未来を見上げたら
6話目、完結です。
数日、来希は家に戻ってないようだった。
一緒に飲みにいって、タクシーの中で勝手に手を繋いだ。その日以来だから大分会っていない。
電話した時に忙しいと聞いていた。俺も仕事が忙しくて、時間があわなかったって言うのもある。
いつも通りに仕事を終え、少し今日はいつもよりもハードだったなって思いながら、アパート前の駐車場に車を止める。途中の店で買い込んだビールの箱を片手で抱え込み車を降りた。
ふと見上げると、来希の部屋に電気がついていて、カーテン越しに人が居るのがわかる。
帰ってきたんだ・・。
現金な事にそれだけで俺は少し嬉しくなった。
押しかけるつもりは無くて、俺は自分の部屋へと階段を上る。
そして鍵を開けようと、ドアノブに手をかけると郵便受けの部分にメモが挟まっているのに気が付いた。メモを口にくわえて、ビールの箱と部屋に入る。
数本を冷蔵庫に入れて、2本は冷凍庫へ。そしたら少しは早く飲めるよな。
咥えていたメモを見ると・・。
それは来希からのメッセージだった。
『時間あれば、話がしたいって思ったんだけど。都合いいときに連絡ください。来希』
俺は、そのまま部屋を出た。
同じアパートの、もう一つの階段を上った側に来希の部屋はある。
部屋の前まで来て、俺は止まった。遅く帰宅した俺、今の時間は10時過ぎ。
電話してから来れば良かったと今更ながらに思い、部屋の前で躊躇う。
インターホンを押すと『はーい?』と来希の声がした。
「遅くにごめん。相場だけど・・。」
『ちょっと待って。』
がちゃがちゃとチェーンと鍵を外す音がして来希が顔を出した。
「今、仕事から帰ってきたとこで、ごめん遅くに・・。」
「こっちこそごめん。んと・・時間取れる?」
「ああ。」
テーブルの上にはノートパソコンが上がっていた。USBと走り書きの付箋が張られたメモが雑然と上がっていて、手早く来希はそれを片付けた。
「仕事か?」
「うん。まぁ似たようなものかな。ちょっと時間なくて自宅に持って来ちゃった。」
「忙しいんだな。」
「休む前まではね。その事後処理ってとこかな。」
「旅行でも行ってたのか?」
「実家。なんかね、あんまり頭がこんがらがって、少し落ち着きたかったから・・。」
「そっか。」
「兄貴とかと飲んだり、馬鹿話とかしてたら、なんかすっきりしてきた。相場さんにもいろいろ迷惑かけて、本当にごめん。」
「いや、俺も来希には迷惑かけたし・・。」
「俺ね、相場さんの事、結構好きだよ。それは恋愛感情なのかはまだ分からないけど。
相場さんもしっかり考えて欲しいんだ。相場さんは、俺のいろんな事に関わってるから、同情とかいろんな感情が一時的に恋愛っぽく思えてるのかもしれない。
俺もしっかり考えるから・・でも、このまま一緒に居たら相場さんの事好きになっちゃうかもしれないけどね。」
来希の笑顔は本当に明るいものだった。
俺は・・どうなんだ?来希に頼られるとうれしい、来希の笑顔を見ていたいと思った。来希のぬくもりが愛しいと思った。
男とか女とか性別なんて関係なく、来希という存在が気にかかった。
好きになるってのはその人間を好きになるんだと思う。
「俺は・・来希が好きだよ。来希が側で笑ってくれればいいと思ってる。」
「ありがと。友達からの始まりでもいい?」
「ああ・・ま、たまに手ぇ繋いだり、キスさせてくれるなら。」
「なにそれっ、相場さん最低っ!!」
俺は許可も取らずに、来希を抱きしめた。
喚きながら・・来希は楽しそうに笑ってた。
二人が幸せになるといいなと思います。
この話の相場さんはとんぶりの別の話の脇役で、とんぶりのオリジナル作品の世界は全体的にリンクしてるのでどっかで出てくる可能性があります。