921話 自己紹介
「ぷっぷ~」
「んっ? ソラ? おはよう」
目を覚ますと、ソラが顔を覗き込んでいた。
「どうしたの?」
起き上がり、欠伸をしながら周りを見る。
フレムとソルは、シエルと一緒にまだ眠っている様だ。
「ぷ~」
ベッドを下りたソラに視線を向けると、ポーションが入ったマジックバッグの上で飛び跳ねた。
「えっ?」
もしかして寝過ごした?
時計を確認して、ホッと安堵する。
「良かった。いつもの時間だ」
ソラに視線を戻すと、期待を込めた目で私を見ている。
「もしかして、お腹が空いたの?」
「ぷっぷぷ~」
それなら仕方ない……あれ?
「昨日の夜は遅くなったから、多めにポーションをあげたよね?」
「……ぷっ?」
あっ、誤魔化そうとしてる。
「ソラ?」
「ぷ~」
視線を逸らすソラにふっと笑顔になる。
可愛いいなぁ。
「よしっ、ご飯にしようか」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
私の言葉に嬉しそうに鳴くソラとフレムとソル。
というか、フレムとソルはいつの間に起きたの?
「おはよう。朝から元気だな」
お父さんがベッドから起き上がり腕を上に伸ばす。
「おはよう。ソラにお腹が空いたって起こされた」
「そうか。あれ? 昨日の夜は多めにあげてなかったか?」
「そうなんだけど、お腹が空いたんだって」
「ぷっぷぷ~」
お父さんがソラの頭を撫でる。
「今日は、午後から捨て場にも行こうか。あっ、捨て場の状況を聞き忘れた」
お父さんの言葉にハッとする。
「すっかり忘れていたね」
「うん。ジナル、まだ宿にいるかな? 急いで食堂に行こうか」
「うん」
ソラ達のポーションとマジックアイテムを用意し、私とお父さんは服を着替える。
「よしっ、行こう。シエル、留守番を頼むな」
「にゃうん」
ベッドの上でゆっくり尻尾を振るシエル。
「いつも、ありがとう。行ってきます」
「にゃうん」
1階に下り、食堂に向かう。
「この宿の食堂の位置は、他の宿と違うね」
今までの宿だと、分かりやすい所に食堂があった。
でも、この宿は1階の一番奥に食堂がある。
会議室も階段に隠れる場所にあったし、不思議だな。
「「おはよう」」
「「「「おはよう」」」」
食堂に入ると、ラットルアさんと子供達がいた。
ジナルさんやセイゼルクさん達はいない。
もう宿を出てしまったんだろうか?
「アイビー、よく眠れたか?」
「うん、皆は?」
ラットルアさんに笑顔で頷くと、子供達を見る。
子供達はなぜかちらちらと私とお父さんを見る。
それに首を傾げる。
「どうしたの?」
「えっと……」
一番年上の子がお父さんと私の前に来ると、他の子達も慌てて横に並ぶ。
本当に、どうしたんだろう?
「僕はミルス、8歳です。これから宜しお願いします」
えっ、名前?
今まで教えてくれなかったから、何か理由があると思ったんだけど大丈夫なのかな?
「俺はドルイドだ、宜しくな」
「私はアイビーです。宜しくお願いします」
お父さんと私の紹介を聞き嬉しそうに笑ったミルスさんは、チラッと隣にいる弟に視線を向けた。
「僕はアルース、7歳です。……宜しくお願いします」
「宜しく」
「宜しくお願いします」
挨拶を終えてホッとしているアルースさんにお父さんが小さく笑う。
きっと可愛いと思っているんだろうな。
「えっと私は、グーミ……です!」
頬を染め恥ずかしそうに名前を言うグーミさん。
頭を撫でたくなる可愛さだな。
私はよくお父さんたちに頭を撫でられるけど、こんな気持ちになるのかな?
「グーミさん、これからよろしくお願いします」
「俺も、宜しく」
「はい」
元気に答える彼女に、皆が笑顔になる。
「可愛い」
んっ?
少し離れた場所から聞こえた声に視線を向けると、フラフさんが大皿を持って私達を見ていた。
「おはよう。朝ご飯よ。沢山作ったから、お腹いっぱいに食べてね」
そう言うと、次々と大皿を食堂に運ぶフラフさん。
朝から大量だな。
「おっ、上手そうだな。皆、おはよう」
食堂にセイゼルクさん達が入ってくる。
あっ、ジナルさんもいた。
良かった。
子供達がセイゼルクさん達に自己紹介するのを見てから、皆で朝食を食べる。
「ジナル。この町の捨て場の状況は分かるか?」
「あぁ、捨て場か。フラフ、捨て場に見張りはいるか?」
一緒に朝食を食べているフラフさんが首を横に振る。
「今はいないわ」
今はいない?
以前は、見張りがいたという事だよね。
どうして、見張らなくなったんだろう?
「見張りがいなくて大丈夫なのか?」
「駄目でしょうね。今の捨て場は管理する者がいないから、ゴミの山がいくつも出来ているわ。いつか、問題が起きると思うわ」
フラフさんを見ると、複雑な表情をしている。
「この町の捨て場は、教会の連中が管理していたのよ」
「えっ、そうだったのか?」
セイゼルクさんが驚いた様子で、フラフさんに視線を向けた。
「うん。魔物を凶暴化させるためには、大量のゴミが必要になるからね」
あぁ、駄目な理由だ。
「管理していた理由は大問題だけど、整理整頓はしっかりされていたわ。でも教会の連中が捕まって、捨て場の管理をする者がいなくなった。あれから捨て場は荒れる一方よ」
「そうか」
とりあえず捨て場に行くのに問題は無いかな。
お父さんを見ると、頷いた。
「「「「「ごちそうさま」」」」」
「セイゼルク。子供達を連れて病院に行って来るよ」
ラットルアさんの言葉に、セイゼルクさんが少し考え込む。
「分かった。ヌーガも一緒に行ってくれ」
護衛だろうな。
森での事があるから。
「分かった。セイゼルクとシファルは?」
「2人は俺の手伝い。宜しく」
ジナルさんが楽しそうに笑うと、セイゼルクさんとシファルさんが嫌そうな表情をした。
それに首を傾げる。
「人使いが荒いんだよな」
セイゼルクさんに賛同する様に頷くシファルさん。
「ははっ。悪い。悪い。2人が有能だから、つい色々と頼んでしまうんだよな」
全く悪びれた様子を見せず謝るジナルさんに、シファルさんがニコリと笑う。
「やばっ。えっと、やる事が色々あるから行くか」
シファルさんの笑みを見たジナルさんが、慌てた様子で立ち上がる。
「馬鹿だね」
フラフさんがジナルさんを見て呆れた表情をする。
そして、数枚の紙を渡した。
「行方不明者達の資料。分かっている事だけ纏めておいたから」
「あぁ、ありがとう」
真剣な表情で資料を見るジナルさん。
その横から資料を覗き込みシファルさん。
「ここからだな」
「そうだな」
ジナルさんの言葉に頷いたシファルさんは、セイゼルクさんに資料を見せるとある箇所を指した。
「分かった。これを調べるだけで数日かかりそうだな」
セイゼルクさんがパラパラと資料をめくる。
「宿に戻って来る時間が何時になるか分からないから、伝言があったらフラフに伝えてくれ。それじゃあ、行って来る。何があるか分からないから、気を付けて」
ジナルさん達が食堂から出て行くの見送る。
「俺達も行こうか」
お父さんの言葉に椅子から立ち上がる。
「うん」
「アイビー達は洗濯場?」
ラットルアさんが私とお父さんを見る。
「うん。午後からは、捨て場に行く予定だ」
「分かった。気を付けて」
「お互いにな。また、あとで」
よしっ、頑張って噂を集めよう。
あと、汚れた服も綺麗にしよう。




