プロローグ
シリス・アーレン、本作の主人公に当たる現在13歳の少年。
デルファイア王国の辺境伯、アーレン家の長男にして、数多に存在する無属性魔法と氷魔法に人間離れした適性を持つ天才少年だ。
そんな才能に恵まれて生まれてきた彼には、秘密があった。
シリス・アーレンとはこの世界、イスラーナにおいての彼の名前だ。
シリスの隠している秘密、それは……前世、地球という星で生きていた記憶があるという事だ。
そんな前世の記憶を持ち、天才魔法使いと言われるシリスは現在、底の見えない奈落に紐無しバンジーの真っ最中であった。
今日は、新月。
月明かりのない真っ暗な夜の世界。
現在時刻午前2時。誰もが寝静まった時間帯。そんな時に、それは今行われようとしていた。
真っ暗なホテルの1室。
全ての部屋が真っ暗な中この1室だけは未だに電気が煌々と輝いていた。
そや部屋には今、2人の男が1つのトランクを間に話をしていた。
「これが新型麻薬か、ギヒヒ、これさえあれば俺様の夢が遂に叶う」
そう言いトランクの中に入っている1本の注射器を手に取る、全身脂身たっぷりの豚のような男。
擬似人格発現薬、その麻薬の名前だ。麻薬の効果は強制的に特定の人物の言い成りになる人格を発現させ人間を操るという者だ。
「ヒヒヒ、そいつが後100本だ。お前の要望通りに全て仕上げた」
もう1人の真っ白な研究服を着た男が豚男に報告する。
そんな話を部屋に仕掛けてあった盗聴器を使って聞く人影が、ホテルから200メートル程離れたビルの屋上にいた。
黒髪黒目で、高校生くらいの青年が屋上に寝そべっている。そして、その手にはスナイパーライフルが握られている。
青年は、スコープを覗き込み2度トリガーを引いた。
スナイパーライフルから放たれた2発の弾丸は、2人の男の眉間にそれぞれ吸い込まれるように当たり、頭を吹き飛ばした。
「こちら、黒夜浩輔対象2人の狙撃を完了した」
『こちら指令本部、速やかに本部に帰還せよ』
「了解」
浩輔は、スナイパーライフルをしまいビルの階段を使い下まで降りるとそこには、1台のバイクがあった。
浩輔は、バイクにまたがり周りに人がいないことを確認すると、本部のある場所までの移動を開始した。
コンコン、
「浩輔です」
「……入れ」
「失礼します」
浩輔が部屋に入るとそこには、1人の男が1枚の紙に書いてあることを読んでいた。男は、顔を上げて浩輔を見ると、
「よくやった浩輔、今回の件に関しては全てのお前が2人を暗殺している間に、残りの新型麻薬もこちらで確保し処分が完了した」
「そうですか……早めに対処できて良かったです」
「ああ、今回は情報部の仕事が早かったことに感謝だな」
そういうと男は机の引き出しから1つの封筒を取り出して差し出して着た。
「これは、今回の件と前回の分の報酬だ」
「有難うございます。それでは、明日……というか今日も学校なので失礼します」
「学校もしっかりな。居眠りするなよ」
「……肝に免じておきます」
本部のあるビルから1時間。現在7時45分、浩輔は学校の教室に向かって廊下を歩いている。
もう既に殆どの生徒は登校しているようで廊下に人はあまりいない。
浩輔は、仕事のせいでとても眠かった為、「早く学校おわんないかなぁ」などと考えながら教室に入る。
ガラガラガラガラ、
スライド式のドアを開けるとクラスにはもう既に殆どの生徒が登校していた。
浩輔が教室に入ると生徒たちの視線が集まる。だが、それも一瞬の事直ぐに元に戻って周りの生徒との話に戻って行った。
それから10分、担任の教師が教室に入ってくると、さっきまでとは打って変わってみんな静かになった。
「よし、全員揃っているな。それでは、ホームルームを始める」
そして、そんなホームルームが始まると、案の定睡魔と戦っていた浩輔は、先生の声を子守唄の様に感じながら夢の世界に旅立ったのだった。
現在4時半、とてつもなく眠かった学校が終わり今浩輔は帰宅中である。
バイクは、家にあるので今は徒歩でスーパーに向かって歩いている。今日の晩御飯の材料を買う為だ。
スーパーは学校から徒歩10分くらいの場所にある。
その途中、今浩輔は、頭から血を流し横断歩道の真ん中に倒れていた。
どうしてこうなっているか、理由は簡単。
世界最強クラスのエージェント黒夜浩輔を危険視した組織による“暗殺”である。
暗殺者の持つスナイパーライフルから放たれた弾丸は、1ミリのズレもなく、浩輔の脳天に風穴を開けた。
(いつかこんな日がくるとは思ってたが、意外に早かったなぁ)
最後にそんなことを思いながら、黒夜浩輔は18年の人生に幕を閉じる……はずだった。
黒夜浩輔 18歳
高校3年生にして世界最強のエージェント。
学校での評価は、いつも寝ている(仕事で疲れているから)のにテストは全て満点という奇妙な人物。
今回は、シリスとなる前の前世の話でした。
次回、転生