表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1003/1159

920話 出来る事

「今日は終わりにして、休もうか」


ジナルさんの言葉に、フラフさんが頷く。


「そうね。確かな情報がないから、これからの事も話せないしね」


「そうだな」


セイゼルクさんも賛成の様だ。


「とりあえず、噂の収集と精査。あと、行方不明者の確かな情報を集める事が最優先だな。年齢、性別、家族構成、金の流れは個人と家族。あと友人関係の調査。それに最後の目撃場所も必要だな。やる事が多いな」


「そうね、多いわね」


ジナルさんとフラフさんが溜め息を吐く。


あっ、噂の収集だったら手伝えるな。

明日は、町の洗濯場に行く予定にしていたし。

お父さんを見ると、笑って頷いてくれた。


「噂なら俺とアイビーが集めるよ。明日は町の洗濯場に行く予定だし。帰りに、町全体の様子も確認出来る」


「いいのか? 敵が全く分かっていないから、どれだけ危険なのか分からない状態だけど」


ジナルさんがお父さんを見る。


「協力出来る事はしたい。ただ、不穏な物を感じたらすぐに『あすろ』に戻って来る。アイビーを危険に晒す事はしない」


「それはもちろんだ。アイビーも、いいのか?」


「うん、大丈夫」


ジナルさんに笑って頷く。

噂話を聞いて、町を散策する事なら私でも出来るからね。


「分かった。2人とも頼むな」


ジナルさんの言葉にお父さんと私が笑って頷く。

明日は、頑張ろう。


借りた部屋に戻ると、ソラ達からジトーっとした視線を向けられた。

それにお父さんと首を傾げる。


「ぷぷっ」


「てりゅっ!」


これは、怒ってる?

でも、どうして?


「「あっ、ご飯!」」


お父さんと私の言葉が被る。

ソラとフレムが、その声に反応してその場で飛び跳ねる。

そして


「ぷっぷ!」


「てっりゅ!」


不満そうに鳴く。


「……」


ソルは鳴かなかったが、ジッと見つめられてしまった。


「ごめんね。すぐにポーションとマジックアイテムを出すね」


すっかりこの子達のご飯を忘れていた。

いつもなら部屋を出る時に、ご飯を用意して行くのに。


マジックバッグからポーションとマジックアイテムを取り出す。

ちょっとだけ、いつもより多く。


「遅くなってごめんね。どうぞ」


私の言葉に、3匹が勢いよくポーションとマジックアイテムを食べ始める。


「アイビー、捨て場にも言った方がよさそうだな」


マジックバッグの中身を確認したお父さんが私を見る。


「そうだね」


私が持っているマジックバッグの中身も、あと4日分くらいだ。


「明日、捨て場にも行けそうだったら行く?」


「そうだな。朝、フラフさんに捨て場の状況を聞いてみるよ」


「捨て場の状況?」


「あぁ、見張り役がいるか聞いておかないと」


あっ、カシム町にみたいに見張りが付いているかもしれないんだ。


「そうだ。本!」


「本?」


私の言葉に不思議そうな視線を向けるお父さん。


「うん、ノースについて調べておこうと思って」


マジックバッグから、占い師さんに貰った本を出す。

確か、お父さんの本ではなく占い師さんから貰った本でノースの情報を見たはず。


ページをパラパラとめくる。


「あれ? お父さんが持っている本だったかな?」


「俺の持っている本には載っていないぞ」


お父さんが首を横に振る。


「それなら、やっぱりこっちの本だよね?」


もう一度、最初からページをめくる。

今度は1枚、1枚ゆっくりと。


「あっ、見つけた」


えっと、ノースは小型の魔物で気性は穏やか……人を襲う事は滅多にない。

あれ?

滅多にという事は、襲う事もあるって事かな?


見た目は野ネズミ似ているが、頭に小さな角がある。

毛は、野ネズミより少し長く硬い。

攻撃をすると硬い毛を立たせて威嚇するが、攻撃はしない。

毛色は暗めの緑。

ただし、個体によっては黒や青、茶色が混ざっている場合もある。

稀に毛先が白い個体もいる。


「珍しい個体がいるんだ」


「珍しい?」


私の横からお父さんが本を覗き込む。


「随分とノースについて詳しく載っているな」


「そう?」


「あぁ、毛先の白い個体がいるなんて聞いた事もない」


そうなんだ。


そういえば、占い師さんがくれた魔物の本も、薬草の本も情報がかなり多いよね。

本屋にある本を確認した時は、形だけでなく情報料の違いにも驚いたっけ。


「他には、1年で3回出産をし」


「えっ、3回も?」


「あぁ、ここ」


お父さんが本の一部を指す。

その場所には、確かに1年で3回主産し、1回に6匹から8匹を生むと書かれてあった。


「本当に繁殖能力が凄いんだね」


「そうだな。俺も1年で3回も出産するとは思わなかった。野ネズミで確か2回だったはずだ」


野ネズミは2回なんだ。

それも、知らなかった。


「子供は4ヵ月後には出産が可能となり……これは、村が滅ぶのも分かるな」


「そうだね。こんな速さで増えたら、食料を食べつくされるね」


人を攻撃はしないけど、脅威になる存在がいるなんて初めて知ったな。


本を閉じ、表紙を撫でる。


「本屋さんには、まだ行けそうにないね」


占い師さんがくれた本と同じ本がある本屋。

凄く気になるんだけどな。


「行きたいなら、明日でも行ってみるか?」


お父さんに視線を向ける。


「ジナルさんが『一緒に行きたい』と、言っていなかった?」


「ジナルは忙しそうだから」


お父さんの言葉に笑ってしまう。


「一緒に行く約束をしたよ」


「そうか。それなら問題が解決してからになるな」


「うん」


もう一度、本の表紙を撫でる。


「楽しみだね」


もしかしたら、占い師さんの事を知っている人が本屋にいるかもしれない。

でも、知っている人が見つかったら、私はどうするんだろう?

彼女の行動の意味は……。


「アイビーなら、本を買えるかな?」


本を買える?

あぁ、確か持ち主以外には本が買えないんだったよね。


「私は本の持ち主ではないよ?」


首を傾げてお父さんを見る。


「そうだな。でも、そのままの意味ではない様な気がするんだよな」


お父さんが何を言っているのか、ちょっと分からない。


「俺の勘だ」


お父さんの勘。

それなら、軽視は出来ないね。


「あっ、もう寝てる。疲れていたのかな?」


お父さんの視線の先には、シエルの毛に埋もれて眠るソラ達。

ご飯を食べて、すぐに寝てしまった様だ。


「俺達も、風呂に入って寝ようか? 疲れているし」


「うん。あっ、お風呂の場所は分かる?」


フラフさんに聞くのを忘れてしまったな。


「部屋に戻って来る前に確かめた」


あぁ、部屋に戻る前にフラフさんと話していたのはお風呂の場所だったのか。


「1階の奥に3つあるらしい」


3つ?

男湯と女湯……あと1つは?


「家族風呂らしい」


「家族風呂?」


「あぁ、小さい子供がいると、他の者に気を遣うらしい。だから予約制の家族風呂があるそうだ」


そうなんだ。


「さて、汗を流しに行こう。明日から、色々と動き回る事になりそうだしな」


「そうだね」


お風呂に必要な物を持って、部屋から出る。

鍵を掛けると、1階に向かう。


「あれ? 今からお風呂に行くのか?」


ラットルアさんが階段を上がってくる。

彼の様子から、お風呂に行って来た様だ。


「うん。お風呂は、気持ちよかった?」


「あぁ、良かったよ。旅は楽しいが、風呂に入れないのが問題なんだよな」


ラットルさんの言葉に、お父さんと私も頷く。


私も旅は、好きだ。

初めての場所に行くのも、洞窟で魔石や宝石を見つけるのも。

でも、お風呂に入れないのが難点だ。

体をふくだけでは、物足りないから。


「持ち運びのお風呂があったらいいのにね」


私の言葉に、2人が頷く。


「いいな、それ。ドロップしないかな? お風呂がドロップする洞窟」


「噂を聞いたら、絶対に行くな」


ラットルアさんの言葉に、真剣に答えるお父さん。

そんな2人に笑ってしまう。


「噂を聞いたら教えるな」


「頼む」


えっ、この2人は本気だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 良い点、色々な人の目線の話しもあって 本編以外の違うおまけ感が有って楽しいです。 [気になる点] 難しい漢字が多くて、読み方が分からない事が 多々有ります。ひねり過ぎじゃないのかなと 恨め…
[良い点] みんなが 自分にできることを 知っている [気になる点] 本屋が楽しみ [一言] 持ち運びのお風呂 アイビーなら 作れそう(笑) 家庭用や 自衛隊風呂みたいなのではなく アウトドア風の …
[一言] ハツカネズミは、その名の通り約20日おきに出産するので、それに比べれば・・・年間なら16〜17回出産します。 因みに小型哺乳類では出産直後の数時間に非常に妊娠率の高い発情があって、ほとんど常…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ