これからの戦いには。


「俺達は後方を行くよ。あとあいつ等も一緒に」


ボロルダが指さす方には、専門部隊に参加している裏切り者の冒険者チーム。

おそらくそいつらはボロルダ達が確保するのだろう。


「そうだな、逃げた奴らを捕まえるなら冒険者の方が有利か」


「あぁ」


「そちらは任せる。俺のチームはギルドに報告に行くから」


どうやらセイゼルクのチームは、残るらしい。

何の為なのかは分からないが、任せればいいだろう。

ボロルダが手を上げて合図を送ると、うれしそうな表情で近づいて来る裏切り者達。


「ボロルダさんのチームと一緒に仕事が出来るのって久しぶりなので、うれしいです」


「そうか? そう言ってもらえると、俺も本当にうれしいよ」


テンションが上がっている声と冷静なボロルダの声を後ろに、先頭で待つアグロップのもとへ行く。


「出ますか?」


「あぁ、出発!」


町を進むと町人達が、驚いた表情で道を開ける。

これだけの人数の討伐隊を組むことは少ない。

この人数は、そうとうやばい時だけだからな。


「不意をつくってこういう事か?」


「こちらも不意をつかれてますけどね。彼らに」


アグロップがチラリと後方に視線を向ける。

先頭にいるため姿は確認できないが、ボロルダ達だろう。

確かに1時間前には、こんな大所帯な討伐隊を組んで森へ向かうなんて考えてもいなかったな。

まぁ、それは組織の奴らも同じか。

気配さえ感じさせなかった組織の者が、慌てて何処かに行く姿を俺に見られるんだからよ。

敵を欺くには味方からとは言うが……見事だわ。


「ふっ、面白い」


「楽しむのは良いですが、失敗は許されませんよ。ところでずっと気になっていたのですが、その手に持っている物って誰が発案したんですか?」


「シファルだ」


「なるほど。しかし、これも予想していたのでしょうか?」


アグロップの言葉に、密かに後ろを確認する。

俺の後ろには、討伐隊の先頭集団。

その集団は見事に裏切り者の集まりだ。

アグロップに、肩をすくめて見せる。


「さぁな」


それは俺には分からない。

ただ、俺の後ろにこいつらが集まっている理由は、討伐対象を全員殺すためだろう。

それをするには、討伐隊の前に陣取る必要がある。

最初に飛び出して行かないと、確保される可能性があるからな。

やはり、組織からは殺せと命じられているという事か。

そんな事は絶対にさせないがな。

町を出て、森を突き進む。

しばらく進むと、木々が少し開けた場所に出る。


「いいな、ここ」


網を広げるのに、十分な広さがある。

丁度後ろからいい感じについて来ているし。


「アグロップ、準備」


網は2つ預かった。

その内の1つをアグロップに渡す。

先頭を歩く俺が立ち止まると、すっとアグロップが横に移動する。

俺が立ち止まった事で、討伐隊の動きが止まる。

そのまま10秒、アグロップの準備が整うまで待機。

少しざわつく団員達に向かって、後ろを振り向きざまに網を放つ。

俺の行動に、団員達が唖然とした表情をしている。

視界にもう1つの網が空中で広がって、落下していくのが見えた。


「よっしゃ! 半分!」


討伐隊の先導を陣取っていた、裏切り者の約半分ぐらいを確保できたようだ。

網は巨大な魔物を捕まえられる大きさで、頑丈な作りだ。

しかもマジックアイテムなので、獲物が掛かれば魔法が発動し力が抜ける仕様だ。

シファルの奴、よくこんな物を使う事考え付くよな。

力が抜けたのか座り込む裏切り者達の姿を見て、苦笑いしてしまう。

どうやらアグロップも成功したようだ。

……あっ、味方も2人被害に……まぁ、あっちはアグロップだから。

奴に任せよう。


「団長、いったい何をしているのですか!」


討伐隊の先導にはいなかったガボジュラが、足早に俺のもとに来る。

その後ろにはもう1人の裏切り者。

残っているのはこの2人の様だ。

つまり、網に掛かったのは裏切り者20人と……味方2人。


「なんだ?」


ガボジュラの後ろには、慌てている味方の団員達の姿も見える。


「なんだって、何を考えているんですか! こんな」


「ガボジュラ、ダルゴレ。お前たちを確保する。捕まえろ!」


俺の言葉にガボジュラ達の後ろにいた味方の団員達が戸惑った表情を見せる。

まぁ、仕方ない。

何も聞かされていないのだからな。


「団長、ふざけた事を言わないで下さい!」


「そう思うか? ガボジュラ、網の中に捕まっている奴らを確かめろ。ほとんどがお前と同じ人攫いの組織に加担している奴らだ」


ガボジュラの息を飲む音が耳に届く。

その表情は、驚いている。

まさかばれるとは思わなかったのだろうな。


「なっ、何を……言っているのですか? 俺が組織に加担? 誤解も『誤解ではなく真実だろうが』」


ガボジュラの言葉など、聞く必要などない。

味方の団員達は俺の言葉に驚き、そしてガボジュラとダルゴレを不審そうな表情で見つめる。

すぐには、信じられないだろう。

これまで苦楽を共にした仲間達だ。

だが。


「早く捕まえろ!」


時間が無い。

俺の言葉に、ガボジュラが逃げようとするが目の前に剣先が迫る。


「逃がすか、裏切り者が」


アグロップがすっと前に立ちふさがる。

どうやら後ろの混乱はアグロップが抑えてくれたようだ。


「何をしている! 団長の指示にさっさと従え!」


アグロップの怒鳴り声に、唖然としていた団員達が慌てて動き出す。

ダルゴレが団員達に確保され、ガボジュラも後ろ手に縛られた。


「終わりだ。ガボジュラ」


ガクッと力が抜けたように地面に膝をつくガボジュラ。


「団長、副団長。こいつらがあの組織に加担しているのは本当なのですか?」


「あぁ、マジックアイテムで調べた。間違いない」


俺の言葉に、団員達が静かに頷く。

きっといろいろ思う事があるのだろう。


「あの、俺達は……」


網で確保された味方の2人だ。


「あ~、お前らは問題ない。ちょっとしたミスだ……わる『敵を一網打尽するためです。何か問題でも?』」


怖ろしい程の笑顔で、俺の言葉を邪魔するアグロップ。

その表情に2人の顔色が悪くなる。

そして2人を支えている団員達が硬直している。


「……いえ、問題ないです」


「そうですよね。しかしミスは謝ります。許してくれますよね?」


『はい!』


2人の周辺からも同時に声が上がる。

恐すぎる。

とりあえず次の作戦だ。


「お前ら、引き返すぞ」


「えっ! 団長、殺人集団は?」


「あぁ、それは後だ。今は拠点に戻る」


「そうですね。きっと面白いことになっていますよ」


ハハハ、早くいつものアグロップに戻らないかな。


「行きますよ!」


「おぅ」


裏切り者達を移動させる者と、拠点に戻る2つにチームを分けて移動を開始する。

途中でボロルダ達に何をされたのか、真っ白な表情をした冒険者チームを発見。


「何をしたんだ?」


「先輩として、少し話をしただけだ」


マールリークの声にビクつく彼らの姿。


「……そうか」


触れない優しさもあるな。


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