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922話 それぞれの話

部屋に戻り汚れた服とソラ達を連れて1階に下りると、カウンターにフラフさんがいた。


「「行ってきます」」


「待った。2人とも洗濯場の場所は把握しているの?」


フラフさんの言葉にお父さんが首を傾げる。


「冒険者達の広場に行けば分かると思ったんですが」


最初の頃は気付かなかったけど、広場には町の案内版がある。

それを見れば、洗濯場の場所も知る事が出来る。


「あぁ、やっぱり。止めて良かったわ」


フラフさんの言葉にお父さんと顔を見合わせる。


「もしかして案内版がないんですか?」


「そうなのよ。えっと……あった、これね」


フラフさんが折りたたまれた紙を棚から出すと、カウンターに広げた。


「洗濯場はここよ」


フラフさんが指した場所をお父さんと見る。


「宿は……」


「それは、こっち」


宿から洗濯場の位置を確認する。


「宿を出たら右、4つ目の角を左。冒険者達の広場を左に見てそのまま真っすぐで。広場から3つ目の角を左で真っすぐ」


何度か道順を呟き覚える。


「よしっ。覚えた」


「俺もだ。フラフさん、ありがとう。助かったよ」


お父さんの言葉にフラフさんが笑う。


「お役に立て良かったわ。行ってらっしゃい、気を付けてね」


「「行ってきます」」


宿を出ると右に向かって歩き始める。


「フラフさんが気付いてくれて良かったね」


「あぁ。気付いてくれなかったら広場で慌てるところだったよ」


お父さんが、洗濯場の場所が分からないぐらいで慌てるかな?

絶対に慌てないよね。


「どうした?」


「案内版が見つからなくても慌てないよね?」


「いや、あると思い込んでいる物がなかったら少しは慌てるぞ。近くにいる者に聞けばいいから一瞬だろうけど」


「そうなんだ」


全く想像が出来ないけどな。


曲がり角の数を確認しながら、少し周りに意識を向ける。

歩きながらでも噂を聞く事は出来るからね。


「タウの屋台、新作メニューを食ったけどうまかったぞ。食ったか?」


「いや、まだだ。そんなにうまかったのか?」


「あぁ、前のも当たりだったけど、あれを超える味だった」


「それは、気になるな」


私も気になる。

少し前を歩いている2人の冒険者を見る。

着けている防具を見る限り、それなりに経験を積んだ冒険者だろう。

という事は、あちこちで色々な物を食べている筈。

よし、「タウの屋台」は気にしておこう。


「この角を左だったな」


「うん。左だったよ」


4つ目の角を左に曲がる。

冒険者たちが利用する広場に近付いているせいか、通りを歩く冒険者が多くなる。


「ダビス、久しぶりだな」


「クウ、久しぶりだな。任務の帰りか?」


前を歩く冒険者2人の会話に耳を澄ます。


「あぁ、長期任務がようやく終わって町に戻って来たところだ」


「そうか、お疲れ様。あっ、お前は『黒の翼』の奴等と親しかったよな?」


黒の翼?


「あぁ。でもリーダーが変わってからは、そんなに親しくないかな。あいつ等、ちょっと変わってしまって」


クウさんが残念そうに言うと、ダビスがポンと彼の肩を叩いた。


「あのさ……」


言葉を濁すダビスさんにクウさんが首を傾げる。


「どうしたんだ? 黒の翼に何かあるのか?」


「あいつ等に誘われても乗らない方がいいぞ」


ダビスさんの言葉にクウさんが戸惑った表情をしている。


「どういう事だ?」


「金儲け出来ると、借金を抱えている奴に声を掛けて回っているんだよ」


それは、絶対に乗っては駄目な話だね。


「はっ? あいつ等が?」


「あぁ、クウって確か借金があったよな? 妹さんの家が火事になったとかで」


「あぁ、家の修理代を冒険者ギルドで借りたけど、それなら返し終わったぞ」


「そうなのか? それなら誘われないかな」


「そんなにやばそうな話なのか?」


「あぁ。関わらない方がいい」


ダビスさんの真剣な表情にクウさんが頷く


「分かった。教えてくれた助かったよ」


クウさんの返事に、ダビスさんが安堵した表情をした。


「そうだ。アジュンが捕まった」


「はっ? なんで? 今度は何をしたんだ?」


今度?


「飲み屋で大暴れ」


ダビスさんの返答に大きな溜め息を吐くクウさん。


「またか」


「また」なんだ。


「少し、急ごうか」


お父さんの言葉に頷くと歩く速度を上げ、2人の冒険者を追い越した。


「『黒の翼』については、報告した方がいいかもな」


「うん、そうだね」


行方不明の問題とは、関係ない可能性もあるけど。


広場を通り過ぎて3つ目の角を左。

そしてこの道を真っすぐ行けば、洗濯場に着けるんだったよね。


「あっ、お父さん。洗濯場が見えたよ」


少し先に見えた洗濯場。

沢山の人の姿があったので、ホッとした。


「沢山の噂話が聞けそうだね」


「そうだな。役に立つ噂があればいいけどな」


洗濯場に着くと、空いている場所を探す。


「右側の奥か、真ん中だな」


お父さんが指した右側の奥を見ると、男性冒険者の隣が空いていた。

もう一か所の真ん中を見ると、右隣りに40歳ぐらいの女性。

左に30歳ぐらいの女性がいた。

どちらの女性も町人みたいだ。


「こっちにしよう」


町に住む女性の方が、町の事には詳しい筈。


「分かった」


お父さんと一緒に、空いている場所に行く。


「失礼、ここを利用していいですか?」


お父さんの言葉に、2人の女性が私とお父さんを見る。


「「どうぞ」」


「ありがとうございます」


少し頭を下げてお礼を言うと、2人とも微笑んでくれた。


お父さんと協力して汚れた物を洗って行く。

2人分の服はけっこうな量なので、頑張って洗わないと終わらない。


「あら、ツギ―。久しぶりね」


右にいる女性に話しかけたのは、同年代の女性。

あれ?

洗濯していた女性の表情が、少し引きつっている。

会いたくなかった人なのかな?


「久しぶりね、フェス。元気だった?」


「もちろんよ。そうだ、聞いて!」


「えぇ、どうしたの?」


「近所に住むフィフィさん。とうとう離婚が成立したの」


他人の離婚をそんなに嬉しそうに報告していいのかな?


「まぁ」


「あの馬鹿旦那、また酒に酔った状態でフィフィさんに手をあげようとして。偶然奥さんの友人が近くにいて、奥さんの悲鳴を聞いて家に殴り込み。騎士団に連れて行かれた時は、旦那の右の頬が真っ赤だったわ。手の跡ってあんなに綺麗に付くものなので。驚いちゃった」


「フィフィさんが無事で良かったわ」


「本当にね。彼女はこれまでに大変だったから、これからは幸せになって欲しいわ。あっ、そうだ。私の友人の、友人の妹さんなんだけど」


えっ、誰?


「付き合っている方がいるんだけど、その方が気になるのよね。捕まった教会関係者の中に、ススリスという者がいるんだけど、そのススリスと会っていた者に似ているのよね。少し髪色が違うような気もするんだけど。ススリスって、女性を貴族に売っていたでしょう? もしかしてそいつの狙いは妹さんじゃないかって。そうだわ、友人にも注意してあげないと」


「そうね、それがいいわ」


「えぇ、友人にはすぐに注意しておくわ」


「自警団にも相談してみたら?」


「私も自警団に相談しようかと思ったんだけど、今の自警団が今一つ信用できないのよね。1週間ぐらい前だったかしら、自警団の詰め所からフードで顔を隠した者が出てきたんだけど、それがどう見ても教会関係者で捕まった筈の者に似ていたのよね」


それは、逃げ出した者がいるって事かな?


「あぁ、そうだ」


「どうしたの?」


「大通りのフィスさんがやっていたカゴ屋だけど、フィスさんが亡くなってから放置していたのに息子さんが継ぐ事になったでしょう?」


「そうなの? 知らなかった」


「あぁ、継いだのは2日前だからね」


「そ、そうなのね」


「あの店、行かない方がいいわ。その継いだ息子、危ない連中と付き合っているのを見ちゃって。それに店を覗いてみたんだけど、雰囲気が怪しかったわ。気を付けてね」


「分かったわ。ありがとう」


「あぁ、ごめんなさい。もう行かなくちゃ。またね」


「はい」


元気に去って行く女性を見送る。

元々いた女性が溜め息を吐くと、左側の女性が小さく笑った。


「彼女は相変わらずね」


「えぇ、でも彼女の情報はいつも役立つから」


確かに、結構重要な事を話していたよね。

本当の事なのかは調べないと駄目だろうけど。


「うるさかったですよね、ごめんなさい」


ツギ―さんが私とお父さんに頭を下げる。


「大丈夫ですよ」


「はい。問題ないです」


お父さんが私を見るので笑顔で頷く。

それにホッとしたツギ―さん。


「今日は短かったわね。いつもはもっと長いから。本当に」


あぁだから、フェスさんを見て表情が引きつっていたのか。


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― 新着の感想 ―
情報いっぱい
あのおばちゃん凄いな 実は…とかだったりして!!
[良い点] 自警団は元々怪しいですが、この町自体怪しい所がたくさん!やはりデカい話になってきましたね…! 本日更新は無いと思っていたので、更新があって嬉しいです。 私事ですが良い誕生日になりました。
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